238 雑魚掃討の話
下水道を進んで行って分かったのは、枝道が多すぎるということだ。
これでは制圧出来るのは進行している道だけで、他の道を進んでいたりする奴らは止められない。
まあ、入り口にはツイナとシラヒメがいるし、そのうちプレイヤーが駆け付けて来てくれるから大丈夫だろう。
しかしこれだけ離れていてPTが維持されているとは。
普通、途中で解除されてるんじゃないかな。
横から掴みかかってきたマーマンウォーリアーの腕を、上体を反らせて避ける。
腕を掴んで動きを止め、喉を突いて怯ませた隙に顎を掴んで持ち上げ、振り回す勢いで逆側から迫ってきたスキュラに投げ付けた。
なんとかバスター?
貴広が前に何か言っていたなあ、この技のこと。
重なりあって倒れた2体にレイスが群がりドレインタッチを浴びせていく。
ヘロヘロになった上に麻痺って弱ったスキュラとマーマンウォーリアーはグリースの蹴りによって消し飛んだ。
スキュラは持っている槍で突くより、下半身のタコ足を絡めてこようとしてくる。
なので下半身を遮るように魔力壁を展開し、槍で突かせるように誘導する。
その槍を掴んでスキュラをこっちに引っ張り込み、左胸辺りを貫けば対処は簡単だ。
足がいっぱいあるくせに、踏ん張りが全然効いてねえでやんの。
下水道は断面図がカマボコ形で、俺から見て左側に水路がある。右側には低い柵と点検用の通路、人が2人並ぶのがやっとなので俺が先頭を進んでいた。
床はまあ所々滑るところはあるが、概ねしっかりしている。
ツンとした悪臭はするものの【環境耐性】のお陰か我慢すればいい程度だ。
近接戦闘を行うのにあんまり支障はない。
アレキサンダーは柵の上を丸い体で器用に進み、時折水路側から来る敵を迎撃してもらっている。
水路から飛び出した敵に対して、体の一部を伸ばした腕?を叩きつけ捕食していた。
その度に頭がなくなっていたり、胸や腹が抉れてたりする無惨な死体がぼとぼとと水路に落ちていく。
伝わってくる気持ち的にはおやつらしい。
食い意地が張っているんだか、いないんだか。
グリースには後方の警戒と、撃ち漏らしを潰していってもらっている。
後方から襲いかかって来る敵はもれなくぐずぐずに腐っていくからか、今では近寄らずに離れたところでこちらの様子を窺っているようだ。
動きがぎこちない敵にはアスミから風の刃が飛んでいく。
威力だけなら申し分なく、大抵の敵は1発で真っ二つだ。
俺たちの攻撃の隙間を縫うように四方八方に撃っているくせに、アスミのMPバーはミリ単位も減ってない。
お前、実は基礎能力がバカ高いんじゃないのか?
俺たちの頭上には、下水道に入ってから【死霊術】で急遽呼び出したレイスが10体浮遊している。
半透明な人型の上半身がぼろぼろのローブを被っている姿だ。
【物理攻撃無効】なのでマーマンやスキュラ相手でも問題はない。
攻撃は人に恐怖を与える【畏怖】と、敵からHPを奪取する【ドレインタッチ】のみだが、数の暴力に任せればそれなりに脅威である。
「弱らせた奴を倒せ」と命令してあるので、ちょっとでもダメージを与えれば勝手に群がって倒してくれるのだ。
オート削り機かねえ。
最初はグリースたちに経験を分ける意味で、分割して倒してたのだが。
途中で離れた場所にいるツイナとシラヒメにも均等に経験値が入っているのが分かり、手を抜くのを止める。
殴る破撃ではなく、削る爪撃
に切り替えた。
マーマンウォーリアーの喉を抉り、別の方向から伸びてきた腕をへし折り引き千切る。
スキュラの口へ抜き手を放って後頭部まで貫通させ、下顎から胸までを斬撃によって断つ。
蹴りで胸を陥没させて吹き飛ばし、断脚によって首を叩き斬る。
たちまち辺り一面血の海のような状況に。まあ、第三者から見ると真っ暗だがね。
もろ接触に近い近接戦闘なので俺が受けるダメージも馬鹿にならない。
そこはアスミに水魔法の回復を飛ばしてもらって、とか考えているとアレキサンダーがぽよんと俺の頭に乗っかった。
「なんだなんだ?」と思っていたら、自分の体をむにゅむにゅと伸ばして俺の身体を覆ってしまう。
それも重要器官がある場所や関節部を補助し、行動を阻害しないような工夫をされている。
第2の鎧へ姿を変えたアレキサンダーは、肩に小さな自分の分身を出現させると「存分に」と体を震わせた。
「おお、サンキューアレキサンダー!」
ぷよよん!
