243 譲渡の話
豚汁完売しました。
最初は目を輝かせたプレイヤーが1人来ただけで、しばらくは閑古鳥が鳴いてた。
その後はどこにいたのかってくらいの数のプレイヤーがどばっと来て、程なくして売りきれたよ。
どんぶりサイズの器を用意したんだが、全部で3000杯くらいにはなったなあ。
お代わりしにきた人も結構いた。
勿論、1人1杯なんてケチなことは言わない。存分に食うがいい。
プレイヤーの並びを見て住民も並んでたし、他の屋台の店主にもお裾分けした。
そんで終わってみれば【料理人】の称号が【料理人☆】になっていた。
変化した条件は『一度に1000人以上に料理を振る舞うこと』だと。
効果のほどは満腹度が+10%から+15%に上がった。今度から串焼きを作ると、満腹度25%だったのが30%になるということだな。
あと看板についての問い合わせも多かった。
「この毛皮はなに?」というものから、「どうやって倒したのか?」とか。「毛皮をプレイヤーズ職人ギルドの競売にかけるのか?」という質問が特に多かった。
一応返答は無難な感じで「リーディアの北の森にいたアースタイガーである」こと。
「ペットたちと協力して倒した」こと。
「ギルドの競売に出品するかは未定」とは伝えておいた。
物欲しそうな顔をしていた人は、加工したかったのかな?
プレイヤーズ職人ギルドの競売は、先日の襲撃の後始末とやらでしばらく中止するとのことだ。サーカステントに穴でも空いたのかね?
手持ちのアイテムの売却はまた後日にしよう。
こりゃまた課金してインベントリの拡張をしておくしかなさそうだな。
「ああ、そうそう。クランの申請をしなきゃならないんだったな」
ふよふよん。
ポンと手を叩いて呟くと、アレキサンダーがこっちを見上げながら不思議そうに体を傾けていた。
「もしかしたらアレキサンダーの弟妹が増えるかもしれないから、クランを作るんだ。そうすれば6人を超える人数で旅ができるぞ」
ぽいんぽいん。
アレキサンダーが喜びながら跳ねるもんだから、理由の分からないグリースたちも羽ばたいたり吠えたりして同調する。お前ら実は分かってないだろ。
通りすがりのプレイヤーたちがギョッとしたり、青い顔で距離を取ったりしているが、悪いことじゃないからな。
ええと、翠から聞いた話ではステータス画面からクラン申請ができるはずだと……。
メンバー、ペット全員の認可を貰う。問いかけるまでもなく、全員参加を表明。
お金を500万G支払ったが本拠地が未設定なので、登録がそこで保留になった。
あとクラン名も必要……、ま、またここで名付けかあー。
名前を付けるのは苦手だ。
ペットたちをぐるりと見回すが、名前を付けてくれるわけでもなし。
前の箱庭育成ゲームみたいに「我が家」でいいか。
とりあえず本拠地となる建物をどうにか購入せねばならん。
冒険者ギルドか商業ギルドで斡旋してもらう方法しか聞いてないからなあ。
どうしようかと悩んでいたら、メールの着信音が脳内に鳴り響いた。
「なんだなんだ? 今の時点で俺に用がある奴なんかいたか?」
メールをパカッと開くと差出人はシェルバサルバだった。
おや、なんか約束してたっけ?
文面は『お前たちが住めそうな家を手配してやったぜ。手が空いたらこっちへ顔を出しな。ついでに頼みたいこともあるんでな』と、いうものだった。
あれ、魔王のおじさんには専用の部屋を用意すると聞いたんだが、いつの間にかそれが家になってた?
一軒家をくれるというのか。豪気だなあ。
んで、ペットたちを休眠状態にして【転移魔法】で魔族の街まで飛んだ。相変わらず1回の使用でMPはすっからかんだ。
MP回復薬を使いつつ、ペットたちを目覚めさせてから門に向かう。
門番さんたちは「どうぞどうぞ」と快く通してくれた。
来るのはまだ2回目だというのに、もう顔パスである。
何らかの知らせを受け取っていたのか、魔王城に続く大通りのど真ん中で仁王立ちしたシェルバサルバが待っていた。
通行人が微笑ましい顔で挨拶しながら通っていくので、馴染みのある光景なのだろう。
「来たか!」
「やあ、お招きありがとう」
「こっちだ。着いてこい」
用件の確認くらいはさせて欲しいんだが、俺たちを見たシェルバサルバは踵を返してずんずんと歩き始める。
「何も言わずに着いてこい」と背中が語っているようだ。
魔王城の外周にある大きなお屋敷が並ぶ中をしばらく歩いていたら、「ここだ!」とシェルバサルバが歩みを止めた。
自信満々に振り返ったシェルバサルバの背後には、薄紫色の屋根を持つ2階建ての立派なお屋敷がでーんとそびえ立っていた。
正面から見る限りでは大きな窓がある部屋が8個はありそうだ。いや、ではなく。
「デカ過ぎだろう!?」
「そうか? 親父が言うには、これでも小さくて申し訳ないらしいが」
「最初は部屋だと聞いていたんだが」
「お前の連れているペットは大きいのがいるからな。それじゃあ狭いだろうと思ったらしい」
「狭いからって部屋がお屋敷にシフトチェンジするか普通」
「文句が多い奴だな、お前は。要るのか要らないのか?」
「ははーっ、ありがたく頂戴いたします」
「ならよし!」
なんだかんだと言いたいことはあるが、すでにこのお屋敷が俺たちの物になるのは決定事項らしい。
魔王のおじさんの好意ならば、ありがたく受け取ろう。
何か対価として協力できることがあればいいんだが……。
シェルバサルバから鍵を受け取り、それなりに広い庭を横切ってお屋敷の玄関に手を伸ばしたところで扉が勝手にギーと開いた。
「ん?」と首を傾げたのもつかの間、その向こうに白い服を着た女性が立っていて俺たちに向かって深々と頭を下げる。
「お待ち申し上げておりましたご主人様。どうぞこのわたくしめを存分にお使いください」
「……はい?」
「ああ、親父の言うことによると、この屋敷にはシルキーが憑いているから管理もしやすかろうということらしいぞ」
シルキーってなんぞ? と思う間もなく脳裏に個別アナウンスが流れて行く。
『シルキーをテイム致しました』
……はい?
誤字報告してくださる皆さま、いつもありがとうございます。
アストロニーアで星をぼっこぼっこにするのたのしーい!




