255 拾得物の話
何か言いたそうなオールオールと一緒にヘーロンから出る。
騒動の後だからか、門番の兵士たちが出入りする者たちの身分確認をしっかりやっているようだ。
オールオールはどうするのかと思ったら、前に見た偽証の冒険者ギルドカードを使って問題なく通過していた。
「よくバレないな?」
「俺もこれについてはどこまで信用していいのかまだ分かってない。外に出ることもあまりないしな。Dポイントがあるうちは良いが、あんまり街に出たり入ったりするなら、何処かのギルドに加入することも考えなきゃならん」
「高いのかそれ?」
「金銭には換算出来ないが、ダンジョンマスター的な稼ぎの数日分だな」
「そう言えば、冒険者ギルドがビギナーでも入れるようになった、とか言ってたが……」
「俺の職業は変更不可だから、さすがに冒険者ギルドには入れん。バレたら袋叩きにされかねんからなあ」
今回行く道は砂漠側だ。
こっちなら真っ直ぐ行けばリーディア、1度追い返された街に着く。
途中スフィンクスがいるけど、今回は聞くことはないかなあ。
国境越えてベアーガ通って、坑道経由でオーク森通るのもオールオールが大変だろうし。
「商業ギルドに加入しとくか?」
「商売をする気はないんだが……」
「ダンジョンのドロップ品を自由に扱えるんだろ? 適当な品を見繕って、月1くらいで競売に流してやれよ。それだけで多分喜ぶとおもうぜ」
「そういうものなのか……。考えとく」
「ま、選択肢の1つくらいでな」
一時期敬遠した商業ギルドだが、後から考えるとあれもまた社会の営みの一例だろうと思えばいいか。
今さら目くじら立てても仕方がないしな。
強引に人から奪えばいいと考える奴らならば、ぶっ飛ばしてしまえばいいだけだ。
次は貴族の私兵だろうが騎士だろうが、ボコボコのバキバキのグシャグシャにして分からせてやろう。そうしよう。
「おい、悪い顔になってんぞ」
「おっといけない」
口元のニヤケをオールオールに指摘されてしまった。感情を表情に出すのを控えないとな。
「ちー!」
「んー? どうしたアスミ?」
首元にいたアスミがほどけて宙に躍り出る。
途端に俺たちの周囲に涼しい風が渦を巻き、冷たい霧が体を覆う。
灼熱の陽射しから俺たちを守ろうとするアスミの配慮だ。
とは言え、俺は【環境耐性】もある上に、ある程度の慣れもあるから、オールオールにだけ掛ければいいんじゃねえ?
「ということなんだが、いいか?」
「何でペットが命令なしで気を使って行動してんだよ。サモナーの一般常識はどーなってんだお前のところは?」
オールオールが頭を抱えてしまった。
サモナーの一般常識と言われてもな。余所は余所、ウチはウチだから。差というものは何処にでもあるだろうに。
「気を使って貰って悪いが、俺も耐性系のスキルは一通り持っているんで不用だ。ありがとう」
「ちー」
「しょげるなしょげるな。お前のその力は、アレキサンダーたちにもひけをとらないんだから、胸を張っていろ」
「ちー!」
空中でしおしおと項垂れるアスミを撫でつつ誉めてやると、しゃきーんと元気になった。
砂漠の道中に出てくるのは蠍の姿をしたスコピオと、一見ミミズのラージワームと麻痺毒持ちのサンドリザードだ。
それに前のアップデートで追加されたデザートスネーク、全長3メートルくらいの薄茶色の大蛇だ。
コイツは毒持ちで口から毒を飛ばしてきやがる。
ドロップ品は毒薬と皮と肉。
後はサボテンマンという人型の動くサボテンがいるそうな。
「掲示板で見た話だと針を飛ばしたり、そのまま抱き着いてきたりしてダメージを与えてくるそうだが……」
「まあ、中近距離戦に特化したエネミーってことだろうが、あれだと関係ないよな」
「ああ、相手があれではなあ……」
砂丘をズバーッと撫で切りにしたウォーターカッターにより、サボテンマンが袈裟懸けに真っ二つにされたところを見て、オールオールが遠い目をしている。
遠方から赤いマントをはためかせて綺麗なフォームで駆けてきたサボテンマンに、アスミの放ったウォーターカッターが直撃した瞬間だ。
砂漠に入ってから出てくる敵に対してアスミが滅茶苦茶張り切っている。
スコピオとラージワームにウォータージャベリンを叩き込み、サンドリザードとデザートスネークはトルネードによって細切れにされるという徹底ぶり。
「おお、やることがない」
「経験値は人数割りで入ってるんだろ? 普通のテイマーならペットは戦闘補助に回るらしいが、お前のはあれだけで一騎当千じゃねーか」
「たぶんアレキサンダーたちに追い付きたいんだろう。アスミだけまだ5レベルだからなあ」
「あれだけ無双してて一桁レベルなのかよ!? 初期ステータスが高すぎるわ!」
オールオールが目を見開いて驚いていた。
そりゃあケツァルコアトルという神、いや神蛇なんだから強いんじゃないのか?
