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212 目をつけられた話

「ちー」

「おーよしよし。元気そうだなアスミ」


 ログインしてペットたちを起こすと、真っ先に飛んできたケツァルコアトルのアスミが俺の首に巻き付く。

 まだ小さいから、ギリギリ首を一周する程度だけれども。

 つーか、今どーやって飛んできた?

 アスミを手に移してから、その体をつぶさに観察してみる。

 だいたい胴体の3分の1くらいのところにちいさな翼が生えていた。

 突起か何かかと思っていたら翼だったのかこれ。小さすぎてよくわからんな。


 そんなアスミの所有スキルは【飛行】【水魔法】【風魔法】である。

 このレベルでは使ったとしても敵にはダメージが与えられないぞ。

 アスミは暫くマスコット兼回復要員になっていてもらおう。ベウンとボウとマスコットの地位を争う仲。

 調べてみると種族名のケツァルコアトルというのは、何処ぞの神様の名前らしい。蛇に翼の生えた姿の。

 創造神で文化と農耕の神? 文化と農耕は風と水なんだろうか?

 しかし神様が魔の森で白骨化していたという恐ろしい事実。

 あそこには神様を倒すほどの何かがいるってことかあ?


 ペットのスキルはレベルがない分、その属性の種類全部使えるからアスミはウォーターヒールに専念してもらうか。

 ツイナも使えるんだけど、もっぱら前に出て火を噴くことが多いからなあ。攻撃担当だし。

 まあ、ポーションの使用量が一番多いのはペットたちよりも俺なんだ。

 しかも敵からの攻撃じゃなくて【闘気】でHPを減らすからなんだけどな。

 HAHAHAHAHA!


 ちゃんとアスミだけじゃなくて、ぽよぽよぷにぷにのアレキサンダーも可愛がる。

 もふもふタテガミのツイナも勿論のこと、自分で毛繕いを欠かさないグリースも撫でまくるぜ。

 そんでそろそろ体が大きくなってきたシラヒメの衣服も新しくせねば。

 街だと古着屋はあるんだけど、新規で作るにはオーダーメイドのお高い店舗に行かないと駄目なんだよな。

 スキルの【裁縫術】は持っていても、女性の服の善し悪しなんて門外漢だぞ俺は。

 これに関しては「上半身しか着れない女性の服」ということで、プチ姉にヘルプを頼んだ。

 プチ姉は「下半身もあればコーデを色々楽しめるのに」とぶつくさ言っていたが、下半身蜘蛛なんだからしょーがねーだろう。

 体が白いから、薄系統の青かオレンジか緑が似合うんではないか、と言われた。

 シラヒメの糸で織った布を魔石の粉末で染めるしかあんめえ。

 いやいや、蜘蛛が服を着たらいけないという決まりはないだろう。

 ペットはアクセサリーは装備出来ても、鎧系統の防具は装備出来ない。防御力のない服なら着てもいいんじゃないか?

 これはまた今度検討しよう。


 だがのんびり出来たのはここまでだった。今日は厄災の目が出ているらしい。

 宿屋から商業ギルドに向かう途中で、何処からか騎馬の一団が現れて俺たちを取り囲む。

 大通りのど真ん中なんで、周囲から注目の的だ。

 プレイヤーなんかは「やっばー」みたいな雰囲気で、ソロソロと浮き足立っている。

 住民たちはというと、我関せずとばかりに目を伏せて足早に通りから離れていく。

 いつもは賑やかな大通りが、あっという間に閑散としてしまった。建物があるところまで下がった数人のプレイヤーが、事の推移を見届けようと残っている感じだ。


「どちら様でしょうか?」


 馬上から見下ろすだけじゃ飽きたらず、剣呑な視線を向けてくる騎士? たちに聞いてみる。

 返答はなし。唸り声をあげるツイナを飛び出さないように抑えつつ、相手の出方を待つか。

 うちの騎士1人が腰から剣を抜き、俺に切っ先を向けてから口を開いた。


「公爵様の意向を無視した異方人というのは貴様だな?」

「意向?」


 全く心当たりがないんだけど、何の話だよ?

