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211 世界を脅かす話

 リアル回です。

 軍のお仕事を公開。

 貴広や翠とゲームの近況を話していると「大気がイビスにいるんなら、一緒にダンジョン行こうぜ」と言い出した。


「イビスのダンジョンなら、7階のボスを潰して来たぞ」

「潰したあ?」

「確かサイクロプスらしいですね。兄さんもう倒しちゃったんですか?」

「ああ、5メートルくらいの背丈に1つ目で鉄塊棒持ってた奴な。決定打が中々入れられなくて大変だったぞ」


 その時のことを思い出しながら溜息を吐くと、2人が呆れた顔で半眼になった。


「初見であっさり倒した人のセリフじゃありませんよ、兄さん。今までボスに挑んで倒されたPTは、数知れずなんですからね」

「もぐら叩きみたいに、1人ずつぷちぷち潰されてったって奴らもいるのによう」

「魔法に抵抗が高いらしくて、生半可な魔法じゃ全くダメージを与えられないという話ですよ」

「パワーが段違いで、盾職でも抑えられるのは数回程度らしい」

「あー」


 ツイナの魔法も全く効いてなかったからな。だから嫌らしい戦法に切り替えたんだ。

 他のプレイヤーは弱点を突くという発想はなかったのか?


「目を潰した後は楽だったが」

「……またそういうことをあっさり言う」

「弓でもなきゃ、そんな高いとこは狙えませんからね」

「投槍でも届くだろう。こっちはグリースがサイクロプスを駆け登って行って、目に腐食毒を掛けたんだけどな」

「グリースというのは兄さんのペットでしたか?」

「コカトリスだな。灰色の鶏だ」

「あー。大気のPT、おかしいのはペットもだったなあ」

「そうでしたね……」


 おかしいか?

 グリースはそれなりに凛々しい方だと思う。すくっと立っている姿は格好いいしな。

 だが2人は陰のある顔で項垂れてしまった。お前らの中で、うちのペットたちはどーゆー扱いなんだよ。

 

「それで今日もゲームやるんだろ?」

「いや、仕事だ。軍の方な」

「またかよ。最近多くないか?」

「軍務が俺の都合をおもんぱかってくれる訳ないじゃないか」

「……何となく深刻そうですけど、危険な任務ですか?」

「んー、どうだろうなあ。状況による……、かもしれない」


 軍規により詳細は語れない。

 簡潔に言ってしまえば危機管理見学の護衛なんだが、俺たちがぴったりと張り付く訳じゃあないんだよなあ。

 しかしVR学業の後に態々うちまで来た貴広は、何の用だったんだろうか?

 


 という訳で重装甲を纏って第三次防衛ラインの守備域任務だ。

 勿論俺だけということはなく、うちの部隊丸ごと。他の龍樹姉さん配下の部隊総動員でここの守備に当たる。

 ここより数キロメートル離れた後方に、都市部の最外郭のシールド兼壁が有る。

 壁と言うが何重にも各種の耐壁があるために、第三耐衝撃壁が一番外側だったか?


 今その壁の上の作業用通路に人が密集している。装甲服の望遠を作動させて、なんとか見える程度だ。

 何か致命的な欠陥があって作業員が群れている訳ではなく、ただの危機管理見学会だ。大体、10歳から11歳が集まっている筈だ。

 俺も通った道なので手に取るように分かるんだが、今頃はあそこから見える光景に子供たちが顔を青くしているだろう。


 詳しく解説するならば、都市外には目に見える脅威が何時でもそこにあるということだ。

 必ずしも都市内は安全という訳ではない。アレが何時暴走して、手に負えない物を吐き出すか分かったものではない。


 さっきからアレとか脅威と言っている奴だが、目標はここから500キロメートル程先にある。

 一応の正式名称は『奔流』。

 その他一般に広まっている呼称は『チョコレートバー』『黒い棒』『黒のバビル』『憎いあん畜生』『逆滝行』『送りつけられる私書箱』『にゅるりと黒い○○』『邪神杭』『一方通行悪意』『エビルブラックダークシュヴァルツ』エトセトラエトセトラ。


 見た目は黒い棒なんだが、黒い水のような物体が下から上へ間欠泉の如く吹き出している。

 いや、学者が分析したところによると、それすらもまやかしみたいな物でアレが本当の姿ではないらしい。

 直径は約50キロメートルで、頂点までの高さは2キロメートル。

 周囲1キロメートル範囲内には重力異常が発生していて、近付くと潰されたり飛ばされたりする。


 何時の頃から彼処に突っ立っていたのかは定かではないが、少なくとも歴史の記録に現れ始めたのは300年前くらいである。

 最初はもっとずっと細い、黒い竹みたいなものだったという。それがあそこまで急速に拡大したのが100年前ほど。一晩で様変わりしたというのだから、その時に何があったのか未だに不明である。

 惑星の一角を穿つ真っ黒い杭。それがあの『奔流』だ。


 それがまあ、ただの風景としてあるんならそれで良かったのだ。

 問題はあれが何かを何の脈略もなく産み出すことにある。

 専門家によると産み出すのではなく、何処かに繋ぐことらしいが。

 兎に角『奔流』は時々何かをあの黒い流れの中から、ぺいっと吐き出すのだ。

 それは物であったり、生物であったり、機械であったり、何だかよく分からない物であったりと様々だ。

 ただ、中から這い出た物が動く物であった場合は、ほぼ90パーセントの確率で人類に向かって牙を剥いてくるので始末に負えない。

 過去には『奔流』から出現した数万体の未知の生物により、都市が1つ消えてしまったらしい。たしか個体名グレムリンとか言ったか。機械を狂わせることに長けているとかなんとか。


