216 謝罪される話
廃村を出発して、その先の街道まで出る。
道中それなりにオークは襲ってきた。レドルフはこっちを避けていくから、アイツらは本能がアホなんだな。
街道沿いに東に進むと、この前矢を射かけられた失礼な街があるから、そっちには行かないでおこう。
……と思ったが、前回の仕返しに街の前に城でも落としてやるか?
さすがに街に落下させると犯罪になってしまうから、門前に城があるくらいでいいだろう。
さて、そうと決まれば何の城を落とそう?
幅広の城塞は街道をまるまる塞ぎそうだから、天守台を備えた方がいいだろうか。
スキル画面を開くと落下させられる城一覧が表示される。
それを眺めながら歩いていたんだが、途中で妙なことに気付いた。
「随分と道が荒れてんな……」
前は馬に引かれた荷車が通っていて、それに乗ってたおっさんに化け物扱いされたけど。
その時より道には草が生えている。人が通らなくなっているのか?
轍の跡も草に埋もれかけているなあ。失礼な街に何かあったのかねえ。
「ありゃ……」
矢を射かけられたところより離れた場所で街の門を確認すると、立派だった街壁は緑色の蔦が隙間なくびっしりと覆っている。
そう言えばレンブンに【植物魔法】というのがあると聞いたな。ああいう蔦を急激に成長させることも出来るとか……。
門前に立っている衛兵にも元気がなく、背中が煤けてしょんぼりしているように見える。
魔物の襲撃にでもあったのか?
なんというか、街から感じる気配に活気が欠けているような気がする。
あれからいったい何があったのやら。飢饉とか賊の襲撃とかか?
冒険者のプレイヤーがこっちには来ていないってことはないだろう。
まあ、俺よりデカイペットがいるからか、見張りにはあっさり見付かった。
呼び笛か何かが鳴らされて、衛兵たちが慌ただしく走り回っているのが確認出来る。
さあ、今日の俺は最初から準備万端だぜ。
矢が飛んできたら、即【城落とし】で叩き落としてやるからよ!
しかし予想に反して街壁の上に弓を構えた兵士は並ばず、門前に固まり始めた。その数50人程。
もしや白兵戦で決着をつけるのかと思ったが、様子が違うようだ。
なんか敗残の兵っぽいなあ。武装してないし。
どうしようかと眺めているうちに街の中から馬車が出て来て、兵士と一丸となってこちらに向かってくる。
「ぐるる!」「メェッ!」
「コケケッ!」
ぽよんぽよん!
俺が待機して何にでも対応出来るようにしていると、ツイナとグリースが前に出ようとしてアレキサンダーに怒られる。
お前たち何時も短気すぎるだろうよ。警戒するのは悪いことではないが、いい加減アレキサンダーの意向を聞いてからにしろ。
馬車は俺より10メートル程離れた所で一旦止まると、太っちょでちょび髭のおじさんが転がるように出てきた。
俺の前で兵士と共に飛び込むように体を投げ出し、膝と頭を地に着けて叫ぶ。
「「「申し訳ありませんでしたああああああああああっっ!!」」」
「えええ……」
これが噂に聞くスライディング土下座……?
あまりの一糸乱れぬ団体行動に空気が震えたぞ。俺はドン引きだけどな!
「「「我々の身勝手な判断により異方人の方に不快な思いと危害を加えることになってしまい誠に申し訳ありません!!」」」
練習したか、ってくらいこの大人数で息ぴったりなんだが……。
「「「深く深く猛省し今後は異方人の方々とも友好的に接しますので何とぞお許しを頂くようお願い申し上げますっ!!」」」
すすり泣きながら謝っている兵士の人もいるんだけど、本当に何がどーしてこーなった?
俺が何かを言おうとして咳払いをすれば、全員がビクビクと震えるし。
理由を説明してくれ、と聞けば。「許してくれるまで謝るのを止めません!」とか言われた。なんでだよ!?
