205 ミミズ叩きの話
こはるさん、じゃねえや。リリプルとその友人であるマーチさんとファブルさんと一緒に、イビスダンジョンに突入した。
一応うちのPTはアレキサンダーたちがいるので1人と4体で1PT。
リリプルたち3人で1PTとし、リンクさせることで合同PTとして行動することにした。
1階はコボルトばっかり。こちらはグリース無双でだいたい片が付く。
コボルトが出る。グリースが蹴りまくる。吹き飛ぶコボルトに蹴って蹴って蹴りまくるグリース。時々嘴で鬼突きである。リリプルたち唖然。
ザラザラと出る鉄の短剣は全部あげよう。魔石は半分こな。
地下1階はゾンビとスケルトンとグール。
グールからの攻撃を喰らうと麻痺するらしい。
吹き荒れる火炎旋風。炎を吐くアレキサンダーとファイヤーボールを連発するツイナ。MP回復薬とMP回復茶があるからといっても熱波すぎんだろ。リリプルたちは引き続き唖然。
ここのドロップ品はほぼ魔石だから、半分こな。錆びた剣はどーでもいいや。
「……いつも、こうなの?」
「前回は俺も砕いてったんだが」
「これがビギナーさんがビギナーさんたるゆえん……」
「ビギナー職に感心するところじゃなくねえ?」
たぶん次の階はグリーンスライム無双になってしまうので、リリプルたちに前衛を任せるべきなんだろうなあ。でないと経験値が稼げないと思われる。
アレキサンダーとツイナを下げさせ、リリプルたちを前に出す。さっきドロップした鉄の短剣があればなんぼか楽だろう。
「うえ、私たちが前に出るの?」
「俺たちが殴ってもスキル上げにもなりゃしないからな。ここは前途ある第3陣に頑張ってもらうしかないだろ」
「うううん。人型って苦手なんですよね……」
さっき手に入れた鉄の短剣を構えながらファブルが愚痴を零す。マーチは片手杖を持って緊張気味になっている。金属製メイスじゃないのは、まだそこまで買える程のお金が稼げていないからなのだそうな。
残酷描写が低いならそんな気にならないと思うが、医療実習よりマシなんじゃね。あれも担当の教授によってはバラバラにする場合があるからな。
翠がそれに当たって、数日顔面真っ白になっていたし。
「たしかゾンビはマネキンに色とりどりのペンキをぶっかけたような姿になっているんだろ?」
「ええ、まあ。そんな感じですね」
「こっちなんかウジが湧いてるわ、擦り切れた筋が見えるほど皮がべろべろだわ、腹から腸が零れているわ。殴ったら肉片とか眼球が飛び散るし、他にも……」
俺の残酷描写のビジュアルについて解説を入れると、3人とも青白い顔になって背を向けてしまった。ふむ。言ったらマズかったか? 翠は顔色が悪くなる程度なんだがなあ。
それから気分が落ち着いたリリプルたちをサポートしながら進む。
いや、サポートするのは主にシラヒメとグリースだけどもな。
まずシラヒメが通路に糸を仕掛ける。グリースが先行してゾンビやスケルトンやグールを釣ってくる。対象がこっちに向かってくる途中で糸に足を引っ掛けてコケる。転んだゾンビやスケルトンをリリプルやファブルが中心となって滅多打ちにする。
前にも同じことをやったな。
「何だか私たちばっかり気を使ってもらって悪いわ」
「報酬は出た魔石の折半で充分だよ」
「今更だけど、魔石を何に使うの?」
「料理用のコンロの燃料になったり、ぬいぐるみを作る材料だったりだな」
料理と言ったところでリリプルとマーチがそっぽを向く。ああ、なるほど。
「料理できないのか?」
「い、良いのよ! 料理なんか出来なくても総菜やお弁当を買ってくればいいんだから!」
「マーチさんは目玉焼きが消し炭になるレベルで不器用ですから」
「ファブルちゃんが裏切った!?」
「私たちよりナナシくんが料理出来る方が理不尽なんだけど……」
「理不尽って何だよ。俺はリアルでも料理は普通にやってるよ。妹と交代で料理当番をこなしているからな。ゲーム内で料理してても不思議じゃねえよ」
「「ガーン」」
「掲示板でもビギナーさんの料理は評判が高いですものね」
「そうなのか。知らんかった」
「「「……おいおい」」」
試しに串焼きを1人に2本ずつ配ったら目を丸くしている。
マーチは匂いを嗅いでから目を輝かせて口に入れ、がっついて2本とも平らげる。
リリプルは特に疑うこともなく味わいながら咀嚼し、マーチに遅れて2本とも平らげる。
ファブルはSSを撮ってから1本を食べ、1本はインベントリにしまう。
「おいしい!」
「そうか、それはよかった」
アレキサンダーたちにも串焼きを配り、一旦その場で休憩とする。物欲しそうな顔をしてもこれ以上は金を取るぞ。と告げれば3人とも目に見えて落胆していた。うん、金がないんだな。
「これ何のお肉ですか?」
「オークの肉だな」
「そうですか、オークの……。「「オークううぅぅ!?」」」
食べ終えていたマーチとリリプルは残った串を見ながら、ファブルはインベントリにしまった串焼きを再度取り出して驚いていた。あれえ、オークの肉って珍しいのか?