そしたら今度はアスミが「ちー!」と鳴いて俺から飛び立ち、グリースの首へと巻き付いた。
「コケケ?」
「ちー!」
「コケケコ!」
「ちー!」
よく分からない会話の後に、グリースの左右には背丈が同じくらいの竜巻が2つ出現する。
竜巻ズがグリースを守るよ、とでも言うようにくるくると周りを回り始めた。
「ケコ!」と気合いの入った声を上げたグリースは姿勢を低くしてスキュラの固まっているところに突っ込んで行った。
「……え、グリース?」
たちまち下半身の触腕が竜巻によってズタズタに切り裂かれ、スキュラたちが悲鳴を上げる。
逃げまどうスキュラたちを腐らせながらグリースが足元を引っ掻き回し、触腕が血風とともに宙を舞う。
俺のやってることもアレだが、あいつらのやってることも随分とアレだよなー。
俺はレイスたちに手当たり次第に攻撃する許可を出すと、動揺の広がるマーマンウォーリアーたちの固まる方へと足を向けた。
「しかし雑魚しかいねーなー」
頭を破壊し、胴体に穴を開け、手足をぶっ千切る。
人体を破壊する方法を一つずつ試していってるが、人型魔物なら充分に通じるな。
倒しても倒してもスキュラとマーマンウォーリアーしかいないのは、もしかしてこっちが囮で本隊が別なんだろうか。
海側へ通じている水路出口までやって来ると、さすがに敵の数も減ってきた。
道中延々と駆除してきたからな。どちらも魔石を落とすので、インベントリ内の魔石の数が3桁にまで増えている。
その他は水中呼吸の腕輪と、スキュラの持っていた槍だろう。レアアイテムぽい物はないようだ。
ふと頭上から多数の振動音を感じた。
この感じは何かが複数爆発したのか?
地上でボス戦でもやってんだろうか。
まあ、そっちは地上にいるプレイヤーたちでどうにかしてくれ。俺は知らん。
とか思ってたらハイローからフレンド通信が届いた。
ハイロー:おーい、そっち今は何処にいる?
ナナシ:下水道だ。下水道。シラヒメに聞いてないのか?
ハイロー:聞いて答えてくれんの!?
ナナシ:お前とは会ったことがあるから大丈夫だと思うが。
ハイロー:つーか戦っている場所がちげえよ。
ナナシ:こっちは雑魚ばっかりだな。何時になったら終わるのやら……。
ハイロー:雑魚って……。あのなぁ、マーマンウォーリアーって結構強敵だからな。
ナナシ:簡単に首が飛ぶんだけどなあ。用件はそんだけか?
ハイロー:火力が欲しかったんだけど、お前の状況じゃ無理そうだな。
ナナシ:爆発振動音が聞こえたが、何とやり合っているんだよ?
ハイロー:シーサーペントだな。プレイヤー全員対1。
ナナシ:いじめじゃねーか。
ハイロー:馬鹿言え、拮抗状態なんだからな。
上から響いてくるそれはシーサーペントに攻撃しているからか。
かといって加勢に行くとしても、一度下水道から出る必要があるからなあ。面倒だ。
こっちも徐々に攻勢が緩んでいるようだから、終わったら考えるか。
アルヘナ:ちょっと兄さん! 今何処ですか!?
ナナシ:お前も俺の所在確認か!
アルヘナ:え?
ハイロー:今助力を断られたところだぞ。
アルヘナ:……え?
ナナシ:一介のビギナーに助けを求めてる暇があるなら、粉骨砕身の精神で頑張れ。
アルヘナ:ちょっと待ってください、兄さん!?
ハイロー:おいこら待て大気!
ナナシ:リアルネーム出すなっての。通信終わり!
「全く、こっちも取り込み中なんだよ」
マーマンウォーリアの体を袈裟懸けに切り飛ばしながら呟く。
何時までこの状況が続くのかと思っていたら、上からの振動が途切れた瞬間に潮が引くように敵の姿が消えていった。
シーサーペントとやらが倒されたんだな、たぶん。
周囲に敵性体が存在しないことを確認して、レイスたちを送還する。このまま連れて行ったら大騒ぎだからなあ。
はてさて、街並みは無事なんだろうか?
誤字報告してくださる皆様、いつもありがとうございます。
間を開けすぎて流れをさっぱり忘れてしまいました。
編集作業優先なので、連載はのんびりになると思います。




