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208 B7Fボス戦の話

 地下6階は亜熱帯というか、不快指数マシマシみたいな環境だった。

 湿度が高くて生温い風が吹いていて、何もしないで立っているだけで汗が吹き出てくる。

 すげえなVR。最近のはこんな不快感まで忠実に再現するのか。

 とはいえ劣悪な環境状態となれば軍の演習でたまーにあったりするからなあ。この階もそうだと思えば、俄然突き進む気も出てくる。

 精神修養とハンデ有りの動作確認だと思えばいいさ。

 所々沼地になりかけている水に浸かった落葉に気を付けていこう。


 アレキサンダーは蚊柱や小蝿などの小さい虫を積極的に捕食している。

 時折上から落ちてくる(ヒル)なんかはシラヒメの網に絡み取られ、下半身の蜘蛛のおやつになっていた。

 グリースは皆の足元を走り回りながら、百足や毛虫などを(ついば)んでいる。

 ツイナだけは暇そうに欠伸などで大口開けつつ、最後尾を着いてきている。


「しかし、ここは不快になるだけか? モンスターとかは出てこないのかな」

「イマノトコロ。……ソウイッタケハイナドハ、なイヨウデスワ」

「がう」「メエ」


 シラヒメが周囲を見渡しながら、ツイナが2頭の耳をパタパタ振るわせながら異常なしと伝えてきた。


「そうかー」と呟いた瞬間、真横にドスンと落下してきた物があり、俺たちは慌てて警戒体勢を取る。

 落ちてきた物は楕円形で刺々した表皮の何かの実ぽく、地面にめり込んでいるだけのようだ。

 上を見上げてみれば同じ形をした実が生っている枝が見える。

 熟れた実が落ちてきただけかい。びっくりしたなあ。

 拾い上げてみるとずっしりと重い。バランスを見るため片手で何度か上に投げてみる。投擲用としてよさそうだな。


「そこはかとなく漂う匂いは臭い、と」


 ツイナがつーと視線を反らすのを見ながら、木々の間からチラリと視認した赤い何かに目がけて、トゲトゲな実を思いっきり投擲した。即座に「ギイイイイイイッ!?」という何かの悲鳴と落下音が同時に響き、ツイナとグリースが駆け出していく。

 後を追った俺たちが辿り着いた先では赤い毛皮が落ちていて、ツイナがそれを咥えて戻って来た。

 トゲトゲはちょっと離れた所に落ちていて割れている。腐臭のような匂いが酷いな。

【アイテム知識】では「ドリアン」と表示されているが、知らないなあ。ゲーム産のオリジナル果物かねえ。

 ツイナから毛皮を受け取り「何だった?」と聞く。


「コケッ」

「ぐるる」「メエ」

「サル、だソウデス」

「サル? イビスの西の街道に出る奴の赤バージョンか」


 グリースとツイナの証言をシラヒメが通訳するところによると、赤い毛皮のサルらしい。西の街道の奴は青柿投げてきたが、こっちのダンジョンの奴は臭い果物を投げてくるのか。とことん人を不快にさせるのに特化している階のようだ。

 まあ、オールオールも色々とあの手この手でプレイヤーを苦しめているんだろうな。

 人の嫌がることか。俺もちょっと思いついたらオールオールに提案してやろうじゃないか。奴が枕を高くして眠れるようなダンジョン生活のために。


 しかし赤いサル以降、この階ではモンスターらしきものとは遭遇しなかった。残念だなあ。赤いサルの手とか落とすのか実験してみたかったんだが。

 そういやー前回は直通通路で7階へ降りたんだっけな。今回は見つけられなかったところから察するに、通路は埋めてしまったんだろう。

 前回はオーガがいたんだっけか。今回は何がいるんだろうな?


 階段を下りた先にはデカイ両開きの扉。おー、なんかそれらしい門構えだ。

 ペットよーし。装備よーし。アイテムよーし。HPよーし。MPよーし。毒薬とか余っているからたまにはこれでも投げてみるか。効く奴が相手であればだが。

 重いのかと思った扉はあっさりと開き、大きなドーム状の空間のど真ん中にこれまたデカイ図体の敵が立っている。天井は随分と高いな。よしよし。

 えーと。身長は5メートルくらいで頭部に目が1つ。半裸状態で腰蓑の様なものを身に着けて、片手には鉄塊と呼べるような太い棒を握っている。なんじゃありゃ……。


 俺たちがドーム内に足を踏み入れると、腕を上げて「ガアアアアアッ!」と吠えたのちにこちらに向かってゆっくりと歩み始めた。

 戦闘態勢に入ると相手の名前だけが表示される。

 サイクロプスとあるんだが、倒したらあの鉄塊が手に入るんかな?


 真っ先に戦闘に入ったのはツイナで、俺の頭の上をファイヤーボールが飛んでいった。3発ほどが直撃したが、爆発の黒煙を突っ切って、サイクロプスは何事もなかったかのように進んでいる。

 ファイヤーボールを如きと侮って気にしないのか、それとも当たってもダメージを感じていないのかどっちだ?

