201 根拠のない自信の話
リアル回です。
あれから次にログインしたゲーム内時間の丸々3日分を魔の森捜索に使い、米俵を6つ確保した。
出てくる敵は避けられる物は避け、そうじゃないものは全て粉砕し、破竹の快進撃で稲穂狐を探し回った。
フォーアームも片付けたし亀さんも仕留めた。
ゲームの中で有頂天になった俺はその勢いで「これはイイところまでいけるんじゃね?」と増長し、龍樹姉さんに模擬戦を申し込んでみた。
はい。
子猫のようにあしらわれて、あっさり気絶させられました。
調子に乗ってすみませんでした!
激しく反省しております。
所詮俺なんて全然大したことないんだよ。これからは謙虚に生きようと思う。
「あっはっはっはっは!」
「うるせーよ6号!」
「だ、だって、物凄い自信満々な顔で隊長に挑んだのに、あっさり負けてコンテナに突き刺さってるんだもん。これが笑わずにいられますか!」
「やかましい!」
腹を抱えて大爆笑する6号の隣では、青い装甲車が車体を震わせている。10号まで爆笑すんのかい!
「もう! 弟君だって無様を晒したい訳じゃないんだから、そんなに笑ったら可哀想だよ!」
「……よしよし」
「ううっ、2号と8号が優しい……」
2人に頭を撫でられれば、気持ちが少しは浮上する。人じゃないけど、可愛い&美人の女性に慰められれば誰だってそうなる。
今現在はまだ軍の敷地内。
傍らにはついさっきまで俺が突き刺さっていたコンテナが、歪な形のまま転がっている。よくこれで死んでないよな俺。救急キット様々なのだろうか?
そこから抜いてくれたのは2号と呼ばれた20代くらいの女性。いや女性型のサイバーノイドである。
白を基調に体の各箇所を青い装甲が覆っている。金の瞳に青い髪、人間離れした美貌の頭頂部からはピンと伸びた動物の耳。
軍の特殊機動、サイバーノイド部隊所属の遠距離狙撃型2号兵。通称2号さん。
龍樹姉さんの纏めている部隊の隊員で、用途別に特化した兵士の一人だ。
これが出動するような事態こそが非常事態宣言の現れみたいな、と揶揄されている。
軍で一番暇な部隊で、たまーにちびっこ相手の交通安全啓蒙イベントにかりだされたりしている。
イベントに参加しているちびっこたちは、猫耳のおねーさんたちが軍の備品だなんて知らないんだろうな。
サイバーノイドは動物の遺伝子を融合された、人形機械の総称だ。たまに人形じゃない形態のもあるが。
人間と区別するために、動物の一部位を表面に顕在化するように法律で定められている。つまり耳が付いていたり尻尾があったり翼が生えてたりするのである。
バイオロイドと同じく、人間に奉仕する種族となっていて、第2種人権が保証されている筈だ。過酷な作業現場に行くと奴隷のような扱いを受けていると聞く。
サイバーノイドはバイオロイドより耐久力が段違いなので、惑星開発や前線の真っ只中に配置されていることが多い。
目の前にいる数人は姉さん直属の部隊なので顔を合わせることが多い。俺にとっては別系統の従姉妹みたいな感覚で、気安く接することの出来る関係だ。
さっきから爆笑している6号は近接戦闘に特化し、背中に折り畳まれた2本腕で桁外れのパワーを発揮する。色々な武術をインプットされているせいで、近接の対応力がとんでもない。俺の場合だと4腕全て使われたら、確実に負ける。
その隣でフルフル震えている装甲車輛は10号だ。耳ではなく後部から三毛猫のような尻尾が飛び出ている。車両だが水中も大丈夫だし、短時間だが空も飛べる。更には同型機6両と合体してロボット形態になることも可能だ。
狐のような耳の生えた黒褐色の装甲を身に纏っている8号は斥候&隠密型だ。この中で一番小柄で基本的に無口無表情。たまに遊びに来る翠に斥候の何たるかを教えていたりする。翠は一体何になる気なんだろうな……。
後は汎用型の4号がいるが、俺と同年代くらいの女性で熊耳が生えている。ちょっと加減というものを知らなくて、超ハイテンション状態で飛びついてくることが多い。
ちなみに直撃を喰らうと腰骨を折られるか肋骨を粉砕されるので、接近を許したら死ぬ。
今のところは偶数番号機しか存在してないが、奇数番号機は予備(10号は別)で総力戦等にならないと出してもらえないそうだ。そんな事態になったことはここ100年ほどないらしい。
「……」
「えーと、何だ?」
8号が俺の腕を取って、くいくいと引っ張る。
何かを訴えるように見上げてきてはいるんだが、言葉にしてくれないと俺も何なんだか分らんぞ。
ちょっと通訳。誰かこの子の通訳をお願いします!
