227 コネの話
サブタイトルが身も蓋もねー。
朝から撮影があったのでテレビ局に来ている。
最近はまともに学業が受けれてないんだけど。その辺りはチェックされて母親まで報告が行ってる筈だ。
なのに、何も言われないのは問題ないってことなのか。
着ぐるみは頭がセパレートしない一体型なので、飛んだり跳ねたりしても頭部落下アクシデントがなくていい。
他の撮影の合間に出番を待っていると、後ろから忍び寄って来た人に肩を叩かれた。
いや、接近には気付いてたけどよ。
「やー、お久しぶりぃ」
「君鳥さん?」
「えええ、1年間も撮影を共にした仲なのに。もっと普通に呼んでって言ったじゃん! ちょっと離れたぐらいで他人行儀になるって酷すぎない?」
「はいはい、分かりましたよ。アカネちゃん、これでいいか?」
「よろしい」
満足そうに着ぐるみライオン、レオンの頭をポンポン叩くのは、ガガーン撮影の時に一緒だった君鳥アカネだ。
最近は歌手と女優の仕事が半々らしい。
「今日はゲストか?」
「ううん。別の場所で撮影があって、それが終わったからこっち寄ってみたの。本当にライオンの着ぐるみなんだね~」
「顔が出せないから仕方がない。着ぐるみ職にはもってこいかも知れないがなあ」
「私も番組は見てるよ。どっちかっていうと、最後の『今日のレオンくん』目当てだけど」
公募で名前が決まってから、タイトルが『ライオンさん』から『レオンくん』に変更になったのだ。
「あれを知ったときに、ガガーンの時のアカネちゃんの気持ちがよく分かったぜ」
「あははは、演出家さんと考えると面白くなるよね! 私も途中からやることが細かくなったから、『あ、やってんな~』って思ったもん」
同じ道を通ったからか、見事に見抜かれてるわな。
ちょこちょこした出番、ほとんど出演者たちの会話している後ろを走っていったり、飛んだり跳ねたりだ。
アレキサンダーになった気分だなあ。
その合間にアカネちゃんと会話をしている。スタッフが何人か、チラチラとこっちを気にしている様子。
まあ、主演の人たちもだが。
「しかしここで駄弁ってていいのか? 曲がりなりにも忙しいんだろう?」
「なあに、私がいたら邪魔?」
「スキャンダルに巻き込まれたくないだけだ」
「あはは。ないって、ないない」
と言って気楽に笑いながら人の肩をバンバン叩くな。
そっちは笑い事かもしれんが、スキャンダルに関わってるなんて母親に知れたら大変だぞ。
新聞社や週刊誌が建物ごと闇に葬られるかもしれないからな。注意しなくてはならん。
「あ、それでちょっと聞きたいことがあってね」
「俺に? 俺で芸能人に教えられることがあるんかね?」
「だから聞きに来たんじゃない」
「ほいほい。それで?」
「ほら前にVR授業で特徴的な格好の人がいるって、話ししたじゃない?」
「あ? あー、はいはい。ゲームの格好な。それがなにかあったか?」
「あのゲームってまだ参加できる?」
「……は?」
「女優に歌手にと忙しいアカネちゃんがVRゲームにまで手を出すだと!?
もしかして芸能界で嫌なことでもあって引きこもる気か?」
「こらこら、大気君口に出してるからね。そんな心配されるようなことはないからね!」
「おお。つい、びっくりしてしまって」
ええい。ゲシゲシと脇腹を肘打ちするな。頬を膨らませるな。
「どうだろうな。募集要項までは聞いたことはないな。しかしVRゲームなんか他にもあるだろう。俺のやってる奴に拘る必要はないんじゃないか?」
「そうかもしれないけどね。なんでもプロデューサーの意向で、どーしても参加枠を取ってこいって言われてるらしくって。今スタッフが総当たりしてるみたいなの」
プロデューサーの意向ということは番組に組み込むのか。VRゲームを?
あん中で愛憎劇をやらかしたりするんじゃなかろうな?