 サイクロプスは「グオオオオオッ!」と叫ぶと、振りかざした鉄塊を勢いよく地面に叩きつける。

 前に出たアレキサンダーを叩こうとしたみたいだが、ぴょんぴょん跳ねるアレキサンダーを捉えきれずに空振りに終わったようだ。

 アレキサンダーもツイナのファイヤーボールの効果を見て火を噴くのは止めたらしく、サイクロプスの周囲をころころ転がって囮の役目を務めている。

 ツイナも飛び立ってサイクロプスの周囲でファイヤーアローとかウィンドアローなどを放ちつつ、上方面の注意を引く戦法に切り替えたようだ。シラヒメも糸を放って移動阻害を試みているみたいだが、放った網を布でも払いのけるように排除されている。

 上下で注意を引いている隙間を縫って、こっちでサイクロプスをどうにかしないといかんなあ。


 近付いてから割と本気でわき腹辺りを殴ってみるが、ダメージは通った気がするようなしないような……。チクチクというくらいなのか。

 相手が俺をあんまり脅威に感じてないのが腹立つわあ。

 ここは俺もオールオールを見習って嫌がらせ戦法に切り替えるか。


 意外にも膠着状態な戦闘に一石を投じたのはグリースだった。

 サイクロプスが振り下ろした鉄塊と腕を足場にして、ダッシュで駆けあがって行く。肩口まで登りきったところでギロリと向けられた単眼に向かって、尾蛇が毒液を噴射する。


「グギャアアアッ!?」

「お。やっぱり狙うのはそこが効果的か。でかしたグリース」


 顔を押さえて悲鳴を上げるサイクロプスを見て、ツイナが自分の周囲にたくさんのファイヤーアローを浮かべる。

 シラヒメが放った糸でグリースを引っ張って自分の方に引き寄せると、片手で顔を押さえて呻くサイクロプスの顔面に向けてそれを全部斉射した。

 鼻はどうだか知らねえが、サイクロプスの頭部には耳もあれば口もある。目を覆っている手以外の場所にも無数のファイヤーアローが突き刺さり、サイクロプスが頭部を守るように体を丸めた。

 俺は獄卒の棍棒を装備すると、体ごと捩じって振り回しサイクロプスの足の小指に叩きつける。これも効果的だったようで、サイクロプスは悲鳴を上げると鉄塊を取り落として自分の足を抱えた。

 俺は次々と足の(すね)や腕の(ひじ)。突き指になるようなところを狙って獄卒の棍棒を振るう。人体の弱点は図体がデカくなってもあんまり変わらないんだなあ。

 サイクロプスは痛みを感じる部位を守るため、姿勢を下げてどんどん丸くなっていく。

 最後のトドメにHPの8割を【闘気】に変え、サイクロプスが顔面を守る指の隙間に貫手を放つ。ゼラチン状の眼球を貫き、サイクロプスが苦悶の悲鳴を上げたところで【城落とし】を発動させた。

 そこまで天井が高くないので、サイクロプスのほぼ真上に飾り気のない無骨な城塞が出現する。


 俺が離れた瞬間に、轟音と共に落下した城塞にサイクロプスが押し潰され、あっという間に周囲は土煙に包まれた。一応充分な距離を取って油断なく構える俺の周囲に、アレキサンダーたちが戻ってくる。

 土煙が収まれば、ダンジョン7階をほぼ占拠するように城塞がそびえ立っていた。もしかしたら城塞を押しのけてサイクロプスが現れるかとも思ったが、城塞はピクリとも動かない。


 あんまり近付きたくねえなあ。とか思っていると、この7階ドーム広場の一角の壁がバーンと開いた。そこからオールオールが現れる。

 オールオールは唖然としている俺たちに向かって「ちくしょうっ!」と叫ぶと、元来た道を逆戻り。壁の扉の中へ姿を消してしまった。

 悪態をつきたかっただけか。いきなり何かと思ったぞ。


「どうやら、倒したでいいみたいだな」

「コケケッ」

「がおーん」「めえ~」

「あマリヤクニタタナカッタデス」

 ぽよんぽよん。


 俺は肩の力を抜くと、インベントリから取り出したポーションを飲む。

 ボスのドロップ品を回収したら、さっさとここから出るか。


 いつも誤字報告してくださる方々、ありがとうございます。

 編集作業中に付き、更新がまたノロノロになります。

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― 新着の感想 ―
[一言] そう言えば、猿の手なんてアイテムありましたね 不良在庫のレアアイテム大量に抱えてる訳ですし、猿の手を使ったスキルガチャとかやってみても良いのでは? 空駆筆頭に取ったと言うか手に入れモノの使っ…
[一言] 健闘したサイクロプスさんに敬礼‼く(`・ω・´) 来世は眼からレーザーが放てるかもよ?(無茶振り)
[一言] ドリアンやサイクロプスが分からないとなると、 やっぱ地球じゃないのか時代が大幅にずれてるのか。 城落としの圧殺やっぱ理不尽すぎる。 弱点の待機時間を突くならボスの連続しか思い付かない。
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