 俺が今まで相対したことがあるのは『機器怪』とか『憤象』とか。

『機器怪』は様々な機械が寄り集り、怪物のようになったもの。

 今まで多種多様な姿が確認されているが、俺が見たのは怪物型だ。大きな獣の姿で戦闘を開始し、劣勢になるや蛇型となってのたうち回り、やがて結合が解けたのかバラバラになって沈黙した。

 その体のパーツとなっていた機械も、俺が見たことのある物もあれば何に使うのか不明なものまで様々だった。


『憤象』というのは20メートルクラスの象から、これまた同サイズの人の腕みたいなものがたくさん生えている奴である。

 それが全て拳を握っていて、手当たり次第に近付くものを殴り付けるのだ。

 殴れば特殊装甲ですら凹まされたので、近接戦闘では埒があかなかった。

 結局、遠距離からの集中砲火によって仕留めたのである。


『対象周辺に歪みを確認!』


 気を抜いていた訳ではないが、多少なりともボケッとしていたことは認めよう。

 いやいや適度に気を抜いておかないと、監視態勢を延々と続けているのって疲れるしなー。

 そんなところに緊急連絡が入ったことで、部隊全体に緊張が走る。

 同時に後ろの最外郭シールドも真っ白に濁り始めた。閃光などから内部の人類を守るためだ。

 今頃、あの向こうではサイレンが鳴って喧しいくらいだろう。


 今回俺の追加装備は背中に取り付けられたブースターを備えた巨大な腕だ。片腕の大きさはバス1台分に相当している。

 今ある装甲服の腕をフィードバックし、遠隔に動かす形で使用する。

 遠隔と言っても俺から離れられて10メートルまでだ。

 重力制御を行う関係上、下半身と背中のバックパックがかなり大型化してしまっているため、俺自身の移動速度はドン亀より遅いのが欠点だ。

 一応リアルロケットパンチが可能。しかし腕に内蔵してある固形燃料が限られるので、飛ばせる時間は10分まで。

 ぶっちゃけ極地近接戦闘(ガチの殴り合い)くらいにしか役に立たんぞ。作った奴は何考えてんだ!


 俺がメインシステムを作動させ、周囲では仲間たちが銃やバズーカなどを手に持って臨戦態勢に備える。

 総部隊長の命令(ゴーサイン)が下れば、全員が一丸となって任務に当たる覚悟だ。


 しかし次に来た報告で、肩透かしを食らうことになった。


『出現した物体は建造物と確認された。生命反応はなし。検疫は無人偵察機にて』


 動く物でなかっただけ幸いだ。だからといって未知の病原菌とかいたら目も当てられないが。

 皆が見える場所に背中を向けて立っていた龍樹姉さんが片手を上げれば、全員が武器をザッとしまう。

 俺もウェポンシステムを起動状態から待機状態に落とす。

 面倒なんだよこれ。起動状態から戦闘起動に移行するには、龍樹姉さんの許可がいるからなあ。


『おーい、49(フォーナイン)様よう』

「何ですか?」


 待機状態ならお喋りも許されてるが、全員に丸聞こえになる。龍樹姉さんにも届いてるし。

 固まりの前列の方にいたんだけど、振り向くと仲間の目線は俺の背中に向いていた。


『そのゴッツイ装備、重苦しくねえ?』

「この状態でも問題はないですよ」

『マジかよ……』

『有事の際は真っ正面で殴り合うんだろ。誤射しても文句言うなよ』

「オイコラ! 文句言うわ!」

『マテマテ。誤射した時点で反論は封じられてるかもしれんだろ』

『2階級特進だな』

「勝手に殺すな!」

『そもそも49様、階級幾つだ? 俺聞いた覚えねーんだけど……』

『この部隊に入っている以上、階級なんて頭打ちだろーがよ』

『似たり寄ったり。あんま変わんねー』

『金欲しい』

『女欲しー』

『ゲームしてー』

『二度寝してえ』

『前線に出ろよ。永眠出来るかもしんねーぞ』

『ごろごろ出来なくなんのは御免だね』


 好き勝手に仲間たちが話しているのを意識の片隅で聞いている。矛先が俺に向かなければ別にいい。

 途中で女性の話からお気に入りの娼館の話になったところで、ヒリ付く殺気が漂い始めた。

 ……あ。


『貴様ら! 気を抜くのもいい加減にしろ!!』

『『『サー! イエッサーッ!』』』


 ザザンという音と共に全員が直立不動になる。俺も例外ではないが。

 顔を上げると指揮車(10号)の上から俺を見る龍樹姉さんの口許に、ニヤニヤした笑みが浮かんでいた。

 娼館の話を耳から追い出して聞こえない振りをしていた俺の反応を見ていたのだろう。

 それともお望みの反応を見せなかったので話題を止めにかかったのか……。


 その日は結局、アレ以上の歪みが起こることはなく。

 部隊内で雑談→怒られ。雑談→怒られ、で1日が終了したのだった。



 いつも誤字報告してくださる方々ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] FFの魔法にあるデジョンとかで放り出されたものが行き着く先だったりして。
[一言] 次元を超えて世界をつなぐ? もしかしなくても、この世界の場合、それがゲーム内で異世界同士を繋いでるのか そして、言ってみりゃ都市の外はディストピアに近いんですね いつ怪物が襲ってくるか分か…
[気になる点] 地球上で500km先を直接視認する為には、対象か観測者のいずれかの高度が19.6km以上であるか、双方が5km以上でありかつ中間点が海面に近い低さの必要があります しかもこれは先端がギ…
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