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262 契約の話

 オールオールが平常に戻るのに夕方くらいまでかかった。途中でレンブンが心の平穏を取り戻す効果の【神聖魔法】を掛けたお陰である。

 俺も頭を下げて謝罪する。

 監督不行き届きだからな。言付けていた俺の責任だ。


 ツイナはカンカンになったアレキサンダーに怒られたことで、陰を背負ってしょんぼりしている。

 グリースとアスミもツイナを止められなかったことで連帯責任で怒られ、こちらも意気消沈していた。


 第三者から見て「ピョンピョン跳び上がっている赤玉ちゃん可愛い」と言われていたが、実は激オコだったんだぜ、あれ。


 ジョンさんに宴会に誘われ、夜になったら嵐絶が丸ごと借りているという宿に行く予定だ。

 たぶん、ルビーさんから金になるような情報を求められるような気がする。

 何を話したもんかな……?

 

 3人で来ても構わないと言われていたんだが、ただ1人オールオールが難色を示した。


「俺が一緒に行って大丈夫か? ほら、俺ってダンジョンに引っ込むからさ、あんまり顔を覚えられたらマズくないか?」

「あー、適当に誤魔化しておけばいいんじゃね?」

「いえ、嵐絶くらい大きいところになると、鼻が利く人もそれなりに居るでしょうから。後々になって、その誤魔化しが逆にこちら側の不利益にならないとも限りません。なのでそういったことは止めた方がいいでしょう」


 オールオールと俺の会話に割り込んだレンブンが、提案の危険性を示してくる。

 確かに。極々たまーにしか姿を見せないのであれば、「あいつはどーしたんだ?」とか聞かれることもあるかもしれん。その度に誤魔化したとしたら、毎回3人で口裏を合わせる必要が出てくるなあ。


「オールオールは何か誤魔化しが効きそうな職業の当てはあるか?」

「ダンジョンマスター以外に何が出来るって言うんだよ?」

「いっそのこと生産職と偽ってしまっては?」

「生産職?」

「あー、ダンジョンのドロップ品を商業ギルドに卸す以外に、人目に付くような場所に出すのか……」


 レンブンの提案にオールオールは「それくらいならどーにか」と頷く。


「今出せそうな最高級品は何ですか?」

「最高級品!?」

「ええ! 今生産職で最前線を張っている方々の上を行く物を1品提出し、普段はそういったものを作るのに試行錯誤している。とでも言っておけば、長期不在を疑われることもないのでは?」

「ほほう、そういう魂胆かー」


 レンブンの提言に難しい顔をして考え込むオールオール。何かしらのディスプレイを表示させ、ポチポチと操作をし始める。ダンジョンマスター的なアイテム検索かな?


「確か今持ってるポイントを全部使えばオリハルコンの剣くらいなら……」


 オリハルコンかー。ゲームの定番だよなー。

 あれ? そういやー前の宝箱フェアーの時に手に入れた空の宝箱がアダマンタイト製だったような……。


「いえ、それは少々先を行き過ぎですね。原材料となる鉱石も見つかっていませんし。出来れば上級ポーション辺りが妥当ではないでしょうか」

「中級なら俺でも作れるからなあ。今のプレイヤーたちでも中級ポーションが主流なんだな」

「「……は?」」


 レンブンの説明から、プレイヤー間で使われてるポーションが俺の作ってる物と同じなのかと思ったら、2人が変な顔をして停止した。


「な、ナナシさんは中級ポーションが作れるのですか?」

「まずまずといったデキだけどな。ほらこれ。精々HP(ヒットポイント)の25~30%くらいしか回復しないから誇れるモンでもないしなあ」


 震える声のレンブンに作ったポーションを渡す。

 オールオールと一緒になってポーションを凝視してるが、そんなに珍しいものなのか?


「うわマジで中級ポーションじゃん……」

「うーん、これは(まさ)しく中級ポーションですねえ。職人でも成功率が5割というレア物なのに、ポンと渡されるとは思いもよりませんでした。ナナシさん恐るべしですね」

「これで誇れないとか、自己評価低すぎるだろう」

「普段、他の方々との交流が希薄な上に独自の道を行ってますからねえ。比較対象がいないとこうなるんですね……」

「もしかしてディスられてる?」

「「いえ全く全然!!」」

 

 顔を突き合わせてボソボソと会話をする2人。聞こえてるんだよなあ。


 幾度か相談を重ねた結果、上級ポーションを嵐絶にお披露目することになった。

 オリハルコン製の武器や防具となると、クラン間の戦力バランスが傾くのでは? というレンブンからの懸念が出たからである。


 上級ポーションの製造法は秘匿(レシピまでは分からない)し、出来上がったら(ポイントに余裕がある時に)嵐絶へ供給すればいいことにする。つまりは専属契約だな。それもあちらが望めばだけれど。

 ちなみにウチのクランで使わないのか? と問われた場合、俺が中級ポーションを安定供給出来るからと言い張る予定だ。


「そのうちナナシさんが上級ポーションを作り出しそうな気がするんですよね……」

「俺がァ?」


 嫌な予言を提示しないでくれ。

 しかし、作り出すで思い付いた。話は全く変わるが、清浄なる泉ってつまりは水溜まりだよな……。

 俺は神器のたらいをインベントリから出して床に置く。


「たらい……?」

「何をしようというんですか?」

「まあちょっとな。アスミ、これに水を入れてくれ」

「ちー」


 俺が入れるより"神"の名を冠したアスミの方がいいかもしれないと思い、たらいに水をギリギリまで入れてもらう。

 それから水精霊の核をたらいの水の中に放り込んだ。


「あ! おいナナシ、それ! 清浄な泉に入れろって言われたんじゃなかったか?」

「聖水の水溜まりも似たようなもんじゃね?」

「「聖水っ!?」」


 2人が驚くと同時に水面が小刻みに揺れ始め、怪獣が水中から出現するような吹き上がりを見せたところで「ぴゃあああああ!!」という悲鳴なんだか鳴き声なんだかの声と共に、半透明な水色の少女が飛び出して来た。

