23 交流の話
さて東の平原に出るにあたって少々門で揉めた。
そうだよな。夜だと閉まってるよな。
腰の低い交渉の末、通用門という1人用の扉から出ることが出来た。ただ街に戻るには朝を待たねばならないが。
夜の平原は月と星明かりのみだ。
リアルのように街灯がある訳ではないので、田舎道のように暗い。
先程取れた称号【闇を歩む者】の効果で倍増している【暗視】のお陰か、かなり先まで見通せる。
【気配察知】もあるので、不意打ちの心配も減るじゃないか。便利便利。
【観察】は対象の特徴や違いを明確にするもの。
【急所攻撃】と合わさって、更に的確な攻撃箇所が解るようになった。
夜の平原モンスターは2種類。オオネズミと烏骨鶏だ。
オオネズミの方は秋田犬ほどもあるでかいドブネズミみたいな獣。疫病とか持ってそうで怖いな。
烏骨鶏はリアルにいる黒い鶏ではなくて、骨格標本の鶏である。アンデッドの類いらしい。
鳥類は骨になると何だかわからんな。名前が表示されないと鶏なのか鳩なのか。
両方ともアクティブなので、積極的に襲ってくる。また武器を買ってくるのを忘れていたが、対処は可能だ。
オオネズミは飛び掛かってくるのに合わせて喉へ膝蹴りか、獣共通の弱点である鼻先へ強打を叩き込めば怯む。急所狙いを率先して行っているので、指を目へ突き立てるのは常套手段だ。
相変わらす血みどろの戦闘をやっているが、これ翠たちからするとどう見えるんかね?
10匹ほど倒したら【カウンター】を取得した。此方側からのダメージが1.5倍になるようだが、もう何も言うまい……。
烏骨鶏にはアレキサンダーが攻撃進路を邪魔したところに【死霊術Lv.1】で使用可能な「エナジードレイン」を使う。おそらく術の影響だと思われるが、胸部中央にモヤのように固まった霊体部が可視出来ているのだ。
あのスケルトンにも似たようなのがあったのか、今となっては謎である。
この「エナジードレイン」だがHPを吸いとって自分の物とする。
術者のHPが満タンだった場合、格闘ゲームのように第2のHPバーが追加されるようだ。
オオネズミ、烏骨鶏、オオネズミ、烏骨鶏と倒していけば、ほぼノーダメージで乗り切れることが分かった。
オオネズミのドロップ品はネズミの毛皮と硬い前歯。小瓶に詰まった赤黒い液体。毛皮は広げれば50cm×50cmにもなる灰色のもの。リンルフの毛皮より大きい。
小瓶の方は【解体】の効果で出たっぽいな。なんだか分からんので後でオロシに見てもらおう。
烏骨鶏のドロップ品は骨、と金の卵。
なんだろうこれは? 孵したら金の鶏が生まれるのかね。何匹倒しても1個しか出ないので、レア物のようだ。温めてみようかなあ?
骨の方は人間の大腿骨くらいあるもの。どこの骨だ……。
薬草が目的なので倒しながらゆっくりと森側に移動する。
草原の途中で、仄かに光る水仙に似た花を見つけた。
「お、月光草じゃないか」
植物図鑑には万病に効く薬の材料とあった。
オロシに持ってったら喜ぶか? 高値が付けばいいんだけど。3本を見付けたが、使えるか分からんので1本を摘んでいく。
森の外縁で薬草と毒草を摘む。
ゲームでも根刮ぎ取って行ったら、群生地は枯れたりするのかもしれん。念のため少しずつ残していく方向にしておこう。
夜の森外縁部ではコウモリが飛んでいた。これもアクティブらしく、積極的に襲ってくる。
だが上空から突っ込んで来ても【カウンター】【急所攻撃】のいい的だ。あとアレキサンダーが飛び上がってひと口で捕食している。
「世界の何処かにはコウモリの丸焼きってのがあるらしいしな」
スライムが丸ごと食ってもおかしくはないだろう。
ドロップ品は牙、爪、皮膜。これも使い道は不明だが、誰かの役には立つだろう。
薬草と毒草は充分な数が集まった。しびれ草も幾つか。あとは月光草に赤黒い液体の詰まった小瓶をオロシに渡そう。
肉系を落とす奴がいないのが不満だが、インベントリ内はそろそろ容量がヤバイ。
空が白み始めてきたので、門前で待ってた方がいいだろう。
人に見られてもマズイから【死霊術】はこれで終了しておく。これ以上の戦闘は肉弾戦のみだ。
何故か門前には商人の馬車に混じって結構な数のプレイヤーが手持ちぶさたに佇んでいた。護衛のクエストかなにかか?
