247 デートの話
リアル回です。227話の時に約束されたデートのお話。
ポンと肩を叩かれて「お待たせしました」という声に振り向いたら、白いブラウスと青いグラデーションのロングスカート姿の待ち合わせ相手が立っていた。
普段は短髪なのに肩甲骨までかかるロングの髪はウィッグかなにかだろう。
顔には半フレームの小さな眼鏡を着け、頭の上には丸い帽子。普段の装いとは真逆の大人しいお嬢様といった出で立ちだ。
「化けたなあ」
「でしょー。演技なら任せなさい」
ウインクしながら小さなブイサインを作るところは普段の彼女相応か。
「で、感想はそれだけですか?」
「いやいや、隣に立つ俺が添え物以下になるくらいにはお美しいですよ、お嬢様」
「んー、40点!」
「手厳しいなあ」
胸に手を当てて恭しく頭を下げたのたが、大根役者止まりの評価だった。まあ、仕方がない。
「じゃあ、デートのエスコートをお願いしますね。彼氏役さま?」
「うむ、SPだと思って遠慮なく扱き使うがよい。後、コース設定は姉と義妹の修正が多大に入ってるからなー」
「それはぶっちゃけすぎじゃないのかな、かな?」
「いやもう最初のプランを提示したら母親も一緒になって3重に怒られるのなんの。次はそっちでやってくれ」
「諦めるの早すぎでしょう!」
というコントみたいな会話から、アカネちゃんとのデートが始まった。
変装してるとはいえ相手は有名人だ。周囲の警戒は索敵範囲を最大にまであげているぜ。
パパラッチがシャッターを切るより先に、息の根を止めてやるくらいには動けると確信しているね。
しかし何というか、アカネちゃんとの休日の日程を擦り合わせるだけで艱難辛苦を乗り越える必要性があった。特にアカネちゃんの。
芸能人のスケジュールと俺のスケジュールの隙間を合わせるのがあんなに大変だとは思わなかった。
ただこっちは緊急で呼び出されることが多いため、おそるおそる龍樹姉に相談したら「休暇を取ったらいいんじゃない?」と至極真っ当なアドバイスを貰った。
休暇申請があっさり通ったのは、今まで俺が休暇らしい休暇を一回も取っていなかったかららしい。
というかバイトみたいな感覚だったから、休暇があることすら頭になかったぞ。
街中の軍の待機所から申請飛ばしたら、画面向こうの人事課の担当官が嬉しそうにしてたもんな。
先ずは軽く軽食をとってからにするか。
オープンテラスのカフェに寄って俺はオレンジジュースを、アカネちゃんはパンケーキを注文する。
「この後は朱鷺城遊園地に行って、地下水族館に向かう予定だが。その前に何処かへ寄るかい?」
「んー、そうですねー」
パンケーキに舌鼓を打ちながらアカネちゃんは頭を右に左にと傾けながら思案し、「お買い物に付き合って頂けますか?」と小さな声で切り出した。
「一応コース予定内に買い物、あー、総合ショップか? そこにも寄るが……」
「総合ショップ? 朱鷺城駅じゃなくて?」
「いや、母親と姉に勧められた店かなー。とりあえず俺もよく分からんので、見てから判断してくれ」
「ふーん。じゃあ後の楽しみにしておくね」
楽しそうに納得してくれたが、大丈夫かな。店見て腰を抜かさなきゃいいが。
この辺の物流は朱鷺城駅付近に集中してるんで、買い物といったら駅ビルに足を向ければ大体は解決する。
ただ母親とプチ姉に「ここに向かうべし」と言われた場所がなー。会員制の女性向き大型総合店舗だからなあ。
統合統制機構傘下だから、端末さえ提示すれば俺でも難なく入れる、らしい。
昨日初めて知ったわそんなん!
しかも母親が「大気が恥をかかないように潤沢な資金をいれておくね♪」とか言っていて、半信半疑で端末の残高覗いたら吹き出したぞ!
潤沢な資金とかって8桁も入れるか普通!?
それともその会員制店舗ってそれくらい持ってないと鼻で笑われるレベルなのか!?
