244 引き抜かれれる話
サブタイトルはバグっています。
シェルバサルバの呼び出しに応じて魔族の街にやってきたら家を貰って、その家に憑いているというシルキーもペットに加わった。
いや、貰いすぎだろ。
「その前にシルキーって魔物なのか? 人にしか見えんのだが?」
「そこからかぁ?」
聞き返すとシェルバサルバは苦笑いをしていた。
返事はシェルバサルバを遮って、前に出たシルキーが自己紹介をするようだ。
「初めましてご主人様。わたくしは家付妖精と呼ばれますわ。家に根付いてあれこれを管理することを生業と致しております。この邸宅はわたくしにお任せ頂ければと」
「掃除や料理を?」
「ええ。掃除も料理も勿論わたくしの仕事です。お庭の管理もお任せくださいませ」
「えーと、俺が居る時には皆でローテーションで回すというのは?」
「いえ。ご主人様は何もしなくて結構です。全て一切合切をわたくしにお任せください」
「えっ、全部!?」
「はい。全ての業務はわたくしが取り仕切ります」
なんだと!?
持ち回りで家事を回すこともできないというのかっ!?
それなら俺に何をしろというんだ……。
「なんかよく分からないところでショックを受けているところ悪いが、この家を受け渡すにはまだ条件があるからな」
「まだ条件があるのか? ふぅ、よかった。でもこのシルキーさんもう俺のペットに加わっちゃったぞ」
「ご主人様。わたくしのことはどうぞ呼び捨てで。あと、わたくしに似合う名前を頂ければ幸いです」
「な、名前!?」
「なんで名付けでショックを受けてんだよ、おかしな奴だな。とりあえず最後まで話を聞け!」
「お、おう」
さっきからシルキーが気になるのか、アレキサンダーたちが絡みたそうにしている。
しかし条件があるということだし、それ如何によってはシルキーを手放すかもしれないのだから、今はまだ我慢してもらおう。
でもペットのテイム破棄ってどうやるんだろうか?
ステータス画面に項目あったかね?
「ナナシに受けて貰いたい条件は1つだけだ」
「家1軒に条件1つって、やっぱりこっちが貰いすぎじゃね」
「有利かどうかの判断はお前次第だが、役職を1つ引き受けて貰う」
「役職?」
「ああ。今のところお飾りのような感じではあるんだが、いるといないでは様式が違うからな」
様式が違うような役職ってなんのことだ?
道化とかか?
俺が首を捻っていると、シェルバサルバはニヤニヤしながらその役職を口にした。
「ナナシには四天王の一員になってもらう」
「…………はい?」
四天王?
四天王ってあれか。戦の先鋒に立って敵をバッタバッタと薙ぎ倒す奴。
最弱なのが実は最強だったりする逸話に事欠かないとかなんとか、純義に聞いた覚えがあるが。
しかしシェルバサルバのいうことだから、その四天王というのは魔王のオジさんを守るってことなのだろう。
俺なんか歯牙にもかけないような強い人に、四天王なんか必要なのかね。
「まあお前が何を考えてるかだいたい分かるけどよ。あの親父に本来そんな親衛隊みたいなもんは必要ねえんだ」
「だよなー。俺としては魔王のオジさんが戦う姿が、もう想像できん」
「ナナシは親父と会って日が浅いから知らんだろうが、あれで戦いに出たら情け容赦もないんだぜ。そこに惚れ込んだ奴らも多いんだが」
「ほほう」
「俺たち魔族は我が強いから、あんまり纏まって行動することがないからな。四天王も強者を纏めておくくらいしか理由がない」
「いや、それだと俺が一番弱いのでは……?」
シェルバサルバからして俺なんかよりずっと強いだろう。そんなところに俺が加わったとして、役に立つ機会などなさそうだ。
「色んな種族が並んでいりゃあ、それで納得する者もいるからな。お前は人族代表ってことでひとつ頼むわ」
「ほぼ頭数みたいなもんか。この街の人たちが、それで納得してくれるといいんだが」
「この街の人族で戦える奴なんか極少数だぞ。お前みたいにヘビィボアと真っ正面から殴りあえる奴なんか、魔族にも殆どいねーって」
「えええ……」
あんなに強そうな人たちが街中を闊歩してるのに?
