233 世話になる話
編集作業してたら土曜日にアップするの忘れてました。
森花壇の他は街壁しかないので牧場が何処にあるのかと思ったら、壁に張り付くようにして蔓草がアーチ状になっている。
シェルバサルバが覗いてみろと言うので正面に行ってみれば、蔓草アーチの先、街壁に空いた穴の向こうには大草原が広がっていた。
「もしかして……、空間魔法のアイテムボックスで場を確保してある牧場?」
「そうだな」
「マジかよ。どんだけのレベルとMPを必要としてんだ……」
あまりの壮大さに絶句するしかない。
魔王のおじさんの総合レベルは100なんかじゃねえだろ。
あの人だけは敵に回すまい。これ絶対に誓うところな。
「そんでナス牛とスリーピングシープ?」
「あの中にいる奴らは大人しいから、眠らせられる心配はない。安心して乳を搾って毛を刈れ」
「えー」
広大な敷地の中には黒いナス牛と、イビスダンジョンの中で見たことのあるスリーピングシープがあちこちで草を食んでいた。
ナス牛なんかヘタがある頭を草地に突っ込んで、で?
「あいつら何処が口だよ?」
「まあ、気にすんな」
「乳搾りも毛刈りもやったことないんだけど」
「ならスペシャルな職人を紹介するから、そいつに教わるといい」
「それはありがたい」
紹介されたのはツナギを着た、頭が羊の獣人である。
これは何もかも納得済みなんだろうかと疑問に思う俺だけが変な顔をしていたため、獣人さんとシェルバサルバにいぶかしがられた。
ただ家畜(?)が怯えるかもしれないという理由で、牧場の中もペットの侵入はご遠慮くださいと言われた。
ストレスで乳を出さなくなるナス牛がいるようだ。
意外に繊細なんだな、あのナス。
乳搾りと毛刈りの方は羊の獣人のマデルさんのレクチャーで、実践数回でマスター出来た。
そして生える【牧畜】スキル。ここ以外の何処で使えと?
ああ、イビス西のガルス村でも使えるか。
バリカンで刈るという行為でスリーピングシープを傷付けないようにするのにやたらと神経を使った。
刈った羊毛は洗ったり紡いだりする必要もなく、刈った端から毛糸の束と化す。
便利だなあ。
俺が刈った分と搾った分は貰えるというので、充分な量を確保しておこう。
毛糸は魔石染めにしておけば色々使えそうだしな。
その日は城の一室を借りて手持ちのアイテム整理に費やした。
MPポーションと中級ポーションを作り、茶もストックを増やす。
魔石を合成して核を作り、魔石を砕いて染色薬を作っておく。
ナス牛の乳より乳液を作成し、天頂草を使って美容液を作ってみたら『美容液(肌再生)』という物になったんだが……。
女性陣が骨肉の争いをしてでも手に入れようとする地獄絵図が容易に想像出来るんだが……。
インベントリの肥やしにしようそうしよう。俺は何も見なかった。
その日の夜は魔王のおじさんから「異方人の料理を食べてみたいねえ」と要請されたので料理をすることに。
どうやらシェルバサルバから、別荘で食った料理のことを散々自慢されたようだ。
親子でなにしてんの!?
何故か夕食の宮廷料理の中に、家庭料理が混じることになったじゃねえか。
違和感半端ないな!
城の料理長さんからも快く材料を提供されたので、肉以外は頼ろう。
作ったのはオーク肉の肉野菜炒めと茶碗蒸しだ。
茶碗蒸し用にと提供されたのが、直径50センチメートルもあるデカイ卵だったので、城中の人に行き渡るくらいの数が作れた。
蒸し器になりそうな物がなかったので、寸胴鍋の中に【無属性魔法】の魔力操作で穴開き板を作って層にする。
調理に使うことになるとは思わなかったが、造形が難しいなこれ。
調理中に料理長さんが醤油に興味津々だったので、少し分けてあげた。あと抽出できる実のことも教えてあげる。
魔王のおじさんは肉野菜炒めを気に入ってくれたようで、食事の対価にこの街の通行証を発行してくれた。
好きな時に来て、牧場でも花壇でも自由に使っていいそうだ。
「専用の部屋も整えておくから、何時でも泊まってくれたらいいよ」
「ありがとうございます」
「また来いよ。そんで飯を作ってくれ」
「はいはい。シェルバサルバもありがとう」
一晩お世話になり、目的は達したから帰ると言ったら色々とお土産を貰ってしまった。
通行証はチェーンの付いた黒金のプレート。
他には食材やらチーズやら野菜やら。案内された牧場以外にも畑が収まっているアイテムボックスもあって、そこから採れた物らしい。
他にも糸や布、金銀などの金属。くれすぎじゃね?
魔王のおじさんはプレイヤーを纏めて一蹴出来るレベルの持ち主だから、魔王ゲージは進行させない方がいいと皆に忠告しておこう。
気合いを入れて森を抜けるかー、と街を出ようとしたら杖を持った長身のお姉さんに話し掛けられた。
「貴方がナナシちゃんね?」
「ええ、はい。そうですけど?」
杖にとんがり帽子は魔女みたいだが、耳の後ろから突き出す2本の角とボンデージのような妖艶なファッションはなんなのかなあ。
「夫と愚息が世話になったわね。森を抜けるのも大変でしょうから、人族の国へ送ってあげるわ」
「……は?」
よく見りゃ門番の兵士たちがお姉さんに対して畏まっている。
え? もしかして魔王のおじさんの奥さんか?
格好からして魔女でいいのか、先輩か!?
何か言うよりも先に杖が上から降り下ろされ、俺たちは別の場所に立っていた。
周りには人ばっかりで、目の前には広場の中央に設置された見覚えのある噴水。
イビスで一番最初にログインした場所じゃねーか!
一瞬でこんな所に飛ばすとか。恐ろしい王妃さまだなあ。
「え?」
「ビギナー、さん?」
「今どっから現れたの?」
「そこにいきなり出現したように見えたけど」
「何処かから転移してきたのでは?」
「いや、支払い転移の場所はここじゃねえよ」
「じゃあどうやってそこへ?」
「え? まさか自力で跳んできたの?」
「マジか!?」
「プレイヤーが跳べる転移スキルだとおっ!?」
「あったのか! そんで存在したのか!?」
あーあ、間違ってはいないが話が間違った方向に誘導されようとしている。
ぎゃーぎゃーわーわー騒ぐプレイヤーたちを無視した俺たちは、とっととその場を離れた。
【空間魔法】は魔女系のスキルっぽいし、説明していいのか悪いのか。少なくとも魔族と友好を結べないことにはなあ。
実はゲームにインしている時間が結構やばいので、高級宿屋(ペット可)に駆け込んだ俺はペットたちを休眠させてすぐにログアウトするのだった。
誤字報告してくださる皆さま、いつもありがとうございます。
231話にちょい足しとステ変更しました。
また編集作業中なので、更新が少し遅れるかもしれません。
4/26に『リアデイルの大地にて』コミック3巻発売です。興味のある方はよろしくお願い致します。




