203 再会の話
翌日はアナイスさん宅から再開だ。朝食を頂いてから外でペットたちを起こす。
アナイスさんはペットたちを見て、満足そうに頷いた。
「育ったねえ」
「お陰さまで。すくすく育っていますよ」
レベル上げが大変になってきたけどなあ。なんか更に増えそうな感じなんだよ。
何故かって? グリースが持っている卵になる袋が丸々と膨らんでいるからだね。
前に魔の森で拾った白骨死体を詰めたのが卵になったんだ。白骨死体と言うか骨の一部だけど。
グリースに断って手に取ってみると、孵化させるか否かの選択肢が表示される。
アナイスさんはその卵を見て、「面白そうじゃない?」と笑っていた。
その顔は中身を知っている顔だが、それを教えてくれる気はないようだ。
何が孵るのか分からないけど、孵すのに異論はない。選択すると、孵化までの時間が表示される。
ゲーム内時間でだいたい20時間。短けえ。
この分だとログイン時間内ギリギリになるか。
卵はほんのり青く、大きさは直径15cmくらい。グリースの袋もそんなに大きくないからな。生まれても幼体だった頃のシラヒメより、ちょい大きいくらいだと思われる。
特に温めたりしなくて、インベントリに入れておいても問題ないようだ。
何が生まれるのか楽しみだねえ。益々俺らの成長が遅くなるのが怖いけど。
ペット含む1PTとか、普通ないだろ。
「じゃ、アナイスさん。また来ます。色々ありがとうございました」
「うん。いつでもおいで。再修行でも構わないよ」
「そ、それはまた日を改めて……」
やぶ蛇にならないうちに、去ろう。うん、手早くな!
アナイスさんが苦笑いしてたんで、こっちの考えていることなんかお見通しだろう。
オールオールからの要請もあるんで、一旦イビスに向かおう。のんびり歩いていってもいいんだけど。
「よし、走るか」
ぽよんぽよん。
「わカリマシタ」
「コケケ」
「ぐるう!」「メエー!」
アレキサンダーはシラヒメの上へ、いきなり飛び出したのはグリースだ。結構速い。
その後に俺、シラヒメ、ツイナと続く。が、途中でツイナが頭の上をすーっと通りすぎた。あいつ飛びやがったなー!
かけっこが楽しくなってきたと思った瞬間、俺の体感速度がぐんと上がる。喜びの感情で【イェソドの加護】効果が働いたか。
イビスに着くまでに何人かのプレイヤーとすれ違う。皆なんかびっくりしてたが、たぶんあだ名の影響だろう。
「いチバン、デス」
ぽよんぽよん。
「にばーん! じゃねえ、3番か!」
「コケケッ!」
「ぐるるう!」「メエー!!」
イビスの東門前に辿り着いたのはシラヒメ(とその上のアレキサンダー)、俺、グリース、ツイナの順だった。
シラヒメの巨体が砂煙を上げて突っ込み、門番の兵士が驚いて槍を構えていた。門の直前で停止したので実害はなかったけど、心臓に悪いよな。ごめんなさい。
門前にいた人や馬車もびっくりして逃げ出していたので、頭を下げて謝っておく。誠に申し訳ない。
「ぐるう! ぐるるう!」「メエー!」
「あー、ハイハイ。ワカッタワ、わルカッタデスワ」
イビスの東門が見えた時点ではツイナが先頭だったんだよ。シラヒメが糸を放って地面に叩き落としたけど。
弟に容赦ねえ姉の姿に戦慄したぜ。まるでうちのリアル……。
お陰でツイナが泣きべそかきながらシラヒメに食って掛かってる。
背中にいたアレキサンダーも、叩き落とされたツイナにびっくりして一瞬針山になってたからなあ。2人の仲裁は一切しないで、見て見ぬ振りだ。
グリースなんかもう我関せずとばかりに俺にべったりだよ。
「ぐるぐる」と文句を言ってるツイナを引っ張ってイビスに入る。
おーおー、視線の凄いこと凄いこと。久しぶりに人が多いところだからなあ。ホースロドは過疎ってたから、街中にこんなに人が歩いていなかったぞ。
ペットと泊まれる高級宿を先に取っておこう。宿の支配人さんがツイナに触りたそうにしていたが、噛まれるかもしれないからダメです。
用がないのに道具屋のお婆さんのところに行ったら、たぶん追い出されるんだろうな。『会合でおったわ』とか言われそう。何処にいたんだか知らないけれど。
魔女の会合があったんで美容液は未売却だった。しかし、昨日の今日じゃあ、魔女が売るようなこともないか?
商業ギルド行って競売に出す品物を伝えたら、慌てた職員に奥に通された挙句、偉い人が出てきた。あれ、なんか大事になってねえ。
「び、美容液とおっしゃいましたか?」
「ええ、まあ」
2瓶をテーブルの上に乗せると、副ギルド長だという女性がビックリして目を見張っていた。
実のところ、ティーフェレースの神様から貰ったのは美容液のレシピ集だ。
前回と今回と作ったこれは、肌の潤いを整える美容液なんだよな。
他にも数種類あるんだけど、材料が分からなくて作れないのが多い。
ノピッドプールの蜜とか。【アイテム知識】によると、山脈地帯の頂きに生える花の蜜とあるんだけど、何処だよって感じだ。
あれか、鉱山抜けた街道の向こうの方に見えた山脈まで行くようなのか。遠すぎるわ。
話がそれたが、何だか美容液を睨み付けていた副ギルド長が、恐る恐る不穏なことを言い出した。
「実は貴族の方に、美容液が提出されたら競売に出さずにこちらに回せと言われているのですよ。でも異方人の方を騒動に巻き込むのも本意ではありませんので、これは見なかったことに致します」
「……なるほど。そっちは大丈夫なのか?」
「商業ギルドは大きな組織ですから、お気になさらずに」
「そうですか。お気遣いありがとうございます」
「はい。ではお気をつけて」
副ギルド長の人に頭を下げられちゃったなあ。
俺は美容液を回収して、外で待っていたアレキサンダーたちに合流する。なーんか嫌な話を聞いちゃったぞ。
何処に耳があるか分からんし、一応警戒はしておくかね。
と考えたところで人が俺たちの前に飛び出してきた。「もうかよ」と思ったんだが、対象は女性で何処かで見た気がするな。何だっけ?
「あ、あの! な、ナナシく……、さんお久しぶりです!」
「あー、ええと……。こは……、じゃねえや。なんて呼べばいいのかな?」
「ああ、こっちの姿での挨拶はまだでしたね。リリプルです」
この前の迷子のこはるさんのアバターだった。カチコチに固まってて偉ぶってこないのは何で?
最初に会った時みたいに、尊大な言葉でもいいんだぜ。
よろしくと握手すると、その後ろにいた女性2人が「「キャーッ!!」」と悲鳴を上げた。
何なんだいったい?
誤字報告してくださる方々、いつもありがとうございます。
前話は誤字の多いこと多いこと。半分寝た頭だったからかなあ。
リアデイル5巻のカバーとコミック2巻の書影を活動報告で公開しています。




