228 招待の話
投稿時間間違えてましたorz
さて何度目か分からんがログインして、初めて驚くことがある。
先日ログアウトした時にまっ平らな場所を選んで置いてあった家が移動していたことだ。
しかも木に寄り掛かるようにして斜めに立っていた(外からシラヒメが確認した)のである。
「うわっと」
お陰でログインした瞬間に視界が斜めになって、壁に向かって転げ落ちるところだった。
瞬時に姿勢を低くしてスライディングの要領で床を滑り、壁に立てたけど。
アレキサンダーとシラヒメだけを休眠から起こし、真上にあった入り口から外へ出して傾きを直してもらう。
「すげえ移動してやがる」
外へ出てからツイナとグリースとアスミを起こしてマップを確認したら、先日のログアウト地点から北北西に200メートル程移動していた。
つまり楽々家を引きずるような何かがいるってことか?
家は壊れた箇所はなく、代わりに周辺の木々や地面にぶつけられたような跡が見付かる。
引きずったというか、転がされたのかこれは?
アームドスーツみたいな奴がいると見ていいな。
朝食をインベントリ内の焼串で済ませ、北に向かって歩き始める。
10分もしないうちに最初の魔物とエンカウントした。
地面を6本脚で這いながら突っ込んで来たのはグランドビートルという甲虫だ。
先割れスプーンのような角を地面と平行にして、進行上にある木々を突き倒しながらこちらに向かって来る。
大きさはツイナよりデカく、体高5メートルくらいのカブトムシみたいな魔物だ。
黒光りする外骨格は固そうだから殴りたくないなあ。
試しにブラインドを飛ばしてみるが、進行する勢いは止まらない。
効いたのか効いてないのかがよく分からん。
グリースを背に乗せたツイナが上に飛ぶが、グランドビートルは真っ直ぐにこっちを目指してくる。
やっぱ図体の大きいツイナやシラヒメじゃなくて、俺を狙ってるようだ。
俺も真っ向から突っ込んだ瞬間に、上からグリースが毒液をグランドビートルの外骨格の繋ぎ目らしき部分に飛ばした。
そういった部分を狙えと前に言ったことを覚えてくれたらしい。
1拍をおいてグランドビートルは「ギイイイッ!」悲鳴? を上げて苦しみ出す。
左に体を捻ったところを見計らって俺は進行方向を右斜めに軌道修正。
そこから左に曲がってグランドビートルの横腹へ渾身の一撃を叩き込んだ。
外骨格のないところに打ち込んだ打撃は、外皮を突き破って肘くらいまで体内にめり込む。
離脱する時には体内の臓器らしきものを掴んで、ついでに引き抜くおまけ付きだ。
瘤が繋がったような何かをブチブチを引き抜くと、グランドビートルが脚を無茶苦茶に振り回して来たので、巻き込まれないように離れる。
引き抜いた臓器はその脚に引っ掛けてやり、自傷させるように仕向けておく。
俺が距離を取ったところで、傷口にアスミが水槍を10本程連射した。俺の背丈ぐらいの水槍がその傷口をさらにズタズタにする。
続いて上から網ごと降ってきたシラヒメがグランドビートルを押さえ込み、ツイナが奴の角に噛みついて引っ張る。
にゅるりと接近したアレキサンダーが首に巻き付いて溶かし始め、幾ばくかの拮抗ののちにツイナが首を引きちぎった。
それがトドメになったのか、グランドビートルは一瞬だけ大きく震えて動きを止める。
ドロップ品は背中の外骨格が丸々だけだ。サイズが二回りくらい縮んでいるが。
叩いてみたら金属のようにコンコーンと鳴っていた。どんだけ硬いんだよ!?
角が武器か何かで出るんじゃないのかと期待したが、出たら出たで処分に困ると気付く。
売り払うのも一苦労だぞ。
あとグランドビートルが倒した木々も枝を払ってからインベントリの中へ入れておく。暇がある時に加工しておこう。
結構な数になったなあ。毎回あのような移動方法だと、あっという間に森がなくなっちまいそうだが大丈夫か?
そこから戦いながら移動して、2日後の昼くらいにどう見ても人工物だと思われる壁にぶち当たった。
しかしナス牛が全く見当たらないなあ。実は生息地域が違うのか?
「イビスの街壁よりでけえな」
「ぐる!」「メエッ!」
「なんだって?」
上を見上げて天辺を探っていると羽根を広げたツイナが何かを主張している。
シラヒメに通訳を頼むと「飛んで様子を見てくる」と自信満々のようだ。
「止めとけ止めとけ」
「ぐる?」「メエ?」
「人工物ってことは兵士か何かがいるだろう。敵対行為に間違えられて打ち落とされるかもしれんぞ」
「ぐるる」「メエェ」
忠告してからアレキサンダーたちにも、絶対に俺の側を離れないように厳命しておく。
ちょろっと【魔力視】に変えて見てみたら、街壁の外側に2重になった魔力の壁みたいなのがあったのだ。
俺たちは何にも遮られることなく通りすぎたけど、中に住んでる者にはこちらの接近は知られてると思った方がいいだろう。
それが吉と出るか凶と出るか、ここの住民と接触して相手の出方次第かな。
しかし森の中を4日程進んで街があるとか聞いてないぞ。
シェルバサルバが言っていたのはこのことかな?