まあ確かに許すか許さないかで言ったら許すことも吝かではないが。
だからと言って人間から攻撃を受けたっつー衝撃は消えるわけではないわな。
あー、思い出したらなんか腹立ってきた。でも目の前の人たちにその怒りをぶつけるのも違うからなあ。
相手側に差し迫った事情があるみたいなので、ここはこっちが大人になるべきなんだろうな。別に恨み辛みがある訳じゃねえし。
「はいはい、許す。許します。それでいいんだろ」
「あ、ありがとうございます!!」
太っちょのおじさんが代表でお礼を言い、上げた顔は涙と鼻水に濡れていた。
ついでに兵士の方も歓声を上げて立ち上り、泣きながら互いの健闘を称えるように肩を叩いたり跳び跳ねたりしている。
俺の一言でこの変わりよう。何がなんだかさっぱり分からない。
たっぷり30分程待って兵士たちの興奮が静まり始めた頃に事情を聞いてみた。
太っちょのおじさんはこの街を治めている領主だった。
涙と鼻水で威厳も感じられん。
ことの発端は俺を追い払ってから数日後くらいのこと。
街の冒険者ギルドに所属する冒険者たちが徐々に活動拠点を他の街に移し始めたらしい。
その理由もかなり曖昧で、大半が恐怖に顔を引きつらせて逃げ出すようだったとか。
冒険者ギルドに閑古鳥が鳴き始めると、今度は街を出入りする商人たちが寄り付かなくなったという。
今のところは住人がギリギリ生きていけるくらいの供給はあるが、これ以上減ると街の運営も覚束無いと領主が嘆いていた。
最終的には先日に領主の館に書簡が投げ込まれるという事態に。
その手紙には街から追い払った人物に対して誠心誠意の謝罪をして許しを得なければ更なる制裁を加えるという旨が書かれていたらしい。
なので街の人たちは俺が訪れるのを一日千秋の思いで待っていたというのだ。
「…………」
なんかこういうことをやらかした奴らにめっちゃ心当たりがあるんだが……。
信者か? 信者の連中かこれ?
俺が関係して暴走するとなると、奴らしか思い浮かばん。
とりあえず俺が許したからこれ以上の干渉は止めるだろう。たぶん。
無事に街に入れたら消耗品を買い足そうと思ったが、事情が事情なんで止めておこう。
今日明日で切れる訳でもないしな。
街に入らずこのまま北へ向かうとするか。
夜になったらログアウトしよう。
━━ここまでの主人公のステータス
名前:ナナシ
種族:稀人
職業:ビギナーLv.41
SP:5
所有スキル:
【拳豪Lv.12】【投擲Lv.42】
【蹴撃Lv.39】【片手棍Lv.18】
【致命攻撃】【反射】【闘気】
【体術】【見切り】【威圧】←new
【腕力強化】【知力強化】【脚力強化Ⅱ】
【魔力強化】【MP増加】
【死霊術Lv.30】【水魔法Lv.5】
【土魔法Lv.15】【幻魔法Lv.6】
【生活魔法】【大地魔術】
【看破Lv.37】【気配察知Lv.58】
【忍び足Lv.16】【軽業Lv.72】【隠れるLv.28】
【水泳】【潜水】【登攀】【空駆】(使用不能)
【魔力視】【魔力感知】【魔力付与】
【魔力操作】【魔力制御】
【裁縫術】【料理長Lv.49】
【調合Lv.46】【大工Lv.32】
【植物知識】【鉱物知識】【アイテム知識】
【スライム会話】
【毒耐性】【苦痛耐性】【環境耐性】【麻痺耐性】
【暗視】
【解体】
ユニークスキル:【城落としLv.10】【幸運Ⅱ】
称号:
【後先考えぬ者】【死を垣間見た者】
【草を食む者】【闇を歩む者】
【強奪者】【殲滅者】
【スライムの友】【アラクネの友】
【料理人】【半魚人】
【ネッツアーの加護】【マルクトの祝福】【イェソドの加護】
【ゲヴラーの祝福+】【ティーフェレースの興味】
【魔女見習い☆1】【スフィンクスに認められし者】
【ミノタウロススレイヤー】【甲殻スレイヤー】
【プラントスレイヤー】
ペット
名前:アレキサンダー
種族:エルダーレッドスライムLv.26
【物理攻撃無効】【炎無効】【炎魔法】【形態変化】
【インベントリ】【溶解】【罠発見】
名前:シラヒメ
種族:アラクネLv.26
【糸精製】【糸射出】【かみつき】
【空間機動】【裁縫師】【劇毒】
名前:グリース
種族:コカトリスLv.19
【腐蝕の視線】【腐蝕毒】【腐蝕無効】
【貫通攻撃】【格闘】
名前:ツイナ
種族:キマイラLv.26
【雷魔法】【風魔法】【火魔法】【水魔法】【土魔法】【死霊術】
【かみつき】【飛行】
名前:アスミ
種族:ケツァルコアトルLv.3
【飛行】【水魔法】【風魔法】
使い魔
名前:ベウン
種族:クマのぬいぐるみ
【大工】【軽業】【料理】
名前:ボウ
種族:牛のぬいぐるみ
【登攀】【調合】【植物知識】
いつも誤字報告してくださる方々、ありがとうございます。
増えたスキルについては次のログインにて。
ペットたちのスキルも表示してみました。
10話の方にも書きましたが、「異方人」は異なる彼方の人、という意味で使っています。誤字ではありません。




