213 ファンと交流する話
レンブン『それではナナシさんに怪我などはないんですね?』
ナナシ『直接攻撃されたとかの被害はないなあ。ペットたちにも攻撃させないようにしていたし』
レンブン『それは良かったです』
ナナシ『心配させちまったようですまんね』
レンブン『いえいえ、それではまた』
ナナシ『ああ、態々連絡ありがとうな』
「はあ~~」と長い溜息を吐く。
ベアーガに着くなり「掲示板が大騒ぎしてた」とツィーやアニエラがひっきりなしにフレンドチャットを飛ばしてきたのである。
エトワールの面々は勿論のこと。ゲンドウやオロシなども。
インフィニティハートのアサギリもそうだけど、この前会ったばかりのリリプルが大慌てだったのは何なんだ?
嵐絶からはサブクランマスターのマイスさんが。やたらと詳細を聞きたがるので、とりあえず化粧品のことは伏せて説明しておいた。
来たフレンドチャットがほぼ1対1だったので、同じ説明を何度となく繰り返さなければならないのは大変だったぜ。人が増えるのを待って説明すればよかったぜ。
化粧品のことは薬と偽って誤魔化したが、マイスさんとエニフさんは何かに気付いたような呟きを含んでいた。
女の勘こえー。
今はペットたちをアレキサンダーの引率で外に待たせ、ベアーガの歓楽街に来ている。目的は巨大なカジノの建物だ。
別にギャンブルをしに来たのではなく、バニーの魔女さんに話を聞きに来ただけである。
「げ」
「人の顔を見るなり嫌そうな顔をしないでもらえます?」
楽しそうな笑顔をお客に振りまいていたバニーさんは、俺を見るなりげんなりした表情を浮かべた。
強引に俺の腕を掴むと、空いているスロット台まで引っ張って行く。
顔を近づけて周囲に聞こえない程度に声を抑える。とはいえ周りが色々な音で喧しいから、小さすぎると近くにいても聞こえない。
「ちょっと、アンタ今度何したのよ?」
「何したって……。こっちにも何かしらの情報が回って来ているんだな」
「魔女の情報網を何だと思ってんのよ。イビスから魔女を下げるから行かないように、っていう伝達がさっき回ってきたわよ」
「いや、そんな大層なことでもないんだが、化粧品を貴族に出し渋ったら連行されそうになってなあ」
「ちょっと! 怪我とかしたんじゃないでしょうね?」
「少々殺気を振り撒いてきたくらいで殴り合いにもなってねーわ」
穏便でない手段その1を説明すると、バニー魔女の顔色がみるみると青くなる。
「ちょっとそれ、アナイス様の仕込みじゃないでしょうね? どさくさに紛れて2~3人殺してきたとか……」
「前例があるだけに俺の信用だだ下がりだーね」
PKやPVPのことを知っているプレイヤーからすれば、俺が穏便に済ませる手段を取ることが信じられないのは分かる。
住民の方からもそう見られているとは思わなかったぜ。
フェツェルの例もあるし、住民の評判も気にした方がいいのかねえ。
しかしアナイスさんの仕込みって何?
怖いこと垂れ流していたけれど、うちの師匠実は武闘派なのか?
魔女の世界はよく分からねえなあ。
バニー魔女さんから話を聞けたのはそこまでだった。
別のおネエのバニーさんに呼ばれて、魔女さんが連れていかれたから。
どうやら俺を捕食しそうに見えていたらしく、支配人さんがカンカンだという。ここ結構健全な遊び場だったんだな。
おネエバニーさんの脇に楽々と抱えられ、「冤罪よー!?」と泣いていたバニー魔女さんに、俺が手を差し伸べることは出来なかった。
しかし俺はバニーに惑わされる純朴そうな人(おネエバニーさん曰く)に見えたのだろうか?
謎は尽きぬばかりである。
カジノでコイン1枚に触ることなく外に出ると、道の端っこでアレキサンダーたちを前に号泣している集団がいた。
今度は何だ一体……?
「うわーん!」
「漸く2体目を仲間に出来たと思ったのに~!」
「どんどん差を付けられるなんてあんまりだ~!」
「増やしすぎでしょビギナーさあぁぁぁん!?」
諍いかと思ったら全然違った。テイマー厨の連中か、あいつら。
多分アスミが見付かったんだろう。別に隠すほどでもないからいいが、騒ぎにはするなっての。
アレキサンダーたちの元へ行くと、泣いていた奴らが今度は俺を拝み始めた。
止めろ! 恥ずかしい!
