236 競売の話
PKたちから強奪したスキルは【追跡】【劇毒耐性】【鷹目】【隠れる】【暗視】【水魔法】【登攀】の7つ。
後半4つはすでにあるため、そこに吸収されたようだ。
【劇毒耐性】は【毒耐性】を上書きして、新たに手に入れたのは【追跡】と【鷹目】か。
今度は【追跡】でPKが追えるかもしれないな。
【鷹目】は遠くがよく見えるようになった。その場に合わせて調整が効くみたいだ。
見えるのならそこまで魔法が届くかもしれない。
ドロップ品と言っていいのか分からないが、他に手に入れた物は、毒やポーションなどの薬類である。
バージョンアップでフィールド上で死亡した場合と、PKされた場合がほぼ同じような処理になったらしい。
装備類はランダム5%の確率でロスト。
所持品については50%の確率でその場に残るということだ。
ビギナーの場合はそれに含まれない、と。
PKの物は接収して、PKされちゃったプレイヤーの物は一旦俺が所持して持ち主に返そう。
PKがまだいるかもしれない現場に帰って来ないと思うから、こっちから届けに行くことにした。
ただ復活した場所はイビスなのかヘーロンなのかが分からない。
全然関係ない別の街の可能性もあるが、リングベア待ってたならこっちかな? という希望的観測である。
来た道を戻って門番の兵士さんたちに不思議に思われつつイビスに入る。
復活ポイントの周囲を見渡せば、疲れた顔をして座り込む5人組がいた。
近寄って尋ねてみれば、つい先程PKされたばかりだという。
話がそこに辿り着くまでエライ怯えられたが。なんで話しかけただけで震え上がるの?
別に取って食いやしねーって。
彼らにはPKたちの分も込みでポーション類を渡しておく。
俺はポーションとかは自分で作れるしな。毒類は毒消しの材料に回そう。
しかし後で聞いたんだが、俺がこういう行動をとったことで信者たちが一斉にPK狩りを始めることになったらしい。
いや、なんで?
もう一度イビスを発つ前に、オールオールに『どんなもん?』とメールを飛ばしてみた。
返信は『まだもう少し。首を洗って待ってろ』というものだった。
なんだか随分と挑発的な文面だなあ。今すぐ突っ込んで行ったらダメなのかい?
まあ、行かないが。
ヘーロン行く前にアナイスさんの所へ寄って行くことにしよう。
森の中に入ってから獣道を辿りながら進む。
途中から道沿いに点々と灯る案内の明りを目印に進んでいくと、家の前で待ち構えているアナイスさんの姿が目に入った。
「お久しぶりです」
「うんうん、殊勝な弟子を持って嬉しいね~」
「殊勝?」
何やらご機嫌な様子に首を傾げると、頬笑むアナイスさんが色々教えてくれた。
曰く、魔女見習いになったら師匠の元を離れて、一人前になるまで寄り付くことはないそうだ。
曰く、今まで取った弟子の中で、何度も師匠に会いに来るのは俺が初めてだとか。
「今までの子たちは、巣立った後に会合で顔を会わせるくらいだったけど。こう頻繁に顔を出してくるのも、成長具合が知れていいもんだね」
「武術の師匠になると事ある毎に呼び出されて、半殺しにされますけど」
「そうなのかい? なら次の子からは定期的に顔を出させるのも、いいかもしれないね」
満足そうに頷いたアナイスさんだった。
それから気が付いたように杖を振ると、小さな星が飛んできて俺の胸に吸い込まれていった。
ステータスを見れば【魔女見習い☆2】が☆3になっていた。
「えーと、これは?」
「習得したでしょ、【空間魔法】を。本来ならばボクがじっくりねっとり教えようと思ったのだけれど」
「あ、あははは……。すみません」
頭をかきつつ謝れば、アナイスさんは不満そうに鼻を鳴らした。
少々呆れ顔でもある。
「まさか魔族に教わるとはね。キミちょっと警戒心無さすぎじゃないの?」
メッチャ知られてるー!?
魔女の専用連絡網でもあるんかーい!