俺の頭に乗ってるアレキサンダーを見てから、話し掛けてくる者もいる。
「あ、ビギナーさん」
「なんか呼称が変わってやがる!」
即座に反応すれば、周囲にいた他のプレイヤーにまで笑いが広がった。
もういいよ、ビギナーさんでもビギナーの人でも。いちいち訂正すんのも諦めた。
「ビギナーさんは夜間戦闘すんの?」
「まだレベル低いからこの辺の敵だけなー」
「へー。ホントなら聞くのもタブーなんだが何レベル?」
「答える義務感はないが8だな」
「「「低っ!?」」」
纏めて驚かれた。
今は攻略組辺りで13~14で、聞いてきたプレイヤーたちで10~11くらいだそうだ。確かに低いな。
「ビギナーさんも装備くらい変えといた方がいいぞ」
「そーそー。森に入ると一気にダメージ増えるからな。初心者装備と違って耐久度に気を付ける必要があるけど」
それは分かる。リンルフの一撃で瀕死になるからなあ。
中には装備関係のスキル持ちがいて、材料を提供してくれれば格安で作ってくれるとも申し出てくれた。なのでインベントリ内で使えそうな物はというと……。
「これくらいか?」
ネズミの皮、硬い前歯、烏骨鶏の骨、コウモリの牙と爪と皮膜を提示したら驚かれた。
「ええっ!? ビギナーさん烏骨鶏倒せるのか!」
「聖属性武器か神官の祝福無いと厳しいだろ。ビギナーさん神官じゃないよな?」
「残念ながらまだビギナーだよ。倒しかたは企業秘密な」
馬鹿正直に言える訳がない。
知りたそうな奴も居たが、根掘り葉掘り聞くような奴はいなかったんで助かった。
生産者のプレイヤーがネズミの皮で灰色マントを作ってくれた。
防御力が+3もあるそうだ。製作費は残りの皮を1枚800G(本来は1,000G)で売ることで話がついた。
これで防御力が7、称号の効果で+2(1.4の繰り上げ)されて計9点。
別のプレイヤーは骨の方で持ち手を付けて、骨鶏のトンファーなる物を作ってくれた。
持ち手側を尖らせてくれたので、急所攻撃も楽になりそうだ。打撃+15もあるそうで、リンルフ戦も1vs1ならなんとかなるかも。
残った骨や爪と牙、皮膜も適正価格とやらで買い取って貰えた。所持金が一気に増えたぜ。
街に入れたら防具を揃えよう。
「ビギナーさん。肉を提供するんで焼いてくれ。【料理】あるんだろ?」
「なんで俺が【料理】持ってるって知ってんだ?」
「「掲示板で」」
「ぐふ」
何故かプレイヤーのみならず、住民の商人も混じって焼き肉パーティになってしまった。
商人の人から調味料を提供してもらったり、近くの村から野菜を売りに来たおじさんとかから野菜も提供してもらったり。
門が開く頃には何人かへべれけになってたが、俺のせいではないぞ。
2000文字以内にしようと思ったんだけど、途中で切るところも見つからず少し長くなったです。