見た感じ、山脈まではまだ遠いんだが。
何となく左回りで壁に沿って歩いていく。
街壁の上の方は見えるんだけど、兵士がいるようには見えない。
街壁に絶対の自信があって兵士を置かないのか、兵士を置かなくても警戒体制には問題ないのか、どっちだろう?
それとも魔力壁が監視カメラの代わりになんだろうか。
それも少し進んだところで思考を中断することになった。
アレキサンダーたちが目に見えてピリピリし始める。
皆に攻撃しないように言い含めながら【気配察知】で窺うと、周囲を取り囲まれているようだ。
【魔力感知】にも反応があるので、姿を隠す魔法を使っているのだろう。
囲んでいる人数と場所に当たりをつけると、景色から突然人の姿が現れた。
俺も驚いたが向こうもしばし唖然としている。あ、もしかして【看破】したからか?
現れた6人の同じ装いをした兵士は、俺たちに向かって槍を向けてきた。
「我らの姿を容易く看破するとは、貴様ただ者ではないな!」
「人族がこの街に何の用だ!」
「無惨な姿を晒したくなければ、とっととこの場から去れ!」
うなるツイナの背中を撫でながら、警戒を落とすように促す。
まだ何にもされてないんだから落ち着け。
俺は武器防具をインベントリの中へ仕舞い、腕を広げて抵抗はしないと示す。
「異方人のナナシという者ですが、こちらはあなた方を害する気など全くない。ここに来たのはシェルバサルバに勧められたからだ」
「……なにぃっ!?」
「殿下の推薦でっ!?」
「ちょっと待て、い、いや少々お待ちをっ!」
シェルバサルバの名前を出したら、6人とも穂先を下げて狼狽え始めた。
つーか「殿下」って聞こえたけど、シェルバサルバはもしかして偉い人か?
1人が囲いを離れて俺たちが向かおうと思っていた先に走っていくと、残った5人はとりあえず槍を納めてくれた。
武器を向けられなければアレキサンダーたちも戦闘体勢を解く。警戒は続けているが。
兵士たちは無言のままで、こちらが話しかけても「我らに汝と話す気はない」と断られた。
もどかしい沈黙が30分程経過したら、さっき走っていった兵士が追加の兵士6人と1人の見知った人物を連れて現れる。
「はっはっは。遅かったじゃねえかナナシよう!」
「招待状もないのに街まですんなりと来られる訳ねーだろうよ! 途中に魔物もいっぱい出るし、時間もかかるわ!」
ゴージャスなジャケットを羽織っているシェルバサルバは、森で見た時より気品がアップしているような?
でも口を開いたら最初に会った時となんら変わりがなかったので、俺も前回のように接してみた。
回りの兵士は俺たちが友人同士の会話を繰り広げたことに驚いている。
「ああ、殿下って呼んで畏まった方が宜しいでしょうか?」
「ざけんな。お前にそんな呼ばれ方されると背中がむず痒くなるわ。森で出会った態度のまんまでいいぞ。お前らにも言っておくが、こいつは俺の友人だ。ついでに言うと滅茶苦茶つえーから手を出すなよ」
「「「はっ!」」」
後半は俺たちを囲んでいる兵士たちに言い聞かせたみたいだ。
12人とも目を丸くしながら胸に手を当てて頭を下げている。
「色々気苦労がありそうだな」
「分かるか? まあ、こんな地位にいればなー。別荘が唯一羽を伸ばせる場所だな」
兄弟が多いからそうとは分からないが、一応俺もリアルだと殿下と似たりよったりの立ち位置なんだよあ。
母親が一見するとそう見えないところとか、回りの友人たちが畏まったりしないからいーんだけど。
「とりあえず街を案内するぜ。その後は申し訳ねーが親父と会ってもらう」
「俺としては魔王様に会う気はないんだが……」
「魔族の街に乗り込んでくる人間は、だいたい勇者と呼ばれる存在しかいねえからな。諦めろ」
「勇者も普通にいるんかい」
どうやら魔王様と面会するフラグは折れなかったようだ。
戦闘にまで発展しないといいなあ。
しかしワールドアナウンスで聞いた話とは随分違わないか?
魔王って復活前じゃなかったの!?
誤字報告してくださる皆さま、いつもありがとうございます。
2/27に「リアデイルの大地にて6巻」が発売されます。
次巻に繋げるためにもどうかよろしくお願い致します。