 俺が考え込んでいると、騎士たちは高圧的な態度で「連行する。大人しく着いてこい」と言い放った。

 言うのはいいが、こちらにそれに従う意味はない。ペットたちの敵意を煽っているのに気付かないのかね。

 シラヒメと目を合わせると、真剣な顔で頷く。グリースも「ケッ」と言って鋭い視線を騎士たちに向けていた。

 一応小声で注意喚起はしておく。「手を出すな。傷付けるな」だ。

 ここでアレキサンダーたちが手を出して、ペットは危険なものなんて認識を街の人たちに与えたくない。


「拒否する」

「そうだ大人しく……、何っ!?」


 すかさずこちらに向けている剣を掌刃斬で叩き切る。あっさり折れるとか、なまくらだなあ。騎士様よ。

 櫻姉さんに刃を向けられることに比べれば、てめーなんか全然怖くねーぞ。

「貴様ら抵抗するか!?」とわめいている騎士に構わず、全方位に全力の殺気を放射する。

 騎士たちは恐怖に顔を歪めて硬直し、馬は半分くらいが泡を吹いてぶっ倒れた。

 残った馬は白目を剥いて(いなな)くと、騎士を振り落として一目散に逃げだす。

 騎士たちの包囲網が崩れたところでシラヒメがアレキサンダーを拾い上げて、全員で走り出した。


 目指すは1番近いところにある街壁だ。貴族に目をつけられるとか色々とめんどくさそうなので、さっさと逃げ出そう。

 出入りのチェックを飛ばすことになってしまうが、同じような一味が門を封じていたら、次は殲滅戦になりかねんぞ。


 グリースはツイナにくわえられ、一緒に飛んで壁を越える。シラヒメは壁だろうが天井だろうが歩けるからな。

 俺は先に上がったシラヒメが垂らした糸に捕まって壁を越えた。

 それからは東に向かいながら北側の森に入っていく。最初にアナイスさんとこに寄っとくか。


 ふと思ったんだが、貴族云々って聞いたのは商業ギルドで化粧品を売ろうとした時だったなあ。

 副ギルド長は信用出来そうだったけど、何処からかその情報が漏れたのかな?

 あの部屋に聞き耳を立ててた人がいたのかもしれない。そしたらギルドの防諜がゆるゆるだってことじゃねえの。

 ギルドもあんまり信用ならねえなあ。誰が敵なのか分かりゃあしねえ。


 しかしこのままだと、何処かでログアウトしたらイビスに戻ってしまう。

 ベアーガ前に国境門があったはずだから、とっととそれを抜けちまうか。それともこのログイン中に、持ち運べる家を作るか?

 城だと今のレベルでは、ゲーム内に存在できて12時間くらいだろう。

 ログアウトしたとしてもゲーム内は時間が加速しているから、リアル側2時間くらいで戻らなきゃ消えてしまう。

 問題は国境に貴族が兵士とかを派遣していないといいんだが。最悪、道なき道を通って、国を跨ぐのも有りかもしれんなー。


 アレキサンダーを先頭に道のない森の中を進んでいく。

 最初の頃はこの辺で狸とかリンルフとかに遭遇したが、今じゃすっかり姿を見なくなったなあ。

 グリースがその辺に生えていた薬草を摘む度にアレキサンダーの体内に突っ込んでいる。

 アレキサンダーは気にせずぽよぽよ進んでいるが、君たちそれは既に取り決めたことなのかい?

