190 曖昧になる話
リアル回です。
はー、前回は疲れたこと疲れたこと。
あのあとログアウトしても、まだ体が軋むような気がしてならなかった。
その日の夜に軍の仕事があって翌日の昼までそっちにかかりきりとなった。
仕事としては通常の全体訓練である。夜間緊急出動に始まり、場所を変えての展開訓練だ。
集合から武装装着を経由して、輸送機に搭乗して移動のちに展開を繰り返し。その逆の撤収を含む手順を何度も何度もだ。
ただ前回に重装外骨格のフレームを歪ませたせいなのか、修理されて戻ってきたのが自力で着脱できないものに変わっていた。
専用ハンガーが別なんだよ!
そんでもって、俺だけ専用ハンガーごと射出である。それで専用ハンガーは自動で戻るからいいとするが、帰還する場合はそれごと戻らねばならないからまた時間がかかる。
なんだか整備班の悪意が、ひしひしと伝わってくるようだった。
すみません。次回から気を付けますので許してください。
その翌日は仮眠をとって夕方から、母親も交えての映画鑑賞とあいなった。
映画館に行っても良かったんだが、自宅のTVをシアターモードにして家族で視聴ということに。
封切りの映画だと後々のレンタルよりは高いのだが、そこはもう母親のゴリ押しに勝るものはなく。
プチ姉や牙兄貴も一緒に視聴と相成った。母親の思い付きで急遽開催されることになったので、強制的にゲームから離脱させられた翠だけふくれっ面のまま参加である。
見るのは勿論『劇場版勇者武装ガガーン! ~南の島で遺跡? 石器? 古代の贈り物~』だ。
実際には南の島ロケなんて出来る筈もないので、ちょっと人払いを徹底した海岸とVR技術によるものである。
撮影のVRだと中で実際に変身が可能だからなあ。
そのせいもあって春斗さん(主役俳優)がずいぶん張り切って、待機の間にずっと変身を繰り返して遊んでいた。
「子供かっ!」とアカネちゃん(妹役アイドル)に突っ込まれていたのは、笑い話でしかない。
劇場版では民族のお面的なアクセサリーに宿った付喪神のようなキーキャラとして、スタント以外で俺が役者参戦している。
姿は胴体と同じくらいな大きさのお面を被り、着ているものは腰ミノと手足首の貝殻リングくらいだ。
腰ミノの下は肌色と大差ない下着を着用しているので、マズイ部分は晒さないようになっている。
お面は赤銅色で、目がギョロっとしている。歯は剥き出しの犬歯が上下から突き出ている状態だ。
声は金切声みたいなものを合成音声がアフレコしたので、俺は被り物野生児を演じただけである。
見ていた感じではきちんとやれていたとは思う。
春斗さんやアカネちゃんには撮影が終わった後に「役者を目指してはどうか?」との誘いを受けた。
柄じゃないので、辞退したけどもなー。
悪側の女幹部、暗黒武将アルミナのシーンの時だけ母親がテンションMAXだった。
劇場版らしく、ガガーンの勇者武装が遺跡から発掘された物を使ったりとか、アカネちゃんの水着シーンが多めだったりとか。
本来なら顔出しもしないアクターさんが、通行人役ででてたりとか。監督も混じってたりしてた。俺は顔出しNGだから、入ってないけど。
撮影中はなんかみんな振り切れてたからなあ。普通の撮影も残りは最終話だけだし。
ちなみに次の特撮ヒーロー番組は既に撮影に入っているけども、俺はスタッフには含まれていない。
何故か春斗さん繋がりで、着ぐるみに入って夜ドラマに参加することになった。
幼児用の教育番組を作る局のスタッフのあれこれを、面白おかしく描くドラマである。
その中に恋有り、三角関係有り、修羅場有りというストーリーらしい。どんなだ?
俺がやるのはアクロバティックなこともこなす、局のマスコットのライオンだ。
既に1回目の撮影で番組冒頭から、ビルの壁面を駆け降りながらバンジージャンプをするというシーンを撮ったばかりだ。
謎過ぎるマスコットである。
スタッフさんや俳優さんたちに大ウケだったのは、記憶に新しい。
そして演出家さんからは「階段を下りるときはパルクールで」という指令を受けている。
演者さんたちが番組の方針について協議している背後では、着ぐるみのライオンがパルクールをしながら上から下へ通り過ぎて行く。というシーンを何回も撮ることになった。
何故だか途中で女優さんが笑いだしてしまい、リテイクが8回にも及んだのである。
全くもって謎なマスコットだ。
本放送はまだだけど、番組が始まったらあのシーンだけはしっかり確認しよう。
着ぐるみを着ての行動で瞬発力が気になったので、そこから2日くらいは砂浜で鍛練してた。次の日には撮影が夜まで掛かったので、実質ゲームから4日ほど遠ざかっていたことになる。
鍛練に集中しているとゲームを忘れるんだよなあ。
なんか翠と貴広がすっごい興奮した様子で「またイベントがあるよ!」とか「ちゃんと大気も参加しろよな!」と言いにきていた。
せめてイベントがなんなのか言ってから去れ。
その後は唐突に統合統制機構の本部ビルに呼び出されて、血液検査も含んだ身体測定をされた。
母親が取ったデータを見て難しい顔をしていたくらいで、検査の結果は教えてもらえなかったけど。
その後は龍樹姉さんと櫻姉さんにたらい回しにされて、マジの戦闘訓練に付き合わされた。
死ぬわっ!?
いっそ殺してくれってくらいボッコボコにされたんだ……。
1戦闘毎に医療用ポッドに入れられたから、実際2回は死にかけたんじゃねえの。
どっちも最後は視認出来ない攻撃を喰らって、激痛とともに気が遠くなったから。
あれだよ。死ぬような目に逢ったら、その経験が強さを1段階引き上げるっていうけど。
ここアニメみたいな架空世界じゃないからね!
現実だからね!
ええ、数日ぶりにゲームにログインした俺の目の前に称号取得のウインドウが開きました。
その内容がこちら……。
『称号【死を垣間見た者】を取得いたしました』
どーも俺だけ現実とゲームの境界線が曖昧なようです。今更だがホントどーなってんの?
称号の説明が『HPがレッドゾーンに達し、カウンター限定の攻撃に限り威力が3倍になります』だそうです。
カウンター自体が2倍なので、実質的な攻撃力は6倍になるだろう。
たぶん【闘気】に注ぎ込めばHPをレッドゾーンにするのは簡単だと思うんだ。
ちょっとリングベアかなんかで実験してみよう。
今更ですが登場人物紹介をどこかに入れようと思います。
区切りのいい話数の途中に入れるか、冒頭に入れるか……。




