265 ヘイズダンジョンの話1
「さて、まずは偵察程度に足を運んで、オールオールが入り込める道があるか探ってみようぜ」
昨日はルビーさんの追求を話を濁してかわしつつ、先日も使った高級宿屋で1泊。大型のペットと泊まれる宿屋がソコしかないからだが、金は余っているんで問題なしと。
「いやいや、俺はずっと借りっぱなしなんだが、何で返せばいいんだ!?」
「この程度はクランの必要経費だろ。宿代くらいでブツクサ言うなよ」
「普通、それはそれでセリフが逆だと思うんですけれどね」
「朝日が昇る度に負債が積み重なっていくと思うと胸が苦しくて苦しくて」
「オールオールさんも人の子だったのですね」
「負債とか言うな。俺が悪逆非道な金貸しみたいに思われるだろーが」
「かたやプレイヤーと敵対するダンジョンマスター、かたやプレイヤーに恐怖の代名詞を轟かせるビギナーさん。どちらもあまり変わらないかと思いますよ」
「冷血の魔術士と恐れられるレンブンが言っても説得力ないわ!」
「おや、これは1本取られましたねえ。はっはっは」
「ほうほう。俺たちで魔王軍と名乗っても遜色はなさそうだな」
「「いやそれはナナシ」「だけだから」「さんだけですから」」
揃って否定しなくてもいいじゃないかよう。
昨日はジョンさんに「嵐絶と一緒に行こうぜ」と言われたので、案内してもらいながら実際の空気を確かめてみるつもりだ。
【死霊術】の効果を試しに、なんておいそれと口に出せないからなあ。
腰にジャラジャラと武器だの棍だの手甲だのをぶら下げている軽装の俺と、ペット5体プラス聖霊ちゃん1体。真っ黒いローブ姿に幾何学模様の長い杖を持つレンブン。全身黒褐色の革鎧を身に着けた初心者風のオールオール、という統一感のないうちのクランメンバー。
「私はよく知らないのですが、ダンジョンにはダンジョンマスター専用の道という物が張り巡らされていたりするのですか?」
「そこはちょいと見てみないことには俺も分からん。前のダンジョンマスターがよく出歩いてりゃあ、そこかしこに扉はあるんじゃねえか」
「前任者とかおったのか? ゲーム開始時点から不在だったのかもしれないじゃねーか」
「そうしますと、この世のダンジョンは全てオールオールさんの物となりますね」
「ヤメロヤメロ! ヤバい話題に押し込もうとすんな! ほらもう嵐絶と合流すんだろ、ヤバい会話は終了!」
一応PT内会話なので外に聞かれる心配はないが、ジョンさんたちの前でないしょ話などしてたら印象悪くなるしな。
オールオールが話を強引に打ち切ったので、待ち合わせ場所にいたジョンさんたちに手を振った。
「あれ、6人だけ?」
「おう! あんまりダンジョン探索にぞろぞろ連れていくのも邪魔になるしな」
「これでも連れていく人員については散々揉めたんですよ。あそこまで紛糾した会議は今までなかったですね……」
そこにはジョンさんとマイスさんを含む6人しか居なかった。ものすごく疲れた様子のマイスさんと、行動力の有り余っているジョンさんが対照的だ。
他の4人は重戦士と司祭と、マイスさんと同じ神官戦士と火炎魔術士だそうな。2次職になれる人はいいよなー。
「つーか、何か片寄った職種じゃないか?」
「判明してる行程の大半はアンデッドの巣窟ですからね。神聖系魔法と火系統魔法は必須ですよ」
「なるほどー」
火炎系のスキルはさっぱりないからなあ俺は。火を吹くアレキサンダーと魔法戦士のようなツイナと、風・水系統のアスミと聖系統に傾いた水の聖霊ちゃんが役に立つか。
うちの主力というか火力担当のレンブンに視線を向けると、任せてくださいと頷いた。
「ご心配なく。火炎系神聖系豊富に取り揃えておりますよ」
うちら3人の内、自分の手札をフルオープンにしてるのはレンブンだけだからなあ。
俺の【城落とし】は言ってしまっても構わないかもしれないが、オールオールはマジでヤバい。
