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252 続々々・気付かれない話

 引き続きオールオール視点です。

「ポーション中毒者」というナナシの発言に、チンピラたちは心底理解できないといった態度で侮蔑の視線を向けている。

 俺もさっぱり意味が分からんのだが?


「あれ? 理解できていない?」

「当たり前だ!」

「ちょーしこいてんじゃねーぞ!」

「テメェのようなガキなんざ、ボスにかかれば簡単に潰されるんだからな!」


「おいおい……」


 虎の威を借る発言に呆れるしかない。

 ナナシに至っては荒事は慣れっこと涼しげな顔で、チンピラたちの暴言に何処吹く風の如くほほんとしていた。


「つまり君たちは、ポーションで癒される快楽を切望しているということだね?」


 にっこりと笑うナナシの笑顔に冷や汗が止まらない。

 鈍感なチンピラたちはそれを感じ取れないらしく、強気の姿勢でナナシを威嚇している。

 知らないってこえーなー。


「ごっ!?」

「がっ!?」

「びぇっ!?」


 ナナシがチンピラ共の間を幽霊のようにふわっと通り抜けると、三者三様の悲鳴をあげた奴らが床に這いつくばった。

 何をしたのかよく分からんが、チンピラたちの膝が普通では曲がらない方向へへし折られている。

 ……あの一瞬で何をどうやったんだかサッパリ分からないが、ナナシの仕業だ。

 飄飄(ひょうひょう)とした普段の態度とは裏腹に、たまに恐ろしくなるよな、あいつ……。


 通り抜ける瞬間に、施療院から盗られたアイテムも取り返していたようだ。

 ナナシはにこやかに、チンピラその3が奪っていたポーションを修道女(シスター)たちに渡してやっている。

 その彼女たちでさえ、お前の所業に恐れおののいてるからな。

 少しはそういうところに気を使え。


 そして再びチンピラに向き直り、ぐしゃぐしゃになった顔で痛みに耐えている奴らの前に自分の(ふところ)から取り出したポーションをひとつずつ置いていった。

 敵に塩を送るってやつかな?

 しかしそんな俺の思い込みは、全くの間違いだった。


「ほーらほーら、これを飲むがいい」

「な、……何の、つもりだ……?」

「ポーション中毒者にポーションを進呈してやってるだけだろうが」

「こ、これで、お、恩を、うった、つもり、か?」


 リーダーぽい奴が汗をダラダラと流しながらナナシに問い掛ける。

 ナナシはナナシで邪悪な笑みを浮かべながら、チンピラたちに笑いかけていた。

 普通これ、シチュエーションというか、正義と悪が逆の場面だよな?

 巨悪に挑んだ勇者が無様に負けた感じの、ホロミュージアムの定番なオープニング的な。


「それで怪我を治したらまたへし折ってやるよ。回復はポーションで事足りるだろ。治る快楽に身をやつしたお前たちの手助けくらいはしてやるぞ」

「いや、鬼か!?」


 人としてそれはどうかと思うぞ!

 青白い表情で震えるチンピラたちと、ドン引きしながら突っ込む俺。

 修道女(シスター)たちなんか固まってるぞ。どーすんだこの空気……。


「て……」

「て?」

「テメーのような狂人に付き合ってられるかあああああっ!!」


 チンピラその1だけがポーションを勢いよく飲み干し、絶叫を上げながら施療院を飛び出して行った。ナナシはそれを追撃もせず見送っていた。

 あの飲み干した一瞬で治ったのか?

 ナナシのポーションは本当にポーションと呼んでいい物なのか(はなは)だ疑問である。

 置いて行かれたチンピラ2と3は「ま、待ってくれよ~」と弱々しく鳴きながらその1の後を追う。

 ナナシのポーションは飲まず、這ったり転がったりしながらだ。


「おいおい、逃げたぞ。良いのか?」

「ん? ああ、平気平気。影に後を追わせたからね」

「……影?」

「あ、んー? まあオールオールなら言いふらしもしないからいいか。スキルの【死霊魔法】でシャドウっていう魔法生物を呼び出して、チンピラ共の後を追わせたんだよ。奴らのアジトが分かれば影が知らせてくれるから、そしたら強襲しようぜ!」

「いや、そんなもん何で持ってんだよっ!?」


 よりにもよって【死霊魔法】だと?

 滅茶苦茶やばい奴じゃねえか!

