241 提案の話
ボチボチ再開しますが、しょっぱなからリアル回です。
「ううむむむむ」
「━━━」
「いや、でもなあ……」
「━━……っ」
「ああ、無理か? これだと違うな。うーむ」
「さっきから、ひぃー、何を、ふぅー、唸って、へー、んだよ? ふぅぅー」
端末から「あるVRMMOの話」のサイトから、スキルや称号の効果が書かれているページを開く。
ここには、今まで全プレイヤーが取得したことがあるスキル&称号が記録されているんだそうな。
ただユニークスキルである【城落とし】や【ダンジョンマスター】【魔法大全】は表示されていない。
なんでこんなページを今さら開いたかというと、直面している問題に対しての打開策がないかと考えてのことだ。
何を悩んでいるのかって?
もしこれ以上ペットが増えた場合はPTに迎えられないから、どうしようかということだよ。
今までやってた別ゲームみたいに預かり所があるわけじゃないからなあ。
どうしたもんかね?
唸っているとさっきまで足元で息も絶え絶えだった貴広が、肩越しに画面を覗きこんできた。
「息を整えてから喋れよ」
「お前、たちの、ような、体力、お化けと、一緒に、すんな、」
まあ、向こうの方では純義がまだ走り足りないのか、50mダッシュを繰り返しているからなあ。
それに律儀に付き合っている翠も、ここまで一緒に走ってきた後なのに全然問題なさそうだから、やっぱり貴広の体力が低いだけだろう。
「勝手に哀れむな!」
「まだ何も言ってないだろうに」
「お前のそーゆー顔を何度も見慣れてりゃあ、言いたいことくらい想像つくわっ!」
さすがに付き合いの長い幼馴染である。かくかくしかじかの類いは通じないが、多少は表情の違いで察してくれるのは有り難い。
今のは口に出すか出さないかを少し迷ったからな。
「面倒くさがりにも程があんだろうよ!」
「はいはい、感謝しているよ。何時もありがとな」
「誠意が全く感じられねーし」
そこへひょっこりと翠が顔を出す。スターターやってたんじゃなかったか?
純義の姿を捜すとさっきまでダッシュしていた直線上の先、点となった奴が駆けていくのが見えた。
なにやってんだアイツは?
「何の話ですか?」
「大気が人に表情を読ませて、自分で喋ることを放棄しやがったんだ!」
「放棄まではしてないだろーが」
「いえ、たまに兄さんは放棄した後に勝手に納得して自己完結しますから、私たちでも時々理解不能な時があります」
「ほら見ろ!」
「そーかぁ?」
翠の援護射撃に、貴広は鬼の首を取ったように喜んでいる。
「ちなみに同じことをもう何度か言っていますが、改善する兆しがないので家ではみんな諦めています」
「そーだったか?」
「そうです」
「そうなのか……」
2人に思いっきり溜め息を吐かれた。うーん、そうだったかね?
最近、喋らなくても理解してくれるペットがいるもんだから、悪癖が暴走したかもしれんな。
「それで、何の話だったんですか?」
「それは大気に聞いてくれよ。珍しく唸ってるから、俺も何なのかと思って声をかけたんだ」
「へー、兄さんも人並みに悩みはあったんですねー」
「おいこらー!」
俺が心外だと声をあげると、2人は「はいはい」とニヤニヤしている。
なんか遊ばれている気がするのは気のせいか……?
「それでどうしたんですか?」
「いやゲームでのペットがなあ」
「アレキサンダーちゃんたちがどうかしたんですか?」
「これ以上増えた場合はどうしようかと思ってな」
「ぶっ!?」
貴広が噴き出した。
翠も目を丸くしている。
「まだ増えるのかよっ!」
「いや、当分は増えないと思うが、増える可能性はなきにしもあらず……」
「いつもどこから調達してるのか分かりませんが、よく面倒がみれますよね?」
「いや、アイツらは放っておいても飯とか自分で獲ってくるからな。戦闘も指示出さなくてもさっさと終わらせちゃうし」
「どーゆー教育してんだよ!」
「教育らしい教育はしてないなあ。基本はアレキサンダーとシラヒメが下の面倒をみているからな。大抵のことは俺が手を出さなくても済む」
「それってシラヒメちゃんが兄さんのことを「お父様」とか呼んでいるのと関係あるんですか?」
「うん。アレキサンダーが長男でシラヒメが長女、グリースが次男でツイナが三男だろ。アスミが末っ子だな」
「家族ごっこかよ!」
「ごっこじゃないぞ。ナナシ一家だ」
「説得力があるような、ないような……」
いや説得力ありまくりだろ。
これで回ってるし、誰も困らない。
「で、これ以上増えるとパーティ枠から外れるから困ってんのか?」
「ああ」
基本的にテイムしたペットたちは、プレイヤーをリーダーにして形成されたPTで運用されているからな。
増やすか増やさないかといえば、増やす方向で考えてるんだ。だからといってPTメンバーは6人から増えたりはしない。
魔王城にいた羊なんかがいると楽しそうだよな。服も作れそうだし。
あと、乳を確保するために牛も欲しいよな。
「だったらクランを作ったらいいんじゃねえの?」
「クラン?」
「あー、そうですね。メンバーがほぼペットというのは前代未聞のクランですけど」
「クランってソロでも作れるのか?」
「はい、作れますよ」
「クランを作るには500万Gと、拠点となる家があればソロでも問題がなかった筈だ」
「ほほう」
拠点の家は移動式の小屋じゃ、駄目なんだろーな。
クラン作成はステータス画面から出来るらしい。お金はあるから、家を捜すかして試してみるか。
「冒険者ギルドで斡旋してもらうって手もあるぞ」
「職人ギルドで建ててもらうこともできるらしいッスよ」
「それは敷地があればこそ……」
お?
魔王城の牧場みたいにアイテムボックスの中でもいいのかもしれないな。
そこまでレベルが上がればの話だが。
「なんか勝ち誇っている顔をしているぞ、大気の奴」
「秘密裏にとんでもないコネでも確保したんじゃないですか? 普段でもそういうことありますし」
「家出来たら新築祝いとかできないッスかね?」
いや、聞こえてるんだけどな。
誤字報告してくださる方々、いつもありがとうございます。
いやー、オミクロンが凄いことになっていますねー。
よく「気を付けろ」と言われますが、具体的にはどうしろと……。




