19 不審者の話
やれやれ、薬草を仕入れるためにはまずあの狼にリベンジせねばなるまい。
鉈の1本でもあれば楽なんだけどなあ。目潰しからの急所攻撃オンリーで倒せればいいんだけど、動物というのは甘くない。
おばあさんの店に寄り、毛玉と尾羽を売ってくる。
ついでにちょこっと街の噂話でも聞ければ情報収集としては無難な程度か。
「アンタが関わったガキ共、あれが最近潰れかけた家屋付近で遊んでるらしくってね。お前さん見掛けたら注意しておくれよ」
「次は倒壊しかけの家ですか……。危ないトコ好きだなあ、アイツラ」
いや、近付くなって言ってなかったっけ? これはこれ、それはそれ理論なんだろうか?
どっちにしろ後2~3時間はHP半減なんだ。街中でうろついていてもバチはあたらんだろう。
地図の空白を埋めるべく、するすると裏路地を歩き回る。
なるべく静かに、周囲を注意深く観察しながらだ。
アランたちが遊び場にしていた付近には空き家が多く、崩れかけた家もある。なんだろうな、これ。住宅区域の中を住める家を選別し、空き家から材料を調達して、次々に新しく家を建てていってるようだ。
そのせいか大蛇のうねりの跡地みたいな感じで住宅、空き家、倒壊家屋、空き地という道順が出来ている。
アレキサンダーを隠していた井戸も、その道中にある空き地の1つだったようだ。
そこからほど近い倒壊家屋の近辺を探せば、アランたちを見付けるのに時間は掛からなかった。
「あ、兄ちゃん」
「よう、アラン」
見付けた子供たちはなにやら物陰に隠れ、倒壊しかけた家を窺っているというような様子だった。
「なにやってんだお前たち?」
再会を喜ぶアレキサンダーを足元に下ろすが、子供たちの方は触るのに躊躇するような感じがある。
これはおばあさんの店で忠告されたように、親たちに何か言われたのだろう。
俺が口を出して彼らの判断に混乱が生じてもマズイし、ここは無関心を装うかなあ。
「あ、うん。実は……」
と、子供たちからあの空き家で見付けた奇妙なものについての報告を得た。
何でも夕方頃になるとボロ布を被った人物があの空き家から出てきて、付近を徘徊しているというものだ。
子供たちは家の手伝いがあるのでよく分からないらしい。
朝は空き家に戻っているかもしれないとか。
なんか変質者のような気もするが、ここがファンタジー世界ならば危険イコール魔物と考えられるため、楽観視は出来ないなあ。
「ほらお前ら。あんまり危ない所をウロウロしていると、今度は家から出してもらえなくなるぞ。もうちょっと大人の目が届くところで遊べ」
「「ええーっ!?」」
気持ちは分からんでもないがね。
とりあえず両親の目は無くとも、近所の人が気にかけられるくらいの距離はあった方がいい。
「あれがアレキサンダーみたいにおとなしいとか考えるなよ。声掛けたら襲ってくるゾンビかもしれんぞ」
「「ひっ!?」」
パニック映画みたいな例えを出すと、全員真っ青になって震えあがった。
脅かし過ぎたような気もするが、可能性も無いわけじゃない。
「今日のところは俺が夕方に不審者を確認してみる。お前らは安全が確認されるまでこの辺には近付くな」
この辺りは念を押しておこう。
ドラマみたいなパターンだと好奇心を拗らせた子供がゾンビだと発覚したところに登場し、守りながら戦わないといけなくなる。
俺のレベルでそんな状況になったら、ほぼ死ぬと思うしな。
まずは子供たちを親のところへ送り届け、夕方以降に出歩かせないように頼んでおく。街中からゾンビパニックなんてゴメンだからな。
あと最悪の状況を考えて援軍を呼んでおこう。




