250 続・気付かれない話
さすがにリングベアの所に辿り着くまで遭遇戦はなかった。
こういう時はリンルフとかもきちんと空気を読むらしい。たぶんだけど。
「ここら辺はいつもこんな平和な道中なのか? 掲示板を見る限りでは、阿鼻叫喚な事件が頻繁に起きると聞くが」
「阿鼻叫喚はちょっと分からないかなあ。リングベア待ちの列にPKが襲いかかる話はよく聞く」
「リングベアも一時期、誰かさんのせいで長蛇の列だったというじゃないか」
「……ドロップ率に関して俺は関与してないからな。俺のドロップ率が変だとしても、それはスキルのせいだってだけだ」
「噂に聞く“ビギナーさん”のスキル構成か。それはそれで興味のそそられる話だな」
「ユニークスキル以外はありふれたもんだと思うがね。他の人の平均はよくわからないが、俺はほんの60個くらいだ」
「ぶっ!?」
ステータスウインドウを開いて、ひのふのと数えたスキル数を申告すれば、オールオールが盛大に噴き出した。
目を見開いたまま、何か言いたげな顔でこっちを見てくる。
「どうかしたのか?」
「いやいやいやいや、60個とかなんだそりゃ!? 数がおかしいだろ、どーなってんだお前のスキルはっ!」
「……。もしかして他のプレイヤーはもっと少ないとかか?」
「多くてもその半分あるかないかだろ。尤も俺が知っているのは、掲示板で自己申告した奴らだけくらいなものだが」
「えええ……」
初めて知った驚愕の情報である。
俺のスキルがやたら多い理由は、確実にPKから簒奪したからだろう。だからといって10人も奪ってなかったと思うんだ。
手持ちの魔法は半分くらいPKからだからな。
他には職業特性上、やたらと習得が早いからじゃないかな。
ああ、でも魔女の修行中に得たスキルはともかく、シェルバサルバに貰ったスキルなんかは真っ当な手段で得たもんじゃねえな……。
「掲示板なんかで聞こえてくる話より、普段の行動も相当オカシイんじゃないのか、お前?」
「いやー、どうなんだろうなあ? 俺自身はふつーにゲームを楽しんでいるつもりなんだがなあ……。はははは」
「“ビギナーさん”の普通かあ。全く想像できんな。そこはかとなく恐ろしい行程のような気がしないでもない」
オールオールの疑問に素直な答えを返せない。渇いた笑いで返事とするしかない状況だなこれ……。
ちなみにここまでは一応パーティを組んでいる仲間同士でしか通じないパーティ会話で話している。
前に並んでいる4人組も同様で、あちらも会話をしているように見えて声だけ聞こえてこない。だが、それで何かを決定したのかパーティ会話を切って、盗賊っぽい男がこちらに声を掛けてきた。
4人組の見た目は、ギターのような楽器を背負った吟遊詩人っぽい男と、杖持ちの魔法使いと、大剣を背負った戦士と、軽薄そうな盗賊だ。
2次職になっていたら本職はどうだかわからんが。
「なーなー、あんたら初心者か?」
いや、人に声を掛けるならそれなりに最低限の礼儀ってもんがあるだろう。
馴れ馴れしいにも程があるわ。
オールオールも警戒した態度で後ろに下がっている。
そんなことにも気付かないのか、相手は再度同じことを問いかけてきた。
「あれ? 聞こえなかったかな? あんたら初心者なのかい?」
「初心者かどうかがお前たちに影響するのか?」
警戒してますよって態度を全面に押し出して逆に問い掛けてやれば、盗賊の後ろで眺めていた他の3人がニタニタした笑みを口に浮かべていた。
あれは完全にこちらを下に見てる奴等特有の態度だな。恐喝か強盗の可能性もなくはない。
一応俺もオールオールも第1期プレイヤーの筈だ。
……あ、でも、アレキサンダーやシラヒメを連れてない俺は、ビギナーとは認識されてない可能性もある?
「初心者かどうかはともかく、その見たこともない装備は興味があるねぇ」
吟遊詩人ぽいプレイヤーが舌舐めずりをしながら、オールオールの装備に目を向ける。
奴の職業からすれば、確実にプレイヤー内では珍しいブツだろう。
奪われて調べられたりするとオールオールの職業バレにも繋がるので、念のため準備はしとくべきかな。さっから頭の中で警鐘が鳴りっぱなんで。
「俺にくれよぉ!」
吟遊詩人ぽいのが前2人の背後に隠れた瞬間、蛇みたいな笑みを浮かべて叫んだ盗賊ぽいのの首元からナイフが飛んできた。
想定内だっつーの。
オールオールの踵を蹴り、首裏の鎧を掴んで後ろに引き倒す。
毒を付加したと思われる緑色のてらてらとした刃のナイフは、オールオールの前髪を掠めて何処ぞへ飛んでいった。
オールオールは倒れた衝撃で「ごふっ!?」と息を詰まらせていたが、そのまま寝てくれていた方がありがたい。
魔法使いぽいのが杖を構えた場所を狙って事前準備を終えていた魔法を解き放つ。
「なあっ!?」
直ぐ様、地面を割って剣を持った4体のスケルトンが躍り出る。
視界を塞がれた魔法使いぽい奴は目の前に立ち塞がった存在に目を剥き、発動しかけた魔法をキャンセルした。
ファイヤーボールか何かか?
