214 作業をする話
なんか今後も似たような事件が起きないとも限らないので、早急に家を作ろうと思う。
作ろうとは思ったんだが、問題は何処で作るかだな。
商業ギルドは今は信用ならないしなあ。
まあ、実際のところ、作業場は家が作れるような大きさじゃないんだよな。木材を加工するまでは出来るだろうが。
街の外しかないかなあ。
道端でやってると、それはそれで目立つだろう。
ただでさえ他のプレイヤーから注目の的なのに、道端で作業してたら「ビギナーさんがー!」といって話題にされそうだ……。
ある程度広くて、あんまり人が来ない場所って何処があったか?
最初に思い浮かんだのはイビスの西のガルス村なんだが、来た道を戻るのはなあ。
また騎士に見付かったら、次は叩きのめすことになりそうだ。
ホースロドは魔の森の中しかなさそうだが、敵がひっきりなしに出て来そうで嫌だなあ。
敵が出てきてもペットだけで対処が可能。あんまり人が来ない場所、というと……。
坑道先の廃村があった所かあ?
オークとレドルフならアレキサンダーたちでも対処が可能だし、アスミを守りながらでも戦えるだろう。たぶん。
そうと決まれば足りないものを買い足して行こう。
材木は充分な数がある。
【大工】スキルから来るサポートによれば、今所持している材木でこれこれこーいうくらいの家が建てられると出ている。
後一応釘もあった方がいいか。
釘って何処に売っているのかなあ。
野菜を買いに行った市場で尋ねてみると、市場内にある雑貨を扱っている店で売っているとのこと。
足を運んでみると、髭を真っ白にした老齢のドワーフが包丁やまな板などと一緒に、釘や蝶番などを売っていた。
蝶番も必要か?
何処かで使うかもしれないので、そっちも買っておくかあ。
太くて長い釘や細くて長い釘を選び、鎹もあったのでそれも購入する。
ただ、哭銅に鎹や釘が刺さるかどうか……。それだけが心配である。
ついでに包丁とまな板も購入すると、オマケで砥石もくれた。
おっちゃん、ありがとう。
アレキサンダーたちをゾロゾロと引き連れてベアーガを出ようとしたところで、「兄さん!」と声を掛けられる。
振り返るとアルヘナとエニフさんとデネボラが、こっちに向かって駆け寄って来た。
「住民の方から理不尽な要求をされたと聞きましたが、大丈夫でしたか?」
「歯向かった人たちを千切って投げたって聞いたけど、指名手配とかされたりしてない?」
「……」
デネボラだけすげー疲れた顔をしてんだけど、何があった?
後、伝言ゲームが何処かで仕事してねえぞ。掲示板どーなってんの。
「チャットで説明したろう。指名手配ってのは何処から出てきやがった?」
「なにぶんナナシさんがイビスから忽然と姿を消して、ベアーガにいるということが混乱を呼んでいまして……」
「何でだよ?」
「あのね兄さん。特定の場所からじゃないと街間の移動は出来ないというのに、そこに足を運んだ形跡もなしにベアーガに居たら、何か特殊な移動方法をビギナーさんが持ってる! となるって、みんなの話題になって当然でしょう」
「お、おう……。そうなのか」
「魔女に関係あるのかと聞かれたんだけど。見習いが知るわけない……」
「それでげっそりしてんのかよ。それはそれとして【魔女見習い】になったんだな。おめでとう」
どうやら無事に魔女を3人見付けて、誰かに師事出来たんだな。
あの地獄の修練を潜り抜けた仲間が、ようやく出来たのか。
「ありがとう。……なってみてナナシの気持ちがよくわかった……」
「ああ、分かるだろう」
「……うん」
「ちょっとお二人とも、ここで遠い目をなさらないで下さいませ」
「兄さんにあんな目をさせるなんて。魔女恐るべしね」
あのシゴキは受けてない者には分かるまいよ。
気を取り直して魔女の師匠に送ってもらい、街間を移動したと説明しておく。
どちらかと言うと転移魔法があるというところに驚かれた。
「魔女になったら使えるんですか?」
「道は遠そうだがな」
「はい?」
「……?」
「え、そうなの?」
上からエニフさん、アルヘナ、デネボラだ。
一応魔女内で失われたレシピを復活させるという偉業を成し遂げ、【魔女見習い】に星がついたことを教える。
しかも星1だからな。後、何個集めなければならないのか全然分からんわ!