今から考えるとそっちに行く方が胃が痛い。
「なんで難しい顔をして考え込んでいるの?」
「うちの母親と姉の手回し具合が色々と恐ろしくてなあ」
「??」
軽食を済ませたアカネちゃんと肩を並べ、朱鷺城遊園地へ向かう。
都市部なんで巡回型の無人バスに乗った方が早いが、行くまでの道もデートの醍醐味だというので会話しながらのんびり歩いて行くことになった。
会話の内容と言えば二人に共通する撮影秘話アレコレである。
ガガーンの時の思い出や、その後の春斗さんの出てるドラマの話など。今俺が着ぐるみで出ているドラマはつい先日全ての撮影が終わり、後は放映を2話残すのみである。
こちらのストーリーは前回、主演の左遷された部署に諦めきれないヒロインその2が強引に押しかけようとしたが、途中で事故に遭い意識不明の重体となってしまった。
リハーサルの際にあの手この手を駆使して寝ているヒロインその2を笑わせることに全力を費やす演者たち。というインパクトのある場面しか覚えとらんわ。
ちなみに見舞いに来た病室の窓を清掃する作業員に着ぐるみが混ざっていたのは違和感しかねえだろう。
清掃ロボを使わない時点で嫌な予感はしてたんだよなあ。
この裏話はアカネちゃんのツボに入ったようで、声を漏らさないように爆笑していた。
まあ、声でバレるかもしれない危険もあるが、その場合もう普通に笑っちまっていいんじゃねえの?
「そういえばそっちのVRが入り混じったというドラマの撮影はどうなったんだ?」
「はー、はー、お腹痛いっ」
「笑いすぎだろう」
「だって笑わずにはいられないんだもん。はー」
「分かった。好きなだけ爆笑しててくれ。会話は水族館入ってからにしよう」
「えー、お魚は静かに見たい派だから、いーまー!」
「そうだったのか。初耳だぜ」
「知ってる人なんか一握りだってば。ええと、ゲームドラマね。もう撮影は開始してるわよ」
「は? もう? 中でそんなん話に聞いたこともないんだけど」
とはいえゲーム内の噂話にも疎いからなあ、俺は。
「実はスタッフの人が別サーバーを用意してくれて。住人の人も協力してくれて楽しく撮影やっているわ」
「別サーバー? 訳を知ればプレイヤーもNPCみたいに徹してくれそうなんだがなあ」
「ぴ、ぴーけー? という人たちがいるから危ないらしいわね。聞いた話だと」
「ああ、PKか。確かにあれはいつどこから襲ってくるか分からないから、怖いかもしれないな」
「ぴーけーってなんなの?」
「PKはプレイヤーキラー。殺人鬼だな。プレイヤーを狩って持ち物やお金を奪う、強盗みたいな奴らだ。俺も今まで何度か遭遇して、まあ、ほとんど返り討ちにしてるけど」
「ふーん。大気君なら納得って感じだけど」
ニヤニヤしながら感心されると褒められた気がしない。
アクション監督とのやり取りをよく見られてたからなあ。俺の近接戦闘の強さは春斗さんも知っていることだし。
「あー、スタッフの人からはプレイヤーに無茶苦茶な行動と強さで危ない人がいるから、遭遇しないようにと念を押されたわ」
「遭遇しないって、別サーバーじゃないのか?」
「一応、プレイヤーさんたちのいるサーバーにも行けるのよ。ほとんど観光みたいに顔出すだけだけど」
「都合がつけば案内くらいは出来るんだが……。しっかし危ないプレイヤー? 偶に頭のおかしい迷惑プレイヤーはいるが、危ないプレイヤーって聞いたことないな?」
俺のあることないことを住民に吹聴していた奴とかな。
嵐絶のマイスさんに聞けば、危ないプレイヤーの情報を貰えるかなあ。
「なんでも通称ビギナーさんって呼ばれてて、狂信者集団を率いてるんですって」
「ぶっ!?」
「ど、どうしたの?」
「い、いやなんでもない。気にしないでくれ……」
何となく嫌な予感はしていたが、俺のことだったか……。
そうだよなー。ビギナー教団とか俺が制御してる訳じゃねーもんなー。
統率不能の集団を率いている狂人とか噂されていてもおかしくはねーな……。
その後は冷や汗をかきつつ、話題をあるブイのほうに行かないように誘導しつつ水族館を堪能した。
アカネちゃんが宣言通り静かに各水槽を回っていたんで、会話にはならなかったんだけど。
正体に気付く輩も居なかったし、問題はなかった。
最後に巨大水槽でやっていた催し物。
ダイオウイカとプレシオサウルスの海中大海戦にアカネちゃんが「きゃーきゃー」と興奮していたのが印象的だったなあ。
誤字報告してくださる皆さま、いつもありがとうございます。
ラブコメとはいかなかった……。私にはこれが限界です。
唐突にデート話になった理由は、書くのにこれだけ時間がかかったということorz
※春斗=群青春斗。俳優。ガガーンの主役を演じた人。こっちでいうところの松○桃李とか福士○汰くらいの有名人。
「リアデイルの大地にて」7巻のオーディオブックの配信日が決まりました。
予約開始日:4/25(月)
配信開始日:5/6 (金)
です。興味のある方はよろしくお願い致します。