「帰らなくていいのか、って言ってるぞ」
「あー、俺も帰りたいのは山々なんだけどなあ」
6号が8号の首根っこを掴んで俺から引き離す。
通訳された「帰らなくていいのか」の部分で、ぶら下げられた8号がうんと頷いている。
ところでぶら下げられたその状態に嫌悪感はないんですかねえ?
「実は出動が控えている」
「あら、珍しいですねー」
「なんなら手伝ってやろうか?」
「お前らだけで出動許可が出るわけないだろ!」
こんな敷地内でのんびりしているのは、専用ハンガーを搭載したコンテナキャリー待ちではあるんだけど。
これから重装外骨格を使っての任務であるが、機動兵器と同じトコに積まれているので、オレだけ出動場所が別なのだ。
何も装備全部同じトコに積まなくてもいいんじゃなかろうか。
しかも専用ハンガーを置いてあるのが、整備部でなくて研究部である。
同じような整備を受けられるからと言って毎回、そこから持ってこなくてはならないのが面倒くさい。それが回されるまで待ちぼうけなんだよ。
8号たちと雑談をしながら待っていると、分厚い辞書みたいな形のコンテナを挟んだトレーラーが漸くやって来た。
本を開くみたいに側面と天井が開閉し、その中に横たわった機動兵器とコンパクトに折り畳まれた重装外骨格がある。なんかまたデザインが違うような気がするなあ。
「んじゃ行ってくる」
「「「行ってらっしゃい。気を付けてねー」」」
「おう」
俺が専用ハンガーに入ると開閉した所が閉まる。と同時にトレーラーごと動き出したようで微細な振動が伝わって来た。
いつも思うんだが乗り込むのにこんなデカい扉じゃなくて、通用口みたいな出入口はないんかい。
服を脱いでインナーに着替え、プロテクターを着けて、個人用の携帯装備を体の各所に取り付ける。主に2日分の携帯食料や救急キットや武器などだ。
それから重装外骨格を起こして、そいつを着こむ。武器は任務別に持っていくものが違うから、部隊纏めて飛ばす輸送機で受け取るので、ここにはない。
装備のフルチェックを終えたところでトレーラーが止まり、扉が開く。目の前には滑走路と輸送機。それと部隊の皆が待っていた。
集まりは悪く、まだ半分くらいの人数しかいない。それでも目の前の格納庫から次々と出てきているので、そのうち揃うだろう。
「おー、49様のお出ましだー」
「なんかお前の重装、また形変わってないか?」
「毎回テスト装備を押しつけられてるって聞いたぞ。故障ったりしねーだろうな」
「そんなのは俺が聞きてーよ!」
俺が反論すると皆がどっと沸いた。
毎回装備がちょっとずつ違うのは研究部に回されているからなんだろーが、受け取るまで分からないのが酷い。着込んでから目の前のディスプレイに表示されて、チェック途中で初めてわかるんだもんよ。
この前なんか、マイクロミサイル200発とか表示されて、任務の途中で被弾したら誘爆しないかビクビクしとったぞ。
今回は増槽だけどな。いや、推進剤倍なんて何をどう生かせと言っているのか分からんわ。
もしかして今日は逃げ回る任務なのかねえ。
ちなみに『49』というのは任務中の俺のコードネームである。配属された順なのだが、退役や欠番などで常に49人以上もいるわけではない。俺の前は『41』だし、後ろは『53』だ。
個人的理由で参加人数が上下する場合もあるので、フルメンバーで事に当たることはあんまりないなあ。個人的理由の内訳は入院や病気、それか葬式や結婚などである。
そうこうしているうちに参加人数が揃って、ぞろぞろと輸送機に乗った。
はてさて今日の任務は何だろね。
毎回誤字報告してくださる方々、ありがとうございます。
リアル回を蛇足だという方もいらっしゃるでしょうが、作品にとっては重要なのです。




