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26 バイト先の話


 VR学業内容はというと、ずっと講堂に閉じ込められた状況で延々と授業を受ける。

 時間ごとに教師とクラスメイトが変わっていくというスタイルだ。


 クラスメイトもリアルそのもののアバターを使っている者は少数だ。

 中には着ぐるみの犬だったり、人型のモザイク(何かの身分の高い人)だったりと千差万別である。


 1度講堂の外に出られないか試してみた者は多いが、席から立ち上がることは出来ても席から動くことは出来ないという報告だらけである。


 そういう俺も試してみた者の1人ではあるが、講堂の扉までは到達出来た。

 ただし周囲の生徒諸君からは完全に透明人間扱いだったと言っておく。誰にも注目されなかったからな。

 そして講堂の扉は開かなくてただの壁であった。


 まあ、移動云々(うんぬん)の話は、VR授業を受けた者がネット内に書き込むことが通例ではある。


 で、クラスメイトの話に戻ろう。VR授業は全国の同年代が受けてはいる。

 人によっては飛び級をする者がいるので、同学年内に年下がいたりするのも珍しくない。リアルまんまアバターであればだが。


 学業で使えるアバターはゲームと違って制限が厳しい。

 性別は変えられないし、体格の増減も出来ない。極端な幼女が混じっていたら、それは飛び級をしてきた子だろうという判別がつく。


 性別は変えられないが着込むことは出来るので、ウィッグと服装で女装する者は居るわ、着ぐるみで勇者武装は居るわと話題に事欠かない。



 最近はその中に「あるブイ」っぽい装備を着込んだまま参加している者が増えてきたようだ。


「ああ、それは俺も見たことはあるな」


 貴広に聞いてみたら同意する答えが返ってきた。

 翠はそこまで周囲に気を配ったことはないので分からないとのこと。





「あー! あれってそういうゲームの(よそお)いだったんですねー。私は何のアニメのコスプレなのかと思ってました!」


 バイト先の共演者に同じ話を振ってみたところ、女性の1人が合点がいったと納得していた。


「というか大気さんもVRゲームとかするんですねー。私はきっと家では鍛練ばっかりしてるんだと思ってました!」

「どんだけ鍛練マニアだと思われてたんだよ俺は……」


 他のスタッフさんたちが鍛練発言に頷き、くすくすという笑いがこぼれる。


 彼女は役者志望のアイドルで君鳥(キミドリ)アカネという同年代の女性である。

 番組ではガガーンの正体を知らない、変身前の主人公の妹を演じている。


 それでもって時々怪人がいる現場に居合わせてしまい、ガガーンの正体がバレそうになる。というシチュエーションを脚本家さんや演出家さんと色々模索している強者(つわもの)だ。


 その毎回謀ったようなタイミングは、番組を観ている人たちから「うわ、この女ウゼェ」と称されるくらいである。

 現実にこんな妹を持ったヒーローが居たら、胃痛に悩まされるに違いない。


「お? なんか楽しそうだね。なんの話だい」


 ボサボサ頭に着崩したスーツ姿で俺たちに声を掛けてきたのは主人公役の俳優、群浄春斗(ぐんじょうはると)さんである。


 夜ドラの常連出演者な割に、病床の祖母たっての願いで特撮オーディションを受けたという。

 冗談のような理由で主役を張っている人だ。


 勇者武装ガガーンに変身する主人公は1クール目はニートである。

 2クール目から就職活動を頑張るが、敵の出現が面接時間とかち合うため、毎回失敗するという憎めないドジ青年だ。


 最終回には就職先が見つかるのか、失敗するのかで盛大な賭け事が(もよお)されてると聞くが、どうなのかなあ。


「学業のクラスメイトのアバターの話です。春斗さんの出番、もう終わりですか?」

「いや、監督が陽の角度が気に食わないとかで、20分様子待ち」


「またあ?」

(こだわ)りは尊重するけど撮影時間がどんどん延びるのはなあ……」

「「そーそー」」


 俺のぼやきに2人が同意し、即周囲のスタッフさん共々笑いだす。いつものことだ。


 俺の仕事は春斗さんの遠目での高所スタント。

 これは春斗さんとの身長差が20cm以上あるから、比較対象が近くにいると務まらないことが理由だ。


 たまーに女物の服を着てウィッグを被り、アカネちゃんの代わりに高所からの落下も担当する。

 あとは怪人の着ぐるみで坂を転がり落ちるとか、ビルとビルの間を三角飛びで登ったりもした。


 今回の役目は既に終了しているので、ここで呑気にお喋りに乗じていたり出来るのだが。



「VR学業のアバターか。僕たちのときはアバターがある程度変えられるようになったのが12学年の時だったからなあ」

「それだけ聞くと春斗さんがオジサンのような発言に聞こえまーす」


「それはひどいなあ。まあ、そんな感じだったんで同じアバターがズラリと並んでるという異様な光景だったね」

「「想像するだに気持ち悪い光景ですねえ……」」


 他のスタッフさんからは「マネキンの出荷待ち倉庫だった」とか「クローン人間工場」とかの感想を頂いた。


 途中で別のスタッフさんから投げられた缶コーヒーを、見ないで捕ったら大層驚かれた。


「スゴイ! 大気さん背中に目があるんですか!」

「いやいや、まぐれまぐれ」


「うーん。僕もそうやって自然な感じでキャッチしたいんだよねー。今度コツを教えてくれないかな」

「だからまぐれですって。なんかこう、フワーッと分かったんですよ」


 周りから称賛されたけれど、自分でも首を捻るくらい疑問である。

 なんか周りに人がいるのが分かるとか、存在感を感じ取れるとか。

 うーん?

 12学年=高校3年生の事

 最大16学年まであるが、この世界12学年までは義務教育である。

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