少し気になって、他の四天王の面子を聞いてみた。
「先ずは俺だ。殿下なんて言われてても、特に名声や偉業なんぞない。ただの魔王の息子という立場なだけだからな」
「そうかなあ」
街の人たちからは慕われてるみたいなのに?
兵士の人も普通に敬意を払っていたし、その態度に疑いも嘲りもないだろう。勘だけど。
「次に親父の古い知り合いでイリアイグサ。魔女だがお袋の師匠にあたる」
「なんか似たような名前を聞いたことがあるような……?」
イグサ、イグサ……?
イグサって俺の記憶が確かなら、道具屋のお婆さんの名前だったよな。
あのお婆さんと何か関係が?
もしかして本人だったりするのか?
魔女なら魔族でもあり得るのかもしれないが、お孫さんは人族ぽかったぞ。
「俺の悪友でこの国一番の剣士のロンガランガ。熊の獣人だが陽気で気の良い奴だ」
「熊?」
熊は熊でもその人は腕が四本あるそうな。そりゃ剣が四本もあれば剣士としては技巧派だろうな。一度相対させてもらえないか、いつか頼んでみよう。
俺も含めてこれで四人全員かと思っていたら……。
「俺の妹で魔術師のルクナセリア。魔女ではないが魔法の威力はピカイチだ。普段は気が弱くてオドオドしてるが、闘いに出れば一端の戦士になる」
「いやちょっと待て!?」
「どうした?」
「四天王っつからには4人じゃねーのかよ! なんで5人もいるんだよ!?」
「いや、実のところお前も含めて全部で7人になるな」
「7人んんっ!? なんだそれは! 七天王に改名すべきだろう!」
7人の四天王って意味が分からんわ!
俺が頭痛に見舞われているとシェルバサルバは苦笑しながら答えた。
「まだどうするか決めかねている段階でな。7人いる理由も、立候補だとか他薦だとかだ。直々に話を持ってったのはお前だけだからな。誇っていいぞ」
「誰に誇れっつーんだよ」
プレイヤーにポロッと漏らしたらたちまちPKされる案件じゃねーか。アレキサンダーたちがいる以上、あんまし全滅みたいな結末は迎えたくないが。
「で、どうする?」
「いや受けるけど」
「ぶっ!?」
なんで了承したら噴き出すんだよ。
「持ち掛けた側でいうのもなんだが良いのか? 場合によっちゃあ人族と敵対するかもしれないんだぞ」
「まあ、住人を殺めたりするのは御免だが、プレイヤーをぶっ潰したりするのは問題はなかろう。たまに妙に鼻に付くやつもいるからな」
メリットデメリットを天秤にかけても特に問題はないんだよな。
メリットは家を手に入れられることと、シルキーが仲間に加わること。大手を振ってこの街を歩けることも含まれるか。まあ、今のところ、余所者とかの差別はされてないけど。
デメリットは他のプレイヤーと敵対するかもしれないことか。
称号があからさまにならなきゃいいんだよ。アースタイガーの毛皮使って被り物作ってもいいし。
四天王の称号持っていても街には普通に入れるらしいから、バレなきゃ問題はあるまい。
「よっし、契約成立だな! これでこの屋敷はお前の物だ。それとそのシルキーもな」
「まあ、行けるところまではよろしく頼む」
シェルバサルバとがっちり握手を交わした後にステータスを開いてみると、称号に【魔王軍四天王】というのが追加されていた。
はてさて、これで何が出来ることやら。
「ん?」
「お、どうした?」
「いや、なんか変な音がしたような気が?」
「音ォ? 俺には聞こえなかったが」
「んー。じゃ、気のせいか」
誤字報告してくださる皆さま、いつもありがとうございます。
また編集作業が始まるのでこっちの更新がとびとびになるやもしれません。




