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02 お誘いの話


「お・に~・い・ちゃ~ん~」


 どこか媚を売るような響きで聞こえてきた義妹の声に足を止める。

 声はすれども姿は見えず。


 いつものことかと納得した俺は、第六感に従い左脇側へ手刀を落とした。


「ぴぎゅっ!」


 愉快な悲鳴をあげた義妹の頭をひっつかむと、対象の震えが伝わって来る。


「あ、あのー、お兄さま?」

「なにかな?」


 上目遣いで此方を見上げる(ミドリ)の表情は固く強張っていた。


「これから、わたしは、どうなるの、デショウ?」


「うむ、いい質問だ翠くん。

 家の中だというのに死角から兄に近寄って来る不審者には、もれなくアイアンクローをプレゼントしようと思うのだが、どう思うかね?」

「いえその不審者はもの凄く反省してると思いますここはどうぞ情状酌量の余地を与えるのが良いと愚考する次第であります!」


 翠の首から下がガタガタぷるぷると振動する。

 まるで怯えた動物のようなので、ここはさっさと判決を下してやらねばなるまい。


「はい有罪」

「いいいやああああっ!? いだだだだだっだあぁっっ!? お味噌が出るからやめてえええええっ!」


 ちょいと力を込めたくらいで大袈裟な。




「ぐすん……」


「なんでお前を呼びに行っただけの翠ちゃんが涙目になって、部屋の端っこで膝抱えてんだよ?」

「タカも何か用なのか?」


 見た目明朗快活を人型にした幼馴染の春馬貴広(ハルマタカヒロ)が怪訝な顔である。


「なんかスゲエ悲鳴が聞こえてきたからビビったぜ」

「ハウスルールに従って罰が下されたんだよ」


「山野家のハウスルールって極端過ぎやしねーか……」


 そう呟く貴広の表情は引きつっていた。

 はて、いったい誰のことに思い当たったのやら。



 山野大気(ヤマノタイキ)こと俺と義妹である翠が家族の一員である山野家は、上から下まで破天荒な人物しか居ないと断言できるだろう。


 まずは血が繋がっていない母親。17歳の俺より小さいくせにやることは太っ腹だ。


 子供たちは皆(俺も含めて)全国各地から母親が集めてきた孤児ばかりだ。

 1年も一緒に暮らせば他人とかいう垣根は打ち砕かれ、家族としてまったく違和感などないと断言できる。


 歓迎会からの流れが怒濤過ぎて、どんなヒキコモリやツンデレも被った猫をかなぐり捨てて先達に助けを求めてくるくらいだからな……。


 かく言う俺も引き取られ1号ではあるのだが、ナイフ1本渡されて険しい山脈が連なる大自然に放り込まれた。後で母親に聞いた暴挙の理由はと言うと「根暗そうだったから」だそうだ。

 大きなお世話だっつんだ。ちくしょーめ。


 まあその初期体験のせいか、サバイバル生活に憧れを抱く毎日である。


 だったらやればいーじゃねーかと諸君は思うのだろうが、俺の住むこの国ではそれが出来ない理由が存在する。


 第1に18歳以下の宿泊(野宿、キャンプ込み)には保護者同伴が必須である。

 第2に国内の山々はほぼ国立公園となっている上に、厳格な管理体制が敷かれている。樹を切り倒したり、野性動物を狩ったりするには申請が必要で、許可が降りるには何週間も待つ可能性が出てくる。