「ゲームの参加枠とアカネちゃんになんの関係が?」
「今度出演するドラマに使うんだって。ゲームの中と外で出演者たちが入り交じるらしいわ」
「TV局の次は、ゲームで愛憎劇かよ。まためんどくさいことになってんなー」
こちらの番組のギスギス感は、三角関係の1人が遠い部署にすっ飛ばされ、一旦関係がリセットされることになるそうだ。
しかし左遷される人も諦めておらず、辞職して傍にいようとしているらしい。
だんだん出演している俺も先が分からなくなってきたぞ。
最終的に3人のうちの誰かが、後ろから刺されるんじゃなかろうか。というのが視聴者側の予想である。
「あー、じゃあ家に帰ってから兄貴に聞いてみるわ。確か第4陣がどうとか、この前言ってたから」
「えっ!? 大気君のお兄さんってゲームの関係者だったの?」
「SEの纏めをやってるとか言ってた。そこからどーにかなるべー。最終的に母親に泣き付く手もあるがね」
「へえ、大気君のところ家族ぐるみで関係者なんだ。凄いね」
「あー、まあね」
ここで母親が総帥だ。なんて言った日にゃあ、アカネちゃんの態度ごと変わるかもしれんから言わないけどな。
あんまり母親に強権を使ってもらうのも気が引けるから、牙兄貴で話が通ればいい。
「それで必要なのはどれくらいだ?」
「あー、うーんとね。出演者の1人がもう持ってて、それでそのゲームに決まったんだけどね。スタッフも参加する関係で、なんだかんだと10人くらいだって聞いてるわ」
えええー、参加者いるのかよ。
そいつには俺がビギナーさんだって絶対分かっちまうだろ。
入って来たら案内しようと思ったが、どうするか……。
「結構人数多いな。とりあえず聞いてみるが、結果は後で連絡する」
「うん、ありがとうね」
「いやいや。お礼は結果が出てからでいいよ」
「その時はお礼にデートでもしよっか?」
「「「でっ!?」」」
俺じゃなくて、近くで聞き耳を立てていたスタッフの人たちがどよどよどよっとざわめいた。
うん、アカネちゃんはそれなりに人気あるからね。
そんな彼女とデートなんてことになったら、ファンクラブの人たちに呪い殺されそうだ。
「笑えない冗談だから遠慮する」
「えー、ひどーい」
その後はたわいない話をして、こちらの出番が終わってからTV局で別れましたとさ。
うん、なにもなかったと誓ってもいい。
その夜の飯時に牙兄貴に聞いてみると「いいぜ」とあっさり許可が下りた。
「え、マジ?」
「お前が俺を頼るなんて年に数回もないからな。ここで応えなきゃ兄貴冥利もなにもねーだろ」
「やった! 牙兄貴、ありがとう」
「いいっていいって。だよな、母さん?」
「そこで母さんに聞く辺り、甲斐性がだだ下がりだからね。牙兄さん」
呆れた様子の翠に「ははは」と乾いた笑いをこぼす牙兄貴。
牙兄貴の独断専行じゃあ、許可が下りないのか。
まあ、母親はニコニコしながら頷いているけれど。
「丁度フリーのプレイヤー募集に踏み切ろうとしていたところだからな。先行テストとして受け入れが出来るだろう」
「うん? 第4陣って訳じゃない?」
「一気に受け入れて、システムの許容量を見るんだよ。最大で今のプレイヤー人数の5~6割くらい増えるんじゃねえか。ギリギリになったら受付終了だ」
これで少しは人が行き渡るかな。街を離れている俺には関係ないけど。
「いいですか兄さん。新人が来たらむやみやたらに喧嘩を売らないでくださいよ」
「なんで俺に言うんだよ。俺から手を出したことは賞金首の1回だけだ! 出会った新人全員に喧嘩を売り歩いてるわけじゃねー!」
「ただでさえ隔絶した実力があるんですから、穏便な態度で接してくださいよ」
「俺は猛獣か何かか? まだ40レベル台なんだぞ。お前みたいな高レベルと一緒にするな」
「兄さんは人に見えてて、実は人じゃないっていうパターンが多いですからね。レベルじゃ測れませんよ」
「いや、人だからな。まごうことなき人間」
ゲームは稀人という人の上位種っぽいものだが、まだ人だろう、たぶん。
プチ姉はニヤニヤしながら翠との会話を聞いているし。なんか含みがあるんだよなあ、あの笑い方。
とりあえず10人分のアクセスコードを纏めてアカネちゃんに送ったら、『ありがとう!』という文字と共に水族館のチケットと、日時の指定文が添付されていた。
お礼がデートってマジだったのかっ!?
水族館は朱鷺城遊園地の地下にある奴だったか。
最後に行ったのは凄い前だから記憶が曖昧だな。
えーと。行かなきゃダメなパターンかコレ……。
誤字報告してくださる皆さま、いつもありがとうございます。
デート回は次の掲示板の後かな(笑
最近の日間ランキングに並ぶ小説は後書きが分厚い。
その分本文に足せばいいのに。