 アスミはツイナのヤギ頭の上で、とぐろを巻いている。ちょっと落ちないか心配だ。

 現在俺はシラヒメの蜘蛛の背中に乗っている。シラヒメからの提案なんだ。

 全く揺れずにスーと進んでいける様は動く歩道と変わらねえな。あと快適。


 そろそろアナイスさん宅が近いかなと思ったら、ポツポツと地面に光が灯った。誘導するように森の奥へと続いている。

 うわ、こっちの接近を気付かれてやがるぞ。

 道具屋のお婆さんから情報が回ったかな?

 光に沿って進んで行けば、アナイスさん宅の前でニヤニヤした顔の本人が待っていた。


「こんにちは」

「やあ。聞いたよ。貴族といさかいを起こしたんだって?」

「わー、耳が早いなー(棒)」

「でもその理由までは分からないんだけど、キミ何をやったんだい?」

「まあ、これらしいというのはあるんですけどね……」

「聞かせてもらえるのかな?」


 こっちは拒否する理由がないので、かくかくしかじかと説明する。

 商業ギルドで美容液を売ろうとしたこと。

 貴族がその美容液を独り占めしようと通達を出していること。

 売らないで取り下げたら、ギルド内で情報が漏れたことなどをだ。 


「いやいや、よくやったね」

「よくやった?」

「昔から国と魔女は助け合いの誓約を結んでいるのだけれど。それはどちらかが片方に危害を加えないことが前提になっているんだ」

「ええと、もしかして手を出したのはマズかったですかね?」

「違う違う。逆だよ逆。最近のこっちの国の無作法ぶりは問題になっていたからね。丁度良かったかも。何年か前に流行り病があった時も、薬の要求だけして支払いもしなかったからねえ。そりゃ市井の民に渡す分なんかは無料だとしても、貴族なんかは貰って当然みたいな顔をしてたからね。ここの国は王が比較的まともなんだけど、その下が腐っているからざまあみろだね」


 うわあ。無茶苦茶腹に据えかねていらっしゃる。

 何でも今まで表立って反抗しなかったのは、武威に長けた方がいなかったかららしい。

 そこで俺なんかが【魔女見習い☆1】になったから。確かに魔女ではあるが、まだ近接戦闘をし掛けた方が断然強いからなあ。


「知らなかったとは言え、魔女、それも見習いに手を出したんだ。これは誓約を破った証拠だねえ。ふ、ふふ、ふふふふふふふふふふふ~」


 こ、こえー!

 滅茶苦茶こえー!?

 超根にもっているうう!

 こりゃこの国終わったか?

 幸い道具屋のお婆さんが魔女だと知っているのは王様だけだというが、念のため姿をくらますとのことだ。

 この国の他の魔女も同じ行動を取るらしい。


「今回のお礼って訳ではないけれど、隣国に送ってあげる。何処がいい?」

「えーと、あーと……。じゃあベアーガでお願いします?」

「よしよし」


 こうして俺は上機嫌なアナイスさんの【転移魔法】によって、ベアーガへ飛ばされたのだった。

 国境を通らなくて良くなったのは素直に感謝をすべきだ。しかし、アナイスさんのところへ寄らなかったら普通にサバイバル出来たかも。

 ちょっと判断を誤ったかもしれん……。


 いつも誤字報告してくださる方々、ありがとうございます。


 健康診断行ってきました。歳のせいか色々ありましたが、特に血圧がおかしい。上は100ちょいはまだいいとして、下50以下ってなんだ……(泣

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 公爵様、魔女狩りするのかねぇ? [一言] 血圧あるあるですね、ナカーマ。(。。←最低記録74/47 高いのよりはマシだと思ってます。お大事になさってください。
[一言] 50!? 何がどうなったらそんな数値が!? しかし、サバイバルしそこなったのはよかったのか悪かったのかwでもサバイバルというよりスローライフになりそうな気がしなくもないです。
[一言] 普通に考えたら魔女を敵に回すのはやばいと思うのに、 読者視点だとビギナー教を敵に回す方がやばいと感じる不思議。 また掲示板がにぎわいますねえ。
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