 だったら俺が子供の頃に放り込まれた所はなんなんだ? と思って調べたところ、家から歩いて数時間の範囲にそんな場所は存在しないことが判明した。

 母親に尋ねてもウインクとともに「秘密」と返されたくらいである。


 なので成人したら海外に出て、世捨人のような生活をするのが夢なのだ。



「おい大気? サバイバルに夢見るのはいいが、俺の話も聞け」

「何故分かった?」


「何年幼馴染やってると思ってるんだよ。兎に角聞け。サバイバルの夢が叶うかもしれんぞ」

「よし聞こう! 早く聞かせてくれ早く言え!」


 ついつい貴広に詰め寄ってしまった。

 鼻先が付くくらい接近したら、怯えた貴広が慌てて離れる。


「ホント、サバイバルの話になると目の色変わるな。怖いから詰め寄ってくるな!」

「ああ悪い悪い。つい、な」

「つい、で肩砕かれる身にもなれよ……。死ぬかと思った」


 以前に似たようなシチュエーションになった時、力加減を間違えて貴広の肩を砕いてしまったことがある。

 その時の怪我は姉の1人が「ちちんぷいぷい」で治し、俺は母親に物凄く怒られた。


 自分でも猛省したのだが、しばらく力加減の修行と称して卵の殻で延々と雛人形を作らされた記憶がある。

 玄関にうず高く積まれていたからな。軽くホラーな光景だったのは記憶に新しい。


 そんな過去があるのに幼馴染を続けてくれる貴広には感謝しかない。

 おっと貴広も翠も俺に話があるんだったな。人を前にして関連付けた物事を考え込むのは俺の悪い癖だ。いかんいかん。





「ゲームか」

「ゲームだ」


 2人の話とは新しく始動するVRMMOゲームへのお誘いだった。


「VR系なぁ……」

「反応が悪そうだな」


「だってあれ系って反応が鈍いんだぜ。歩くだけで違和感が半端ない」


 前にも翠に薦められてやったんだが、体動かすだけで半歩ズレた感じが気持ち悪くて、開始10分で辞めちゃったんだよな。俺がやるゲームといえば主に箱庭育成系だ。


「なんてゲームだ?」


「『あるVRMMOの話』」

「は?」


「『あるVRMMOの話』というタイトルのゲームですよ、兄さん」

「なんだその、犬にポチと付けるレベルのタイトルは? もうちょっとマシな付けかたがあるだろう普通」


 貴広も翠も「まあそういう反応だよ(な)(ね)」って顔で苦笑いをしてる。2人も通った道だったのか。すまんかった。


 タイトルに関しては俺もスルーするとしよう。



「というかβテスターの誘いは兄さんにも来てたはずですよ。母さんからの依頼ですし」

「うん? 何時に来た? 覚えがないんだが」


 端末を取り出して通信記録のログをざーっと見ていく。

 といってもアドレス登録先は、母親か義妹か義兄姉か貴広くらいしかないからなあ。ログに一番多いのは貴広≧翠>母親という具合いである。


 友だちが少ないのは仕様だから気にしないでくれ。


 ログの中に母親からの「依頼項目」というものを見付けたが、日付けが問題だった。


「ああ、あったにはあったが……」

「なんで返してないんですか?」


「この日はあれだ。ジョギングしてたら遠出し過ぎて補導され、保護者呼び出しの上に反省文を20枚書かされた時だな」


 貴広がぶふっと吹き出して、翠が額を手で押さえる。

 母親には直接会ったんだが、雷がどかーんと落ちた以外ゲームの話なんかなかったぞ。怒りでその辺忘れていた可能性が高いな。


「ゲームの登録コードはそちらのメールに入ってますから、兄さんもぜひプレイしてみてください」

「えー」


 というかこれって贔屓過ぎやないかね。

 他にも遊びたい奴がいるとして、やる気のない俺が占有権持ってていーんかね。


 やる気の無さが顔に出てたのだろう、貴広が笑顔で肩を組んで来た。翠は俺の右腕を引っ張るようにして前後に振り回す。


「にーさぁ~ん。たまには妹と一緒に遊んでやろうと思わないんですか? 私は思います!」


 義妹と一緒にゲームでランラランとかかぁ? 微妙に鳥肌が立つ絵面だな……。

 普通の世の兄妹はこーゆー時どーいった反応で返しておるのかねえ。


「まあ騙されたと思ってやってみろ。基本プレイは無料だし、課金しなくてもそれなりに遊べるって。かなり自由度もたけーし、サバイバルプレイも多分出来ると思うぜ」

「あー」


 サバイバルの単語には心惹かれるがなあ。


「兄さん!」

「大ィ気ぃ!」


「あー分かった分かった! 分かったから振り回したり揺すったりするのをヤメロ!」


 2人して「いぇーい」とかハイタッチしてんじゃねえよ。別の意味で頭痛くなったわな。


 返答すんの早まったかな……。


 日間ランキング載っていました。

 お読み頂いた皆々様ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
普通の兄弟はそんな会話しません!!
[一言] なんか主人公色々とおかしくね?あれ?
[一言] おかあさんって、もしかしてリアデイルのあの人かな?、あの人なら次元移動とか簡単にできそうだし。
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