そのまま撃ったらスケルトンに当たって、自分も爆発範囲に巻き込まれるだろうがな。
「ごぼぼっっ!?」
「ごぶはっ!?」
戦士ぽいのは背中に背負った大剣を使わずに腰から短剣を抜いたところで、背後の吟遊詩人と共に彼らの背丈を越える立方体の水にどぷんと閉じ込められた。
目を見開いて驚き、慌てて手足を大きく振って脱出しようともがくが、水中は変な流れが発生しているらしい。
言うまでもないがアスミの魔法だ。
なーんも指示してないが、適当にやってくれているところは感嘆するね。
2人は中心で浮きつつ、赤ン坊が一生懸命に体を動かすような動作しか出来ないようだ。
その内呼吸がままならなくなり、口と鼻を押さえて苦しみもがきはじめた。最終的には大量の泡を吐き出すとぐったりして動かなくなり、水中で漂うだけになる。
敗北が確定した次の瞬間には2名とも砕けて消えていった。
「ちー!」
それを為したアスミは「やってやったぞ!」というように隠れていたとこから躍り出て、空中で器用にぴょんぴょん跳ねた。
仲間が苦しんで死んでいく様を唖然として見ていた魔法使いぽいのと盗賊ぽいのは、アスミを見るなり真っ青になって悲鳴を上げる。
「お、おおおおお前お前お前えええっっ!?」
「そそその従魔を持ってるってことはあああっ!?」
「何でビギナーがこんなところにいるんだよおおおおっ!?」
「気付くのがおせえっ!」
まあ、こっちは唖然としている間も動きまわっているんだが。
スケルトンを魔法使いぽい方にまとわりつかせて、俺は裂帛の踏み込みと共に盗賊ぽい奴の脇腹から抜き手を体内に突き刺した。
「ぐえええっ!?」
勢いを維持したまま体内で肋骨を掴み、盗賊ぽい奴を持ち上げて魔法使いに叩きつけた。
一旦射線を空けてくれたスケルトンたちは重なって倒れた魔法使いぽいのと盗賊ぽいのを錆びた剣で滅多刺しにする。
まあ、防具に阻まれて大したダメージを与えられないので、後方に跳んで距離をとり、城を落っことすが。
スケルトン諸共安土城の天守閣に圧殺されたPK2名は、膨大な継続ダメージを受け続けて、(盗賊は俺から受けたダメージによってあっさりと)あえなく消滅した。
「ちー!」
「よしよし。アスミもご苦労様だ」
「なんつー力業か……」
「アレキサンダーたちがいると、俺が手を出す暇もないからなあ。相手がこっちを侮ってくれて助かったぜ」
「ちー!」
オールオールは打ち付けた頭を押さえつつ、聳え立つ安土城を見上げて唖然と呟く。
当然の如くPKを倒したから【強奪者】の効果で得られたスキルの通知がウィンドウ上に浮かぶ。
今回は【詩吟】と【強打】と【水属性強化】と【防御力強化】である。
【詩吟】は歌うスキル。あんまり使い道がなさそう。
【強打】は打撃の武器スキルだが【拳豪】の方で取得しているからそこに吸収されて、ダメージにいくらかプラスされるように。
【水属性強化】は魔法と属性の付いた武器による攻撃の強化。【水魔法】もロクに上げてないのになあ。
【防御力強化】は称号の【後先考えぬ者】の劣化版のようだ。称号が20%強化でスキルが10%強化。足されることになるので、今度から30%強化と。
つーか、またスキルが増えたんだが。
オールオールに言ったら、また口を尖らせそうなので黙っておこう。
しかし4人もPKを倒したのにレベルの変動はなし。スキルも全く上がらん。【城落とし】も言わずもがな。アスミのレベルも上がらないところを見ると、あいつら弱かったんだろう。
そのあとはリングベアをサクッと倒して、オールオールをヘーロンの街へと連れて行った。
お読み頂きありがとうございます。
久しぶりに執筆したら、色々と忘れていました。
去年は不調だったので、今年はもう少し頻度を増やしていきたいです。
しかし、家を建て替えなきゃならないので、片付けに追われているんですけどねー。