「ああっ!? デーちゃんの目から光が消えた!」
「ちょっと! デネボラさん気を確かに!?」
「いったい、どーゆー師匠に当たったんだよ?」
なんでベアーガの門前でコントを繰り広げないとならないのか。人生は不思議に満ちているよな?
アルヘナたちと別れ、ベアーガの空坑道だった所に移動する。
3人とも俺が家を作ると言ったら呆れた顔をしてた。
街を1歩出るだけでエライ気力を消耗したんだけど。もう似たようなことはないと思いたい。
坑道に足を踏み入れると、あちこちからカンカンと鶴嘴を振るう音が木霊していた。
ゲンドウの話によると、商業ギルドに委託して住民の鉱夫を雇い、大々的に掘り出しているらしい。
通行に関しては入り口を守っている衛兵がいて、商業ギルドのギルド証を提示することで通り抜けることが出来た。
いよいよ冒険者ギルドに登録することも考えるか……。
依頼を実行する気はないんだよな。持ってった奴を買ってくれればいいんだ。
複数の横穴を開けているところを抜けて、バリケードを築いて衛兵が立っているところを通る。
ペットをゾロゾロ連れている俺に鉱夫たちがドン引きしてたみたいだが、危害を加える気はないから奇異の視線は無視だ無視。
「この先は魔物が湧くから気を付けろよ」
と衛兵から忠告を受けた。まだゾンビ湧いてるのか?
オークは食材だから、脅威にはならないけどな。斧が当たれば痛いと思う。
坑道内には敵がおらず、外へ出たところでレドルフ、赤い狼が10匹くらいで群れていた。
すかさずシラヒメが網を放ち、半数を捕らえる。
残りの2匹はグリースが蹴って首を折り、2匹をツイナが噛み殺し、1匹はアレキサンダーが覆い被さって溶かし食いを。
なーんも指示出してないのに、俺が手を出す暇もなしに終わっちまった……。
シラヒメが捕らえた5匹は纏めて糸でぐるぐる巻きにし、木から吊るす。
すでに戦意喪失したのから、まだ威嚇を放ったり吠えたりするのまでいるけど。
「さア、アスミ。アレニムカッテ、ぞンブンニウチナサイ」
「ちー」
的!?
アスミのレベル上げ用にとっ捕まえたのか!?
不可視の風の刃と水の矢が容赦なしに、吊り下げられたレドルフを襲う。
うわあ、一気に猟奇的な光景になったなあ。
しかしレドルフ5匹を倒してもアスミのレベルは2までしか上がらなかった。
神の必要経験値が高いのか、レドルフの保有経験値が安いのか?
あと毛皮が残らないから、この倒しかたは止めような。
「ごメンナサイ」
「ちー」
村までは特に何にも遭遇しないまま無事に着いた。
行き来しているプレイヤーのせいでオークも減っているのかねえ。
砂漠方面からの正規ルートじゃなくて、裏道的なこっちの道が人気があるのはやっぱり俺のせいだろう。
残っている家屋を回り、台に出来そうなものを探す。テーブルか家具が使えるかと思ったが、ほとんどが力をちょっと加えただけで崩れて壊れるのばっかりだ。
仕方ないので廃村周辺の木を切り倒し、高さを揃えた輪切りの丸太を量産する。いやこれはもう丸太じゃなくて台でいいか。
作業場を作り上げたら哭銅を取り出して並べていく。
ずいぶん切ってきたからなあ。スキルで分かる建築可能な分だけ使おう。
作るのは倉庫のようなログハウスだ。シラヒメとツイナは体がでかいからな。
特にシラヒメはアラクネ母ぐらいに成長すると想定して、天井の高い正方形の平屋になると思われる。
ベッド?
いらんいらん。アレキサンダーたちと雑魚寝で充分だろ。
天然の毛布や水物質寝具みたいなアレキサンダーもいるしなー。
屋外だが【大工】スキルを持っているベウンも出そう。
「まずは数本を1枚板に加工するところからかなあ。シラヒメはちょっと手伝ってくれ。アレキサンダーとツイナとグリースとアスミは周辺の警戒を頼む。あんまりアスミに無理矢理敵を倒させようとするんじゃねーぞ」
「ハイ、わカリマシタ」
ぽよんぽよん。
「コケケ」
「ぐる」「メエ~」
「ちー!」
返事だけはいいんだよ、返事だけは。
いつも誤字報告してくださる方々、ありがとうございます。
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