 掲示板で記述を見たことあるが、人間には習得不可能って聞いたぞ。


「割と最初から持ってたぞ」

「いやいや、そんなあっけらかんと暴露するものではないからな? はぁ……。お前に常識を説こうとする俺が馬鹿だったわ。忘れてくれ」

「なんで俺が呆れられてるのか全く分からんのだが……」

「ちー!」


 主従揃って自分たちのハチャメチャさを自覚してないらしい。

 とりあえず常識が通じない奴には何を言っても無駄なようだ。


 散らかった施療院を片付けて患者たちをナナシのポーションで治療すると、最初ナナシの所業に恐れおののいていた修道女(シスター)たちも態度を軟化させ、俺たちに礼を言って頭を下げていた。

 その直後、ナナシの放った影がチンピラ共のアジトを探し出し知らせてくれたらしいので、施療院を離れ街の南東へ向かうことになった。


「なんかメダルみたいなもん貰ったけど、これが印とはね。他のもみんなこんな形状なのか?」

「時と場合によっては書状みたいなのもあるらしいが、俺が貰ったのは全部メダルだったなあ」


 ナナシは既に国境の砦を通り抜けているので礼のみ。

 俺は修道女(シスター)たちから謝礼という名のメダルを貰った。

 これが印だという。

 あと2つ必要だが、さっきみたいな騒動に巻き込まれずに済むといいな……。

 チンピラ共は街の南東の端のスラム街(取り壊し寸前の廃墟だらけ)の一角に集まっていた。

 俺たちは奴らが集まっている少し大きめの家屋(ボロボロになった屋敷)より、やや離れた場所に立っていた。


「おいちょっと待てナナシ! これ本当に向こうから見えてないんだろうな?」

「一応お前の前に透明な壁を立てて、表面に後ろの風景を映し出しているつもりなんだが。忍者の風景隠れみたいな? でもあまり大きな声はバレるかもしれないぞ?」

「お前の言い方が曖昧過ぎることばかりだからだろうが! 頼むから安心できる説明をしてくれ!」


 ガチガチに固まっている俺を余所に、ナナシの態度は堂々としたものだ。

 奴らのアジトどうやって近付こうかと考え込む俺に対して、ナナシが「俺にいい考えがある」というから任せてみたが、何時バレるかと気が気でならない。

 ナナシは何かのスキルで二人の前方に透明な壁(触れることは出来る)を作り出し、背後の風景を映しながら前に進もうと言い出したのだ。

 できれば体の周囲を覆った方が確実なんだが、スキルのレベルが足りなくて前方だけに展開するのが精一杯なのだそうな。

 お前とペットは戦えるからいいが、何故に非戦闘員の俺まで一緒に行かねばならないんだ!?


「大丈夫だ。あいつらがお前に手を出す前に、俺があいつらをぺっしゃんこにする」

「大惨事になる未来しか見えねえ」


 チンピラ共は50人近い大所帯で、驚いたことに奴らのボスはいいところのお坊ちゃんみたいなチビデブだった。金持ちの道楽か?


「これは、金をばら撒いて適当にチンピラを集めた感じがするな……」

「こういうのはちょっと痛い目を見せてやれば、すぐ瓦解するだろう」


 俺の呟きに同意したナナシは、直ぐに自分の手元で何かを操作し始めた。

 こんどは何のスキルを使うつもりだ?

 というか、この状況ですぐに対応できるスキルがあるのかよ!?

 さすがスキルを一般人の倍持つ男。頼もしいのか恐ろしいのか……。

 ゲージは明らかに不安の方に振り切っているだろうが。


「よしよし、試運転にはちょうどいい」

「……()()()?」

「土地の魔力を1割借りて、出でよスケルトン! チンピラ共を懲らしめよ!」

「は!?」


 ナナシの呼び声に呼応して、見える範囲の地面を割り、無数のスケルトンが出現した。

 周囲には見渡す限りを埋め尽くすスケルトン。

 遠くから悲鳴も聞こえて来る。

 もしかしてヘーロンの街の全域にスケルトンが出現したんじゃないか?


「……あれ?」


 召喚主が首を傾げてんじゃねええええっ!?


 お読み頂きありがとうございます。

 いつも誤字報告してくださる方々もすみません。


 左手が謎の麻痺に襲われ、治療してました。

 発生もいきなりで原因も不明だったので、完治はまだしてませんが治療に当たった医者も首を捻るしかなかったという……(笑

 

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― 新着の感想 ―
[一言] これ、四天王の侵略の効果か。 普通に設定忘れてた…
[一言] ほら……ナナシさんですし(汗)
[良い点] 久しぶりの更新ありがとうございます [一言] いろんな症状があるでしょうが、例を一つ。帯状疱疹ウィルスが神経系に作用してずっと感覚がおかしいと言ってる身内もいますのでお気をつけて
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