223 北の森の話(4
シェルバサルバから色々受け取った翌日。
いきなり実戦でスキルを使うのもマズいので、訓練から始めることにしよう。
別荘は朝から留守のようだ。
扉に「夕方に戻る」と書かれた貼り紙がしてあったからだ。
あいつ、どうやってこの森の中を移動しているんだろうな?
アレキサンダーたちは誰も、あいつが出掛けるところを見てないって言うし。
別荘の奥に通路でもあるのか?
ブラインドは試す対象がいないから後回しにしようと思っていたら、シラヒメが木々の間に糸を張って再び鳥を捕まえてきてくれた。
ブラインドを使うと意識すると、拳に黒い靄のようなものが掛かる。
アレキサンダーが体表面で捕獲している鳥を小突くと、靄が鳥に吸収されていった。
放たれた鳥は無茶苦茶に羽ばたきながら、あっちへふらふらこっちへふらふらと迷走している。
「これは盲目になっているのかな?」
「コケケ」
グリースが首を縦に振っているから、たぶんそうなんだろう。
支離滅裂な動きは10分ほど続く。
効果時間はそれくらいのようだ。それが過ぎると、鳥は真っ直ぐに飛んで逃げ出していった。
盲目は10分もいらないかもな。ちょっとでも続けば、普通の人間なら初手からパニックになるだろう。
動物系は大体あんなもんだと思うが、魔物の反応はよく分からんなあ。
「身体強化っと」
これを掛けると体が身軽になった気がする。
動作の不備をなくすためにあちこち跳び回ってみるか。
シラヒメが一緒に付いて来たが、あちこちに糸を飛ばしながらとはいえ、あの巨体で器用なもんだ。
「?」
「さすがにシラヒメみたいに幹に垂直に立てないからな。不思議そうな顔すんな」
あと何時もの速度だとしても、ブレーキを掛け間違えると激突することもある。
その辺の木々の間をジグザグに跳び回ってみたところ、スピードがやや増したお陰で着地するはずの枝を踏み外したり、タイミングを掴み損ねて木の幹に衝突することが増えた。
掴んだ枝で回転する筈が折ってしまったり、幹を蹴って逆側に跳ぶ筈が蹴り砕いたりと力加減も難しい。
30分くらい身体強化を掛けて走り回っていただけで、【無属性魔法】のレベルが5に上がったけどな。
地面に落下する度にツイナが駆けてきて、ウォーターヒールを掛けてくれる。
いやいやリアルなら兎も角、ゲーム内で1回や2回地面に落ちたくらいじゃ死なねえって。
よく考えたら【無属性魔法】も【魔法強化】の影響を受けてるよな?
全体的に力加減が分からなくなったのは、そっちのスキルのせいかもしれん。
ええと【魔法強化】の説明はというと、持っている魔法系スキル1つを1、称号1つを5として総合数値×%……?
俺の持ってる魔法系スキルは【魔力視】【魔力付与】【魔力制御】【魔力操作】【魔力感知】【魔力強化】【大地魔術】【生活魔法】【土魔法】【水魔法】【死霊術】【暗黒術】【幻魔法】【無属性魔法】の14個。
……は? 【MP増加】も入るのか。じゃあ15個で。
称号は【魔女見習い☆1】だけ……、【ティーフェレースの加護】も込みぃ?
2個で10か。足して25になるから、軒並み25%増加されるのかよ。
身体強化は10%から12.5%になる、と。些細な違いだが加減を間違えるくらいの差にはなるかー。
しかも重複じゃなくて加算される類いのようだから、夜に魔法使ったら威力95%アップ……。
なんちゅーおっかねえスキルなんだ。
他のプレイヤーよりレベルが低くても充分にやっていけそうだね。
それよりもこの森の魔物に再戦が先だけど。
身体強化を使いつつ更に半日くらい跳び回っていたら、【無属性魔法】がレベル10になっていた。
次に使えるようになったのは、魔力固定という何だかよく分からない魔法だった。
ええと、魔力を物質化して空間に固定する?
固定された魔力は【魔力視】持ってないとまず見えないから、空間障害物として使えると。
凶悪過ぎないか?
効果範囲は俺を中心とした半径3メートル以内だが、細い針のような物を置いておくだけで、突っ込んできた奴は勝手に串刺しになる。
でも効果範囲内スレスレに展開しておいて、相手に効果が見込めなかったら突進してきた相手を避ける判断をそこでしなければならない。
ギリギリで避けられるか、やってみないと分からんなあ。
試しに掌大の薄くて丸いコースター似の物を作り出し、目の前に置いてみる。
ノックをしてみると、コンコンと木の板でも叩いた音がする。
俺のやることを不思議そうに見ていたペットたちだったが、まずアレキサンダーがそこに向かって跳んだ。
うん、表面が丸くボコッと凹んだな。
何度かそこに突進を繰り返すが、固定魔力に阻まれて進めないようだ。
続いてグリースの尾蛇が「シャーッ」と毒液を飛ばした。
青紫色の毒液がびしゃーと掛けられるが、腐食するような様子は見られない。
毒液はしばらくすると表面を滑って下に落ちてった。
尾蛇とグリースはしょんぼりしている。
壊す選手権じゃねーから!
次はシラヒメだが。
何するのかと見ていると下半身の蜘蛛がズイと身を乗り出してコースターに噛み付いた。
ガリゴリと嫌な音を出していたが、しばらくして口を放すとちょっと注意して見れば程度で端が欠けていた。
うーむ。一応壊れはするんだなあ。
ツイナは噛む引っかくとやった後に吠えてから火を吹いた。
熱にも強いと。
しかし俺がその場から離れると、空気に溶けるように消えてしまった。
こりゃあ、空中のとっかかりとして使えるな。
【脚力強化Ⅱ】により3メートルくらいなら楽にジャンプ出来るので、そこに小さな板を構築する。
片手で掴んで逆上がりの要領で体を回転させてそこに立つ。
3回も繰り返せば高度10メートルくらいになるな。
それでも周囲の木々の方が高いから、ここなら木登りした方がまだ早い。
これなら【空駆け】みたいなことも出来るから、あっちはSPに還元しよう。
ステータスとスキルをチェックする。【料理長】をランクアップさせて【厨師】にしよう。
SPが9あるから魔法系以外なら何か取れるが、温存しておくか。
いつも誤字報告してくださる方々、ありがとうございます。




