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256 勧誘の話

 スフインクスがいた場所から北に進むと、途中から荒れ果てた渓谷に変わる。

 岩だらけの黄土色で、緑はない。ちょいちょい枯れかけた雑草がある程度だ。

 俺たちが歩いている道は、元は川だったんじゃないかと思われる。ちょっと深めの川の底ぐらいな、真っ直ぐな道だ。

 ざっと見た感じ、あまり人の行き来があるとは思えない。


「道の傾斜から見て、砂漠から流れが来ていたみたいだな」

「砂漠になって水源が消えたのか、オアシスを維持するだけで精一杯になったのか。その辺を精査するのも面白いかもしれん」

「何の学者だよ……」


 モンスターなんかいないんじゃなかろうか。と思う静寂が続き、道の先にリーディアの街壁が少し見えた辺りで団体さんが待ち構えていた。


「うわ……」

「オーク共か。こんな人が来るのか来ないのか分からん道を張ってるとは暇なんだな」

「10匹はいるぞ、大丈夫なのか?」

「お前、俺を何だと思ってんだ。これでもプレイヤー内では有名人だぞ」 

「確かにまあ、そうなんだけど……」


 オールオールは納得が行かないという顔で首を捻る。

 舌舐めずりをするオークの集団なんぞ鎧袖一触だ。

 次の瞬間、オークたちは真っ白な姫路城にぷちっと押し潰されてその姿を消した。

 それと同時に道も塞がる。

 しまった。そこら辺も考えるべきだったか。


「よし、殲滅完了!」

「身も蓋もないな……」

「ユニークスキル持ちを舐めるな、ということよ」

「まあ、そうだな」


 これでここのところ変動がなかったビギナーレベルが1上って48に。【城落とし】のレベルも10から11に上がった。

 そしてアスミも漸くレベルが6になる。


「纏まってくれると助かるよな」

「道が塞がってんじゃねーか。この城は立ったままか?」

「そこは失敗したが、暫くしたら(11時間後に)消えるから気にすんな」

「めっちゃ目立つだろ。こんな荒野に真っ白な城って」


 まあ、さっきはここからリーディアの街壁が見えてたから、あっちからこっちも視認出来るってことだろう。

 坂を登り、元川の水際だった所を迂回すれば、リーディアの街壁上が蜂の巣を突ついたように騒がしくなってる様が見てとれる。


「何か慌ただしくなってるぞ」

「気にするな」

「こっちに走ってくる兵士がいるみたいだぞ」

「そーかい」


 いつぞやの土下座会を彷彿(ほうふつ)とさせる対応だなあ。

 向かって来る兵士が2人しかいないのが違和感を覚える。

 俺と視線が合った兵士の1人が直前で停止し、もう1人もそれに倣って止まった。


「あ、あのっ! 異なる彼方の方のナナシさんでしょうか?」

「おい、名前を知られてるぞ?」

「色々あったからなあ……」と呟きつつ、挨拶代わりに片手を上げると兵士2人は恐縮するように頭を下げた。


「ご案内致します。こちらへ」


 先導して歩き出す。

 声を掛けてきた方はチラチラと此方の顔色を窺いながら、もう1人はさっさと先へ進んでいく。


「何かVIP対応じゃないか?」

「俺の機嫌を損ねて、経済活動に致命的な打撃を受けたらしいからなあ。やったのは信者の連中だけど……」

「お前、いい加減信者らをどうにかしたほうがいいんじゃないのか?」

「何処に行ったら会えるんだろーな、あいつら。実際見かけたことがないんだが。それらしい格好をしてるのか?」

「掲示板だと白装束(しろしょうぞく)を着てるだとか、頭をすっぽり覆う、白い3角帽の被り物をしてるだのと記述があるが、本当のところは知らん」

「何の秘密結社だよ……」


 オールオールと信者についての話をしながら兵士の後に着いていくと、門の審査を何もせんと通り抜けた。顔パスで良いらしい。

 街の中で改めて「どちらに御用事ですか?」と聞かれたので、商業ギルドまで案内してもらう。

 礼を言って中に入るが、兵士2人は外で待ってるみたいだ。

 

「うん、監視が付いてんなこりゃ」

「ナナシに気を使ってピリピリしてるみたいだから、余計な騒ぎの元が接触しないようにしてるんじゃないか?」

「爆弾扱いかよ」

「城で爆撃出来るやつが何を言ってるんだよ」


 受付でギルドカード出してオールオールの登録をしてもらおうとしたところ、なにやら顔色を変えて慌てた職員に別室へ連れていかれた。

 真っ白な狐獣人が出てきてギルドマスターを名乗り、「申し訳ありませんでしたああああっ!!」と頭を下げられた。


「お前今度は何をやったんだよ!?」

「いや、俺も何が何だか……」

 