なんか改めて聞いたところによると、オークの肉の串焼きはベアーガとその先のヘイズという街で売っているらしい。掲示板での情報によると1本がだいたい満腹度を20%前後回復させ、値段が5000~8000ギルするそうだ。
そうすると10%回復する食い物は2000~3000ギルするのか。
俺のは満福度を25%回復させるから1万くらいすることになるな。なんか高くねえ?
「高品質の食料は高いんですよ」
「へー」
「ヘー、じゃなくて! こ、この代金はお金が貯まったら必ず払いますから!」
「後から高利貸しみたいな金額は要求しねえよ。それは初回サービスってことでどうだ?」
「初回……」「サービス……?」
不思議そうにすることかね。オーク肉は飽和状態なんだ。減らしてくれる分にはいいかなと思って渡したんだが、なまじ掲示板に精通してるところで負い目に感じてしまうのは勘弁してほしい。
その後もゾンビやスケルトンを駆逐する三人を眺めていた訳なんだけれども。
途中でなんとなく通路全体が小刻みに揺れているような、微細な振動をキャッチした。それと【気配察知】に反応が出たんだけど、壁からなんだよね。
誰かが前に言っていた気がするが、でっかいワームが出るとかなんとか。あれか!
「ツイナ!」
「がう!」「メエッ!」
後ろで暇を持て余していたツイナを呼びつける。
ここに来る途中にあった通路の広い場所まで、走って先導してもらおう。リリプルたちはそれに付いて行くこと。アレキサンダーはその後ろな。
「何? 何なの!?」
「でっかいワームが来るかもしれんから避難してくれ!」
「「ワーム!?」」
掲示板で情報は拾っているのだろう。リリプルとファブルの顔色が悪くなる。戸惑っていたマーチの腕を取ると、ツイナの後を追って引きずっていく。途中で出てくるゾンビなんかはツイナが跳ね飛ばしていくから大丈夫だろう。
この時点で壁に亀裂が入ったので、慌ててその場を離れれば、ヒマワリのような頭部を持つミミズが飛び出してきた。直径1メートルの土管のような胴体を持つミミズだ。頭部の口の中には、円形に鋭い牙が幾重にもびっしりと生えている。
相対すれば『アシッドワーム』とだけ分かるが、名前以外に何にも分からん。アシッドって付くのなら酸性攻撃か何かをしてくるんだろう、たぶん。
獄卒の棍棒をインベントリから抜いておく。
アシッドワームが力を溜めるような動作をしたところで、天井に回っていたシラヒメが網を投げる。が、目がなさそうなので脅威と感じないのか、そのまま飛びかかって来た。
普通に迎え撃てる速さだったので、渾身の力で獄卒の棍棒を振り下ろす。
なんだか思っていたより色々と称号やスキルの付加が乗ったようで、一撃で倒すとまではいかなかったものの、アシッドワームの頭部にヒヨコがピヨピヨと回るエフェクトが表示された。
ありゃあ気絶したってことでいいのかね?
地面にくたりと伸びたまま微動だにしないんで、グラムロッドも取り出して2本で滅多打ちにしたれ。シラヒメも蜘蛛の8本脚をグサグサと刺したり、グリースもゲシゲシと蹴ったりしたんで気絶から回復する前に、アシッドワームを倒すことが出来た。
リリプルたちを逃がしてよかったのか悪かったのか。
まあ、最初に気絶しなかったら乱戦になっていたかもしれんしなあ。巻き込まないだけ良かったのかね?
ドロップ品はアシッドワームの肉と皮。怒りのメイスである。肉が食えるのか怖いんだけど、【アイテム知識】によると高級品らしい。マジかよ。
怒りのメイスはマーチにあげちゃってもいいんだけど、公正取引聖女が五月蠅くなりそうだから、どうするかなあ?
誤字報告してくださる方々、いつもありがとうございます。
連日暑いですが、皆様健康に気を付けて頑張りましょう。
運動不足なので自転車で出かけたら気温が38度になった。死ぬかと思ったわ……。