知らんけど。
ペットたちが仲良く育ってくれりゃあ、特にいうことはないね。
「ちー!」
「お疲れさん」
周辺をあらかた駆逐したアスミが、小さな翼をぱたぱたと振ってご機嫌な様子で戻ってくる。
「ちー!」
「なんだこりゃ?」
アスミはくわえていた何かを、ポトリと落としてから定位置だとでもいうように首に巻き付く。
渡されたのは綺麗にカットされた青い石だ。宝石かと思ったが【アイテム知識】によると全然違うものだった。
「ナナシのペットは何を拾ってきたんだ?」
「水の精霊の核だとよ」
「何でそんなのが砂漠に転がってんだよ!?」
「俺にも分からないことを聞かれてもなあ……。オールオールは掲示板をよく見てるんだろ。そういう拾得物とか知らんか?」
「さすがに俺も隅から隅まで見てる訳じゃねーからなあ。……んー、ん? と? ずいぶん前にエルフプレイヤーの精霊の扱いが酷い、という話は聞いたことがあるな」
オールオールが首を傾げて、額にシワを寄せて難しい顔をして、捻り出した話題はそれだった。
「扱いが?」
「住民のエルフに苦言を言われたとかなんとか。プレイヤーエルフらが愚痴ってたぜ」
「それは苦言と受けとらないで、文句と受け取ってるだけじゃねえの? 住民には反省の色がない、と思われてるとか」
「エルフ種族を高慢ちきにしているプレイヤーがいるのは確かだな」
「どーいう選民思想遊びだよ……」
ゲームで威張って楽しいのか?
王様プレイングとはまた違う意味だろうな。ミドリちゃんがそういったプレイヤーに出会ってなきゃいいが。
「で、どーすんだその精霊核?」
「詳しい奴がすぐそこに居るから、どう扱えばいいのか聞いてこよう」
「詳しい奴? 情報屋の知り合いでもいるのか?」
「もっとあからさまに詳しいと思うぞ。プレイヤーでも人間でもないが……」
「???」
オールオールがクエスチョンマークを出して首を捻る。
ここが砂漠で幸いだった。魔の森だったりすると往復が面倒だからな。
と、言う訳で真っ直ぐに向かったのは、通りすぎる予定だったスフィンクスの元である。
『我を倒せし者よ。此度は何用か?』
オアシス先のスフィンクス周りには、前より多いプレイヤーがひしめき合っている。
俺が近づくといぶかしげな顔をされた。やっぱりアレキサンダーたちを連れてこないと、ビギナーと認識されないんだなー。
オアシスの北側には前に来た時はなかった新しい建造物が出来ていた。
ドーム状の壁に囲まれた建物は、有志のプレイヤーたちで掘り出した温泉施設だそうな。
よく砂漠を掘ろうなんて思ったよな……。
他にもプレイヤー相手に商売をする商店なんかが店を出したりしていて、街のようなものが出来かけている。
その内、実験のために攻め込ませてもらうから、それまでに大きくなっておいてくれよ。
さてスフィンクスに宝石を見せると、【アイテム知識】の結果と同じく、水の精霊の核だと言われた。
『砂漠に落ちていたと? フム、酷使された結果、力を失い核に戻ってしまったのだろうな』
「酷使すると核に戻っちゃうのか……」
『ウム、今頃、其奴を使役していた術者はその資格を失っているだろう』
「ふーん」
「え?」
そういうものなのかと思ったが、横で話を聞いていたオールオールはビックリしていた。
スフィンクスによると、核に戻るような酷使された精霊は、怒って術者を見限ってしまうらしい。
それと同時にスキルも失い、再取得は出来なくなるということだ。
「悪名が精霊の間にでも広がるのか?」
『図らずとも間違いではない』
「マジか……」
「そうなると精霊魔法が使えないエルフプレイヤーが誕生することになるみたいだな。ま、知らんけど」
「他人事かよ」
「他人事だが」
オールオールの考えは分からんが、親しい友人以外はどーでもいいというのが本音だ。
ゲームの中であれば、翠と敵対……するくらいなら構わないかもしれん。
俺よりプレイ時間が長い(と思われる)翠と戦ったらどうなるのか、経緯はともかく結果は見てみたいところではある。
「ところでこれを復活させるにはどうしたらいい?」
『ウム、清浄な湖などに放り込めば息を吹き返すであろう』
「そうか分かった。ありがとう」
『また何か知りたいことがあったら来るといい』
知りたいことが聞けたのでスフィンクスのところから離れると、キツネにつままれたような顔のオールオールが首を捻っていた。
「やけにあっさりだな」
「疑問は解消したし、何かあったらスフィンクスの言う通りまた来るさ」
周囲にたむろしてたプレイヤーの幾人かは絡みたそうにしていたが、スフィンクスと会話をする俺たちを見て距離をとっているようだった。
もしかしたら嵐絶の関係者だと思われていたかもしれん。
ここには知り合いもいないようなので、無用ないざこざを避けるためとっとと離れよう。
いつもお読み頂きありがとうございます。
誤字報告もありがとうございます。
片手が原因不明の痺れと痙攣に襲われていたのですが、発生と同じよう自然に(唐突に?)治りました。
医者に掛かって処方してもらった薬のお陰なのかはよくわかりません。
肘の神経や首の神経圧迫でもなかったし。一体何が原因だったんでしょう……?