 さっぱり分からんので、頭を上げてもらってから詳しく事情を聞いてみると。以前にあった、貴族の私兵に恫喝された件のことだった。

 以前に別の支部で謝罪はされていたが、そのお詫びについて商業ギルド内で相当紛糾していたらしい。

 俺がお金をごっそり下したことで、危機感を抱いた者がいたようだ。

 後は信者たちが大挙して押し寄せ、恐ろしいことを呟いていったとか。なにやってんだあいつらは……。


「お詫びになるか分かりませんが、ナナシ様のギルドカードをDランクへ昇級。それと5年間の年会費の免除を」

「は? たしかDランクの年会費って……」

「はい10万ギルですね。これは商業ギルド全体の総意でございます」


 うーん。

 金が余ってるからランクアップだけでもよかったんだが、向こうからの厚意を無下にする訳にもいかねえか。

 Dランクに付随する特典、売り買いする時や競売における手数料の割り引きなどの旨、注意事項が書かれた冊子を貰っておく。

 ついでにオールオールの商業ギルド登録をお願いし、死蔵していた化粧品を競売へ出してもらうことにした。

 プレイヤーに化粧品は、たぶんいらないだろう。


「掲示板で女性プレイヤーが大狂乱になっていた気がするが……」

「そういうもんか?」


 出品についてもいたく感謝され、お金についても何処の支部でも受け取れるようにしてくれた。

 至れり尽くせりで逆に気持ち悪いくらいだ。

 ギルドマスターの見送りというロビーにいた人たちの注目を浴びる出来事を経て、次に案内してもらったのは冒険者ギルドである。


「冒険者ギルドに? とうとう観念して登録するのか?」

「違う違う。クランハウスへの扉を開けるん……」

「どうした?」


 おお、そう言えばここにオールオールがいるなら、クランに勧誘しちまえばいいんじゃね?

 そうすれば魔王領の街中には出られなくとも、クランハウスへの行き来は出来るだろうからなあ。


「よし、オールオール! お前俺のクラン入らないか?」

「はぁっ!?」

「クランハウスにも入れるし、ダンジョン以外でのプライベート空間も確保できて一石二鳥じゃねーか!」

「いやそんなのお前の一存で決めて大丈夫か? 他のメンバーに相談とか?」

「大丈夫だ。俺の他はペットしかおらん」

「ペットとプレイヤー1人だけで結成は可能なのかよ……」


 オールオールに勧誘を飛ばすと、何を言っても無駄だと悟ったのか即決で加入してくれた。

 そして冒険者ギルドでクランハウスへの扉を確保する。ギルドに加入してなくても借りられたが、使用料金に50万ギル掛かった。

 しかし、今の俺にとっては50万なんぞ端金である。


 クランハウスへの扉がずらっと並ぶ通路で、適当な扉を選んでクラン名の書かれたプレートを貼り付ければ登録完了だという。

 ざーっと眺めて見たところ、インフィニティハートの扉はなかった。リーディアって人気ないのかね?

 嵐絶の扉はあり、隣が空いていたので、そこに「我が家」のプレートを貼り付ける。


「「我が家」って……」

「ふっ、俺にネーミングセンスを期待するな」

「威張るところじゃねーだろうよ」


 扉を開けばそこはルレイの屋敷の正面から入った所の大ホール。玄関の扉と出入口の場所は一緒なのか。ウィンドウ表示でギルドに繋げるか、外に出られるかが選べるようだ。

 程なくして、階段に挟まれた中央の両開きの扉が音もなく開き、ルレイが現れて滑るように移動してきた。

 その後ろからアレキサンダーが続き、等間隔を空けてシラヒメとグリースとツイナがゆっくり歩いて来る。しかし綺麗な行列は俺の傍に来るまでで、アレキサンダーたちは好き勝手に俺に体を擦り付けてきた。

 緊張が続かねーな。


「お帰りなさいませ、ご主人様」

 ぷよんぽよん。

「コケケッ!」

「オカエリナサいまセ、おトウサマ」

「がるっ!」「メエェ!」

「ちー!」


 アスミは俺の首から離れるとアレキサンダーの頭の上でとぐろを巻き、報告するように鳴いている。


「1匹増えている、だと!?」

「あら、お客様でしょうか?」


 オールオールが目を見開いてうち震えていると、ルレイが俺の背後に目を向けて(うやうや)しく頭を下げた。


「お客様、ようこそお越しくださいました」

「ルレイ。こいつはオールオール。新しく入ったクランメンバーだ」

「まあ!」

「オールオール。彼女はこの屋敷を管理するシルキーのルレイだ。こっちで分からないことがあったら、ルレイかシラヒメに聞いてくれ」

「はあぁぁっ!?」

「ルレイと申します。よろしくお願い致します。オールオール様」

「オールオールの部屋を用意してやってくれ」  

「分かりました。少々お待ちくださいませ」


 ルレイは現れた時と同じように滑るような動きで、正面ホールを出て行った。

 オールオールはカクンと顎を落としてその姿を見送っている。目の前で手を振ってみたが、目の焦点が合っていないみたいだ。

 そこまでショックを受けるようなことかね?


 次にアイコンタクトか何かでアレキサンダーと意思疎通を果たしたシラヒメが前に出てくる。


「おトウさマ」

「どうした?」

「しぇるばしゃるばサマカラ、デンごんヲアズカッテいマス」

「飲みにでも行こうという誘いか?」

「イエ、ジカんガアルトキに、シロマデかオヲダシテほシイソウでス」

「ええ? 今度は何だよ?」

 ぽよんぽよん。

「ヨウケンは、カオヲみてカラハナスそウデス」

「何か緊急の用事か? そういったことは言っていたか?」

 ぷるぷるぷる。

「ソコまデハワカリマせん」

「……うーん」


 準備を終えて戻ってきたルレイに、オールオールを部屋に放り込んでおくように頼む。

 シラヒメに糸でぐるぐる巻きにされて運ばれて行ったが。

 俺は表示1つで切り替えた扉を開き、城へ行くことにした。


 お読み頂きありがとうございます。

 話の展開上、245話でのクランハウスの設定を一部変更いたしました。

 二重展開を指摘されましたので、一部本文を訂正致しました。ご指摘ありがとうございます。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] やったねオールオール! これで君も魔族側! …あんまり変わらないか?
[気になる点] なにしたら糸巻きされるんだオールオールよ・・・ まさか案内めんどかったからとかか・・・?
[一言] いきがい
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