周辺には他にもプレイヤーやら住人の冒険者やらが居たんだけど、俺を見て明らかに顔色を変えていた。そして別の場所に向かって移動を始めてしまい、今現在ダンジョン入り口前にいるのは俺たちだけである。
「ここのダンジョンは中央に向かう下り坂が続く入り口が8ヶ所ありますからね。むしろ中央の塔に着いてからが本番ですよ」
「それまでが前哨戦という感じなのですが、ボスクラスのシャークレイスが出るのがネックなんですよね」
マイスさんとレンブンの説明になるほどーと、頷いておく。
唯一の救いはそのシャークレイスが1匹しか居らず、8ヶ所の内の何処の通路に出現して、襲い掛かられるのかは完全に運でしかないそうだ。
「ロシアンルーレット以外の何物でもねーじゃねーか」
「その運の悪い奴のお陰で中央の塔に辿り着いた奴等が攻略を進めてるがな」
「クラン同士の協議で、ある程度の情報は共有されることになっています。ナナシさんたちのクランでも、何か新しい発見があったらお願いしますね」
俺のぼやきにジョンさんが苦笑しながら、マイスさんがクランでの取り決めを教えてくれた。
最初の頃はシャークレイスのせいで全滅が相次ぎ、嵐絶や青銅騎士団や黄金時代などの代表的な攻略クラン組で顔を付き合わせて協議を行ったんだとか。
共有化すると言っても、今のところは10階までのようだ。
その先はまだ決まっていないらしい。
「実際のところ、どのクランでもまだ5階までしか到達していませんからね」
「それは凄いのか遅いのか。それともとんでもなく早いのか?」
「比較対象がありませんのでなんとも言えないはずですね」
「最初の頃は掲示板が阿鼻叫喚だったような……」
その頃を実地で知っているレンブンと、掲示板で情報を収集しているオールオールが苦笑しつつ教えてくれる。
嵐絶側も「あったな~」みたいに同意していた。
雑談しているうちに痺れを切らしたのか、ジョンさんが「さっさと行くぞ」と皆を促したことで漸く動き始める。
クラン同士のリンクを繋げてぞろぞろと下り坂の通路を進む。隊列は嵐絶が前で、俺たちが後ろ。
アレキサンダー、俺、オールオール、レンブン、グリース、シラヒメ、ツイナの順である。
「俺は真ん中か……」
「お前は戦えないからお姫様ポジションな」
「鉄壁の壁が前後に控えていますから大丈夫ですよ」
「ぐるるるる」「メエッ!」
「サイしょカラハリキリすギルノモダメですヨ」
ぽいんぽいん
「コケコケ」
「……何だって?」
アレキサンダーのドヤ顔に
「相手がアンデッドなら問題なし、だそうな」
「今の1挙動にそんなに入ってたんかい!?」
通路自体はバスが2台横並びで通れる程ある。ただ形状が鍾乳洞のようになっていて、天井からは鍾乳石が氷柱のように垂れ下がり、足元は凹凸が激しい。
左右も鍾乳石が剣山の如く突き出しているため、何が隠れているか分かったものではない。
「ここで敵がふらふらと出てくる訳か」
「そうですね。だいたいあのような感じでふーらふら、と?」
レンブンが指差す先では鍾乳石の乱立する間から、ゾンビが4体ほどゆらゆらと出現していた。発した言葉が疑問系なのはゾンビの挙動らしい。
「普段であればもう少し駆け足気味で突っ込んでくるんですが、アレだとただ現れたという感じではないかと」
「前方もなんか困惑しているようだな」
俺たちの前にいる嵐絶側も「え? これ殴っていいの?」といった様子で手を出しあぐねているようだ。
【死霊術】スキルの効果で、PTリンクしてある嵐絶もアンデッドから襲われない恩恵を受けていることが確認されたな。重畳、重畳。
結局ジョンさんがチャンスだとばかりに先制攻撃をかまし、ゾンビたちは皆等しく魔石へと変わった
倒すには倒したが納得いってない顔をしたジョンさんたちである。皆が頭上にクエスチョンマークを浮かべている表情がちょっと面白かったかね。
連載再開いたします。
不定期になりますが、リハビリということでひとつ。
お読み頂きありがとうございます。