「おお神よ」
「どうか我らにペットとの出逢いをお与えください」
「何とぞ何とぞ~!」
「自分の足で探せばいいじゃねーか。神? 人頼みしてたって出逢う機会なんか転がってないぞ」
「「「正論でぶん殴るの止めてもらえません!?」」」
「他に何を言えとゆーんだよ……」
アスミが俺の首にシュルリと巻き付くのを見たプレイヤー3人が、目を輝かせる。
しかし、唸り声をあげたツイナが俺の前に出れば、3人の顔色が一気に青くなった。
「待て待てツイナ。そいつらは威嚇しなくていい。グリースも突っつこうとするな」
ずいと前に出てきたグリースの首をポンポンと叩いて落ち着かせる。
こいつら末っ子に危害が加えられないように、目を光らせてやがるな。
すぐにアレキサンダーがぽよぽよと前に出て、ツイナとグリースを睨み付ければしゅーんと項垂れてしまった。
折角の他のプレイヤーとの交流なんで、大人しくしててくれな。
「こえー」
「さすがビギナーさんのペット。威圧感が半端ねー」
「5匹も持ってると世話が大変でしょう?」
1人目はリンルフと蜘蛛。
2人目は蜘蛛だけ。
3人目は兎を引き連れていた。なんでその兎めっちゃデカイの?
「大して世話をした覚えはないなあ」
「えー」
「マジかよ……」
「たまにブラッシングしたり構ったりはするけどな。大抵は自分たちでどうにかするし……」
「さすがビギナーさん。世話の仕方も俺らの斜め上をいく」
「ええ、なんか食べてるけど、あれはビギナーさんが用意したんで?」
俺の後で円を組んでいたアレキサンダーたちは、何かの肉塊を捌いて食べていた。
捌くというより引き千切りながら解体している。残酷描写を入れてない人には虹色の塊に見えるやつだ。
血の匂いがしないところをみると、魔法でどうにかしているな。
「それ、どうした?」
「さッキ、おトウサマガオハナシチュウニ、ツカマエマシタ」
「ああ、なるほど」
アナイスさんと喋っている時にそんなことしてたんかい。
まあ、一々許可を取る必要もないけど。それにしても街中で、いきなり残虐解体ショーはまずくないか?
「ビギナーさん!」
「何だよ」
「どうしたらアラクネちゃんから「お父様」って呼ばれますか!」
「……は?」
質問してきたのは蜘蛛だけペットにしてるプレイヤーだ。肩に乗っている真っ白い蜘蛛をよく見ると、小さいながらも上半身を備えている。
そのサイズでもアラクネになれるのか。全部がアラクネ母くらいの大きさになるのかと思ってたぞ。
「どーだったかな? 俺の場合は最初にアレキサンダーがいてー」とアレキサンダーを指差すと、自己主張をするように俺の頭の上くらいまでぽいんぽよん跳ねる。
「次にシラヒメが来て」と言うとシラヒメの下半身の蜘蛛が関節をギイギイ鳴らしながら、体を上下に揺らした。食事中なんで口の周りが猟奇的である。
「そんでグリース、ツイナがシラヒメの弟たちだよなー。と言っていたら、いつの間にか?」
グリースはツイナのライオン頭の上で大きく翼を広げた。ツイナはその状態で「がおーん」と吠える。
「で、アスミは末っ子な」
「ちー」
首から腕に移動して来たアスミが、舌をチロチロさせながら鳴くと3人は目を丸くした。
「な、鳴いた!?」
「蛇って鳴くんだなあ」
「鑑定出来ないんだけど。ビギナーさん、その子ってホントに蛇ですか?」
「種族ならケツァルコアトルって書いてあったぞ」
「「「えええええええええっーー!?」」」
なんかやたらと悲鳴が轟くなと思ったら、離れた場所からこっちの様子を覗いていたプレイヤーが結構いた。ペットを連れているのも半分くらいか。
どーみてもモンスターとも思えない動物連れている奴がいるけど、そんなの何処にいたんだ?
「そんな高位種族をどーやって仲間にっ!?」
「これは同志に報告案件ですよ!」
「本来なら聞いてはいけないんですが、俺はあえて聞く。どういった手段を使ったんですか?」
「手段。手段ねえ……」
こういうのはどこまで言っていいものか。袋の作成は【魔女見習い】にひっかかるから、そこを除けばいいかな。
「森の中で白骨死体を見つけて、それを卵に変えたら先日孵った」
「ちー」
「ほ、ホントに答えてくれるとは思わなかった……」
「何てやつだ……。ビギナー教に知られたらぶっ殺されるぞ」
「それでもだいぶ不鮮明な部分があるけどな」
「森って何処の森なの?」
「魔の森だ」
「「「ぶっ!?」」」
「難易度たけー」
俺にも同じことが出来るかも。と目を輝かせていた連中が、俺の「魔の森」発言で一斉に絶望的な表情になった。そこまで怯えるような場所かぁ?
森に深く入らなくても30万は稼げるいいところなんだけどなあ。シロノオタケとか。
いつも誤字報告してくださる方々、ありがとうございます。
去年の今頃は真夏日だったような気がするなあ……。暖房出してこなきゃ。




