215 新装の話
相変わらず神器の鋸はスパスパよく切れる。数回往復するだけで、哭銅すらも両断されていく。
これもう鋸じゃないだろ。
木を1枚板にするのに大鋸というのが必要だったのだが、普通の鋸がにゅいっと伸びた。
変形した?
神器すげえな。
1枚板と角材を作っていくのだが、作れば作るほど作成時間が短くなっていく。
切れ味が増す、というのが正解なんだろうか。
連続使用時間が長ければひと引きで幹が切り落とせるなあ。
この場に建てる訳じゃないので、まず骨組みから。
四方の柱を立てる時にどうやって立たせようかと思ったが、シラヒメが糸を張り巡らせて固定してくれた。何も言わなくてもこちらの意図を組んでくれる義娘で父は嬉しいぞ。
柱には溝を削って板を通す。
一応ノミでほぞを削って組んだりしているけどな。
ノミはベウンの担当だ。指示したところを嬉々として削っている。
表情は分からないけど、ノミは踊っているというべきか。
作り方はかなりしっちゃかめっちゃかのような気もしないでもない。
【大工】スキルから次はどうしろこうしろと指示が出ているので、その通りに作っている。
土台がないから地面に直置きなんだよな。床板の下に哭銅の表皮部分を加工して貼り付けよう。屋根がないうちなら横倒しにすることも可能だ。
壁の内側には斜めに角材をはめ込み、補強を施す。
鎹や釘は神器金槌によって折れ曲がることもなく、すこんすこんと打ち付けられていった。
だいたい一振りで狙った所に突き刺さるため、間違いがなくていい。
チラリと作業場になっている所の外に目をやれば、グリースの蹴りがオークの首をへし折るところだった。
板や角材の加工が終わった辺りから、オークたちがちらほらと姿を現し始めたのである。
アレキサンダーの指揮(?)の元、アスミがウォーターアローやウォーターランスを放ち、ツイナやグリースたちがトドメを刺すという方向で戦いを開始した。
毒とか魔法とか使わずにやっているから、肉を楽しみにしているんだろうなあ。
家作りは順調に進む。
屋根はシラヒメを上に行かせて、板を引っ張り上げてもらう。
クレーンみたいな使い方をしてすまんね。
細い梁の上でも立てるし、力強いし糸も使えるし、クレーンそのまんまだよな。
途中でベウンの魔力が尽きる、というハプニング以外は順調に進んだ。
これはぬいぐるみの中に入れる魔石にも調整が必要か。
空がオレンジ色に染まるころに漸く家が完成する。
出来上がった家は縦横8メートル、屋根までの高さは7メートルになる倉庫のような建物だ。
入り口は片方が引き戸で、もう片方が開き戸である。つっかい棒と閂で、内側から戸締まりが出来るようにしてある。
なんでこんな変な入り口になったかというと、蝶番を使いたかったからだ。あと試作品で今後に生かす意味も込みである。
シラヒメ以外は片方を開ければ出入りが可能なんだけど。
窓は入り口の反対側に鎧戸を付けた。ガラスはどうやって手に入れたものか。
結構荒さが目立つし少しは隙間風もあるのは、まだ慣れていないからしょうがないな。
また哭銅を取ってきて試行錯誤をするか。
そしてインベントリにはすんなり収まった。
最初はこんなデッカイ物が入るか疑問だったが、全く問題なく。
ちなみに強度実験と称して、俺の使える魔法の中で1番威力の高い【土魔法】のアースランスを撃ち込んでみたが、壁板に傷1つ付かなかった。
哭銅すげー。
最強魔法は【城落とし】じゃないのかって?
あんなん使ったら問答無用で潰れんだろーが。せっかく作ったのに即壊すとかありえないだろ!