 出現した半透明の少女は身長が20cmくらい。ヴェールのような布を体に巻き付けている。

 そして腕を上下に振りながら「ぴゃあっ! ぴゅあっ!」と叫んでいた。

 不満をぶちまけてるようにも見えなくもない。

 

「なんだこれ?」

「水の精霊ですよ。とは言っても私の知る水の精霊は「ぴゃあ」なんて喋りませんでしたが……」


【精霊魔法】が使えるレンブンも初めて見る物体のようで、その発言に困惑していた。

 アスミが水の精霊に近付き、「ちー!」と呼び掛けた。

 

「ぴゅあっ!?」


 驚く水の精霊。次にアスミに向かって拝み始める。


「ちー!」

「ぴゅあ?」

 

 続くアスミの言葉に眉をひそめ、自分の体をぺたぺたと触りだす。

 何かを確認してるのか?


「ぴゃああ!?」

「ちー!」

「ぴゃあ!」

「ちー!」


 現状を把握したようで頭を抱えて愕然(がくぜん)とする水の精霊。

 アスミの言葉に姿勢を正した後に、今度は俺を拝み始めた。


「ぴゅあ!」

「ちー!」


 2人でずいと近寄って来ても何が何だかさっぱり分からんぞ。


「すまん、シラヒメ。通訳してもらってもいいか?」

「わカリマシた」


 という訳で間にシラヒメを入れて、再度説明してもらったところによると……。


「ええと、まず最初に(いきどお)っていたのは、前の精霊使いのエルフ(プレイヤー)だと思ったからで。アスミにそれを否定されて素直に謝罪したと」

「ちー!」

「ぴゃああ!」

「それからアスミに何かしらの変化を指摘されて、よく確認したら精霊じゃなく聖霊になっていたと?」

「ぴゅあ!」

「ちー!」


「聖人の聖がくっついた聖霊、って何だ??」

「普通の精霊の何段階か上なんじゃないですか? 私もよくわかりませんけど……」


 レンブンは考えることを放棄したようだ。

 オールオールも頭上に疑問符が飛び交っている。

 

「そんで、その聖霊様はアスミの勧めで俺と契約したいということか?」

「ぴゅあ!」

「ちー!」

「ソノヨうデス、おトウサマ」

「契約したとして、どっちかに不利益とかが発生しないなら別に構わんが」

「ぴゃああ!」

「ちー!」

「アスミサマのケイヤクしゃニ、ソンなペナルティがハッセイスるワケハナイ、そウデス」

「なるほど。どうするんだか知らないが。いいぞ」

「ちー!」

「ぴゃあ!」


 アスミがコクコク頷いたことで水の聖霊はふよふよと俺に近付いてくる。

 そして俺の額に口付けをした。一瞬だけピカッと光った後に、またもや脳内アナウンスが流れていった。


━━水の聖霊との契約が結ばれました。

  【聖霊魔法・水】スキルを取得しました。

  【聖霊の加護】の称号を取得しました。


「ぴゅあ!」

「お? 嬉しいのか?」


 契約が結ばれたことで水の聖霊の言うことが分かるようになった。二重通訳がいらなくなったのは素直に喜ばしいことだ。

 スキルの他に称号も手に入れたようだ。

【聖霊魔法・水】のスキルは【水魔法】と何が違うのか分からないが、そのうち使うことがあれば分かるだろう。

 称号の【聖霊の加護】の効果は、聖霊との親和性が高くなるのと、邪属性への耐性らしい。


「ぴゅあ! ぴゅあ!」

「あー。うーん、どうするか?」

「ナナシさん、水の聖霊様は何と言われたんですか?」

「いや、このまま姿を見せたままアスミたちと一緒にいたいそうだ」

「ああ、そういうことですか」

「連れ回して大丈夫かねえ?」

「今更じゃね」

「え?」


 水の聖霊がこのまま着いていきたいというので、連れ回して騒ぎにならないかと思ったら、オールオールとレンブンが呆れたように溜め息を吐いた。


「もう5体も連れてるんだから、6体になったって騒ぐのは掲示板かサモナー連中だろ」

「今更ナナシさんが常識を疑うなんて止めた方がいいですよ。既に随分前から非常識筆頭ですし」

「……は?」

「伝説とか七不思議って呼ばれてるしな」

「えええええええええっ!?」


 初めて聞く話なんだが!

 俺ってそんな風に思われてたのか!?


「ショックを受けているみたいだな」

「ナナシさんにも普通の感性はあるのですね」

「人を何だと思ってんだ!?」


 ええい。

 早いとこ嵐絶との待ち合わせ場所に行くぞ。

 とっととな!



  

 お読み頂きありがとうございます。


 次回はまだ未定ですが、掲示板が来るかもしれません。

 編集作業中なので滞るかもしれませんが……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 各神器、あまりにも万能で笑う 使い道が多岐にわたる分、一般的に思い浮かべる神器より便利まである
[良い点] よかった今度のヒトガタ枠はマッパじゃなかったか(シラヒメの前例あるからさ・・・) もしそっちだったなら下手するとレンブンとオールオールが目潰しされる可能性もあったかなって
[気になる点] 成功率5割はスキル上げに大量生産してそうな 気がするので、ちょっと高過ぎるかもです。 上級が作れない時点では、2割でも高いかも。
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