196 仮注文の話
まずは草刈り鎌。
……なんで草刈り鎌?
説明文には『一番最初に切った物しか切れなくなる鎌。人を殺るなら首を狙いましょう。草刈り鎌としても優秀です』とある。
誰が書いたんだこれ?
フォーアームから出たようだ。フォーアームの正式名称はザンソルグというらしいが。
草刈り鎌にするか、人刈り鎌にするかは使用者次第になる、と。
これが3本あるから、魔石がその分だけ増えているんだろう。つーかあの中に3体もいたのかい。
次はレインディアの魔槍。
刃先がグレイブのように湾曲した槍だ。MP消費で雷撃を纏わせて、傷付けた相手を麻痺させる効果を持つ。これは何から出たんだろう?
雷を纏った角を持つ、サンダーレインディアっつー鹿とやらかな。探せば立派な角もドロップしていた。
それと滑空のマント。
高い場所から降りるときに使う。装備するだけで、ハンググライダーのように滑空できるようだ。
自力で飛べる訳ではないみたいだが、出たのはムササビから?
記録映像でしか見たことはないが、ムササビスーツみたいなもんかね。
後は通常攻撃が貫通攻撃になる腕輪。
喰らった魔法の威力の3%分だけMPを回復してくれる指輪。これは紐を通して首から下げるだけでもいいようだ。
しかしアクセサリーの類いは、いったい何からドロップしたのか全然分からん。
中でも異彩を放っていたのがバクの抱き枕だ。
『重度の不眠症の人でも1発で夢の中に誘います。不眠不休で勤める研究者の方をベッドに叩き込むのにも最適です。眠らないアンデッドにもよく効きます。ご家庭に1つどうですか?』
どこの通販番組の謳い文句だ。ゲームで不眠症もねえだろうが。NPC用かな?
ゾンビでも呼び出して持たせてみるか?
そして【城落とし】が漸くレベル10に。そして振動ダメージ付加がついた。
これは城の下敷きにならなくても周囲にダメージがバラ撒かれるようだ。
見物人とかヤバくなるやつじゃね?
それか敵オンリーなのか?
試しに何処かで実験してみるしかないようだな。
後は自分のレベルが39にアップ。アレキサンダーたちもそうだが、一気に3レベルも上がった。
公開されている中でレベル高いプレイヤーは51だっつーんだから、まだまだ俺のレベルは低い方なんだろう。
SPが21も貯まっているから何か取らないとなあ。何が必要かどうかが分からないんだよなあ。
逆に何が不足しているのかというと、目か?
こちらの能力がリアルに反映するならば、龍樹姉の攻撃を見破れるような認識系統が必要だろう。
スキル取得一覧表を開いてそれらしき物を探す。
【鷹目】【見切り】が動体視力アップ系。
【体術】【回避】が身体能力アップ系だ。
【見切り】と【体術】辺りにしておくか。SP12と9で21。丁度いいや。
それと【料理長】スキルが米の炊き上がりを知らせてくる。
鍋の蓋を開けて杓文字で解してから、少し手にとって食べてみる。うん、炊き上がったばかりの米は旨いなあ。
本来なら蓋をして蒸すんだけど、スキルのお陰でその行程はいらないようだ。
味付けが塩だけで悪いが、お握りを大量生産して皆の前に並べる。
「おー、お握りだー」
「白い、尊い……」
「ビギナーさんこれは?」
「さあ、たんとおあがり」
「「「うおおおおおおおおっ! ありがてえっ!」」」
「「「いただきまーす!」」」
その場にいた40人近くがいっせいに手を伸ばして、我先にと取っていく。
1個作ったつもりでも【料理長】スキルの大量生産で10個生産されたからな。正味50個作ったが、あっという間になくなった。
「ウメえ! ウメえ!」
「ああ銀シャリや銀シャリや!」
「ゲームで米が食えるとは思わなかったぜ」
「これ満腹度が20%あんだけど……」
「ビギナーさんていったい……」
「考えるな! 感じろ!」
「次はビギナーさんに丼物を作ってもらいたいなあ」
アレキサンダーたちには別に取っておいたのを渡す。
お握りにはしたんだけどツイナはひと口で消えた。
ライオンみたいな肉食獣って噛んでいるのか?
満足そうに口回りを舌で舐めているけど。
グリースは嘴なんで器に盛ってやる。
突っついてちょっとずつ飲み込んでいるようだ。
シラヒメはお握りで渡してみたが、下半身の蜘蛛が三口くらいで食べてしまった。
「おイシイデス」
「そーか、よかった」
蜘蛛の味覚ってどーなってんだろうな?
アレキサンダーもお握りで渡す。渡すというか、頭の上に乗せたら体内にとぷんと沈んでいった。
徐々に溶けて小さくなっていくお握りが外から視認できる。
これはこれで異様な光景だ。
ぽよんぽよん。
美味らしい。満足してくれればそれでいいや。
「ビギナーさんありがとう」
「ご馳走さまでした」
「次は丼物の屋台を開いてください」
「これ少ないですけれど……」
米を食べた面々はお礼を言ってくる。あ、謝礼はいらないからな。
屋台はいいけど味付けがなあ。今度は醤油と味噌の取れる場所をスフィンクスに聞きにいけばいーのか?
あと卵。メンドゥリばかり倒す訳にはいかないしな。
グリースにお嫁さんを貰えば卵を産んでくれるのかね。
卵を安定供給出来る場所を探さねばなあ。
インベントリがいっぱいなのでホースロドへ戻ろう。
嵐絶の別働隊は森の中でまだ探索することがあるというので、その場で別れた。
大地の牙は一旦戻るというので同行することにした。
「まだギルドから要求された本数には全然足りないんだけどな」
「ギルドも何に使っているんだろーな」
「ビギナーさんは哭銅をどーすんだ」
「持ち運べる家を作る」
「「「へ?」」」
鳩が豆鉄砲喰らった顔になっているぞ。
俺は後ろにそびえ立つ城を指差した。
「例えばあの城はセーフティーエリアとして使える」
「え、マジで?」
「だからプレハブでもいいから家を作ってしまえば、そこでログインログアウトが出来るんじゃないかと思ったんだが」
「「「おー、なるほど!」」」
「でも家が壊されたら?」
「だから哭銅で作るんだ。最悪壊されたとしても、最寄りの街にホームポイントとなる場所が飛ばされるだけだろ」
「確かに……」
大地の牙の人たちは城を振り返りながら黙ってしまった。
何かを考えているようにも見えるが、どうしたのかね。
「もしそれが成功したら……」
「うん?」
「そのプレハブを作ってもらうことは出来るか?」
「……は? あ、量産しろってこと?」
「販売を求む。出来たらぜひ売ってくれ」
「うーん。まあ、作ってみてからなら」
「おう、待ってるぜ」
「ただ材料は取ってきてな」
「ぶっ!?」
哭銅にしろ何にしろ、ソロで一々魔の森と往復してらんねーからな。
誤字報告してくださる方、いつもありがとうございます。
電子書籍に切り替えたら、一気に300冊とか購入してしまった。積んでますが(笑