そんで俺たちが建設している間に、アレキサンダーたちが狩ったオークがなんと37匹。
オーク肉180キログラム以上とかどーすんだよ。消費すんのにどれだけかかることか……。
しかしそれだけ倒してもアスミのレベルは3にしか上がらなかった。
おおい。どんだけのポテンシャルを秘めてんだよ、お前は。レベル3で体長が1センチ増えたくらいなんだが。
丁度いいから今夜はここで野宿しよう。
オーク肉を豪快に切り分けて、塩と胡椒を振って焼く。
焼くのはさすがに外だ。
小さく切ったのをアスミに。大きいのは俺とツイナの分で、別の生のままはシラヒメに渡す。
グリースのご飯は市場で買い漁ったミックス豆類だ。
買い物に行ったときに興味を示していたから買ってみたんだけど、平らげたあとにシラヒメから肉を貰っていた。お気にめさなかったみたいだなあ。
余った豆は後でスープにでも使おう。
そして就寝。
最初は見張りを立てるかどうか悩んだんだが、シラヒメが「イジョウガアッタラ、だレカガキヅキマスヨ」と言ったので全員で雑魚寝。
横になったツイナの胴体に俺が寄りかかり、腹の上にはアレキサンダーとアスミ。
左右の脇にはグリースとシラヒメという布陣だ。
シラヒメは下半身の蜘蛛が脚をぴったりと折り畳み、女性体が直立したまま寝てるからなあ。
知らない人が見たらビックリするぞ。
あとバクの抱き枕も使おうとしたら、間に何かを挟むのをグリースが嫌がったので今回は見送ろう。
そして何事もなく朝を迎えた。びっくりする程何もなかった!
夜はオークも寄って来なかったってことはないだろう?
鎧戸の隙間から朝日が差し込んでくる。作りの荒さが目立つ証拠に、あちこちから入り込んだ細い光が反対側の壁に爪跡のような形を映す。
そして何故だか微動だにしないペットたち……。
おいおい、この現象覚えがあるぞ。もしかしてまた来たのか?
ピリピリした気配を感じた瞬間、天井からひらひらと1枚の紙が降ってきた。
アレキサンダーの頭に落下した紙には文字が書かれている。
━━ 面白い物を見せてもらったお礼に、その建物には加護をつけてあげるよ。 マルクト ━━
俺が目で文字を追った瞬間、紙は空気に溶けるように消えてしまった。
……。
「おいこらマルクトーッ! これはなんかやべー奴じゃねーのかよーっ!?」
突っ込む相手が現れず、伝言だけ残して伝言ごと消えやがった!
俺の叫び声にアレキサンダーたちが慌てたように飛び起きる。
ええい、そっちのフォローはなしかいっ!
中途半端な出現しやがってええええっ!!
━━ぴんぽーん!
「……げ!? ワールドアナウンスだと!?」
━━プレイヤーの皆様にお知らせ致します。神々からの贈り物が解禁されました。
━━プレイヤーの守護に付いた神々を楽しませる行動を取った場合につき、ランダムで所持している物品に加護が付与されます。
━━付与される効果も様々なものがありますので、プレイヤーの皆様も頑張って下さいね。
…………。
まーた俺が引き金のワールドアナウンスじゃねーか!
さすがに今度は誰かに詮索されたりしないだろーな?
それはともかく家に何かしらの付与がついたってことだが、いったいどんなんが付いたんだよ?
うろうろしたりびよんびよん跳ねたり、ぐるぐると周囲を無駄に威嚇したりしているペットたちを落ち着かせて外へ出る。
改めて自分の作った家に対して【アイテム知識】をかける。
1度習得してしまえば、誰かの作品でも追加されていくからな、学び直さなくていい。
ええと……?
※【ナナシの家】
ナナシが哭銅の木を使って自作した家。
作りは甘いがHPとして機能している。
大地と獣の神の加護付き。
……何か色々と突っ込みたいが見なかったことにしよう。
マルクトの名前がないだけマシなんだろうな。
んで加護の内容は俺にしか見えないというところが、まだ安心なのか?
※マルクト神の加護【不壊】
絶対に壊れない。
天変地異の中に放り込まれても生き残れる。
2000メートルの高さから落ちたとしても、中の生命体が傷付くことはない。
注意! 武器として使うことは出来ません。
……。
こいつはやべー。
なんだこの対爆シェルターはっ!?
そんで最後の一文は【城落とし】のようには使えないというお断りか? 城じゃないけども。
とりあえずプレイヤーの目に触れさせるとヤバイのだけは分かった。
街に入れなかったら堂々と門前で野宿しようと思ったのに、それすらも出来ないのか。
だが食料を魔物から取得出来れば、街に寄らずとも生活が可能じゃないか。
商業ギルドという売り払い先に不備があったことだし、暫くは街から遠ざかって道なき道を突き進むのもいいな。
まずは化粧品の材料を求めて、北の北にある山脈を目指してみるかねえ。
いつも誤字を報告してくださる方々、ありがとうございます。