でも教わったんじゃないんだ。貰ったんだ。
「警戒はしたんですけどね。最初に会ったのが身分を隠した王子だったんで、トントン拍子に魔王さんまで行きましてねえ」
「また変な繋がりまで作ってきて……。闇側に傾かないように気を付けるんだよ?」
「はい、分かりました」
どうやら【暗黒術】と【死霊術】と【幻魔法】なんかを習得したせいで、闇に染まりかねないと警戒されているらしい。
闇に染まる、というのがどういうことを指すのか分からないが、そうそう暗黒面に落ちるようなことはならんだろ。
それと魔女見習い同士で情報を共有してもいいのかと聞いてみた。
だが見習い修練中は個人でどうにかしなければならないようだ。でもちょっとしたヒントくらいならいいのだそうだ。
「他の魔女が言ってるかどうか分からないけど、協力して事に当たった場合、資格が剥奪されるかもしれないね」
「ぶっ!? メチャクチャ重要な情報じゃないですか! なんで通達してないんですか?」
「だって聞かれなかったし」
「……」
「ボクはちゃんと修行中に質問があれば何でも聞いてね。と言ったはずだよ」
「あー」
確かに今まで聞いた覚えはねーな。
やべー。
住人はともかく、プレイヤーは掲示板があるから、情報の共有はし放題だぞ。
他の奴らが聞いてるかどーかは知らねえが、デネボラくらいには知らせておいてやるか。
『カクカクシカジカで情報を共有すると【魔女見習い】称号を剥奪されるらしいぞ』とメールを送ったら、即座に『!? 掲示板に書く!』という返事が来た。
やはり知らなかったらしい。
この機会に称号取った奴は師匠に会いに行けばいいんだよ。
そうすれば師匠も喜ぶし、迂闊な行動は取らなくなるで万万歳だろう。
アナイスさんと別れてヘーロンへ向かう。
道中見かけたのはリンルフくらいで、連中俺たちの姿を視認した途端に逃げ出した。
まあ、真っ先に目に入ってくる装甲車大くらいのキマイラやアラクネ、人間大くらいの鶏とか圧倒されるしかないよなあ。
1メートルくらいのスライムはどう映ってるのか知らんが、未だに全長50センチメートルにもなっていないケツァルコアトルはどうなのかねえ?
ヘーロンの入り口で従魔の証を見せても、衛兵さんたちは遠巻きでした。
怖くねーよ。
何もしなければがぶっとやられないから大丈夫だって!
久しぶりに足を運ぶヘーロンは街中が随分と様変わりしていた。
閑散としていた街並みは真新しい建物が幾つも並び、露店からは賑やかな呼び込みが幾つも聞こえてくる。
前は噴水くらいしかなかった中央広場も綺麗な飾りつけがなされ、ちょっとずれた位置に立派な存在感を現しているのが、ドデカイ8角形のテントだ。
天辺までの高さが15メートルくらいあるな。こりゃあテントを建てるために、周辺にあった家を幾つか崩したろう。
緑と赤に色分けされていてサーカスみたいじゃねーか。
あれが競売を行うという、プレイヤー産職人ギルドの本部かー。
矢印の付いた受付中と書いてある看板に沿ってそちらに向かうと、開かれた受付場所に立っていた数人のプレイヤーが俺たちを見るなり顔を引きつらせた。
「び、ビギナーさんが来たぞおおおおおーっ!?」
「くそっ、やはりそうか! ヘーロンに向かったとは聞いていたけれど!」
「金だ! 金を集めてこい! きっととんでもない額が動くに違いない!」
「ごぶっ!?」
「おお! 神よー!」
「色々と未知の物を放出してくれると期待してるぜ!」
「「「出来ればペットの卵をお願いします!」」」
何だこの混沌とした場は。いっぺんに言われてもさっぱり分からんわ!
真っ青になって一目散に逃げていく人とか。
叫びながら慌てて走り去っていく人とか。
数人で拳を振り上げて咆哮? する人たちとか。
真っ直ぐに並んで俺たちに懇願する人たちとか。
頭から白いローブを被った人たちはいきなり土下座をしている。
あと、血反吐を吐いてぶっ倒れた人は何なんだ?
「競売に出したいんだが?」
「び、ビギナーさんですね。競売に出す品物はインベントリから提出をお願いします。タグ付けで管理いたしますが、1回の競売に出せる品は4個だけです」
「ええ、4個だけなのか……。ちょっと待ってくれ」
どうするか?
盾2枚は出すとして、素材もどんなもんか見とくべきかあ。
ウサギの角も2つ出そう。
「はい、承りました。それと売り上げより手数料その他諸々で2割程引くことになりますが、よろしいですか?」
「色々と経費もかかるんだろ。そこは了解だ。ブツはこの4つで頼む」
「……!?」
インベントリから目の前のプレイヤーに貸し設定で物を飛ばすと、目を見開いて驚いている。
他にも貴賓席から競売を見学するか聞かれたが、それは遠慮した。
金銭の引き渡しは競売に出された時より7日間以内に引き取りに来てくれと言われた。
それを越えると一旦商業ギルドに纏めて預けるため、次に引き出すのに1ヶ月くらいかかるらしい。
さて、どんだけの値がつくか楽しみだねえ。
誤字報告してくださる皆さま、いつもありがとうございます。




