188 後始末の話
ペチペチ
ペチペチ
ペチペチ
何やら頬を叩かれている感触に覚醒した俺は、瞬時に自分の体に異常がないか精査する。
頭、異常なし。
手足、肩はまだ鈍痛あり。他は異常なし。
体、やや傷むところあり。他は異常なし。
五感、痛みは感じるが正常。
ペチペチ
ペチペチ
分かった。起きるからちょっと待……、
ガブ
「いてええええええっっ!!」
痛みに飛び起きて腕に噛みついているツイナの頭をひっぱたいた。
「いてえじゃねえか馬鹿野郎! 痛覚は上がってんだから噛むなーっ!」
と叫んだところで周囲に青空が広がっているのに気付き、動きを止める。
「がぅ」「メェ」
ツイナは今し方噛んでいた腕を舐めているし、土砂で茶色になっているがシラヒメとグリースも健在だ。
グリースは自分で毛繕いをしたり、羽根を羽ばたいたりして汚れを落としている。
シラヒメは自分ではたいたりして汚れを落とし、自分で織ったタオルで拭いていた。
俺の背中側からアレキサンダーがずるりと抜けて行ったので、最後の赤い視界はこの体に包まれたんだろうなあ。
「サンキュー、アレキサンダー」
ぽよよん。
さすがのアレキサンダーでもHPが半分くらい削れていたので、ポーションを取り出して振りかける。
ツイナやグリースやシラヒメにもバシャバシャかけていく。
自分にもかけよう。HPが2割くらいしか残ってない。
闘気で防御力を上げたが、咄嗟にHPを込めすぎたかもしれん。
視界の中心を占めるのは、燦然と輝く天守(城)を有する本丸も含んだ内曲輪である。堀も含む。だいたい外周が3kmくらいあるか。
周囲の森は爆風にやられたのか、内曲輪を中心とした外側に向いた形で倒れている。
あ! 他のプレイヤーはどうした?
「あー、いてえええ」
「土砂でえらいダメージくらったなあ」
「おーい! 一応みんな集めてきたぞー!」
「怪我人ばっかりだから、ポーション持ってる奴は出せー」
「スゲー爆風だったなあ」
「あんなもんが落ちてくりゃあ、ああなるだろ」
「オレ100mは飛ばされたぜ」
「オレなんか坑道入り口にホールインワンだ」
「よく死ななかったよなあ」
「ビギナーさんのキマイラちゃんが土壁作ってくれなきゃ、危なかっただろ」
「ありゃ本日のファインプレーだねえ」
「ウィンドウォールがまったく役に立たんかった……」
「あっちの爆風の方が強かったろ」
「普通、あんなデッカイもんが落ちてくるとかねえしな」
「ウォーターウォール張ったらびしょびしょになった上に、飛んできた土砂で泥々になったあ……」
「お前人だったのっ!? クレイゴーレムかと思ったぞ!」
わいわいがやがやと皆が集まってきた。悲痛な雰囲気はなく、この状況を楽しんでいるようだ。
申し訳ないので、インベントリからポーションを全部取り出して、並べていく。
「うわあ。ビギナーさん、インベントリん中にポーション幾つ入れてるの!?」
「こ、これミドルポーションになってるけど、使っていいの?」
「ミドルポーション!?」
「製法が出てたのか!?」
「まあ待て皆。とりあえず此処で見たことは他言無用ということで!」
『『『異議なーし!』』』
薬草茶とかヤバそうだから出さなかったけど、ミドルポーションをまじまじと見ている。
「これどうやって作るの?」
「馬鹿野郎! 秘匿情報を軽々と聞くな!」
「いや別に構わないが。ホースロドの魔の森で取れる水蔓の水使うだけでそうなった」
「教えちゃうの!?」
「無償!?」
「じゃあ、ここだけの話にしておいてくれ」
『『『了ー解!』』』
みんなの聞きわけがよくて、俺の胃が痛い。また前みたいに【城落とし】も秘匿されそう。
「つーか、城メテオだよね、あれ?」
みんなの目が、眼前に広がる石垣で囲われた大地とともに佇む城に注がれる。
北側に続く道を完全に塞いでるな。おそらく5時間以上は消えないと思う。
「ビギナーさんが城メテオ持ってたんだ」
「あれ、どうやって取得すんの?」
「だからスキル構成を聞くのはマナー違反だっつーのに」
「ユニークスキルだな」
「答えちゃうんだ……」
スキル名を言っても聞こえないので、それで伝えておく。
取得したのはキャラクタークリエイト時で、初期SPを注ぎ込んだものだと教えると、半分くらいが肩を落としていた。
MP全部使うし、次に使うまで時間かかるし、いいところないと思うけどなあ。
ステータス開いて見ると、【城落とし】が9レベルに上がっていた。今までの経験からして、次に使えるまで15時間かかることになるな。
その内連続落下ができそうだが、いちいちMPを全回復させる必要がある。
「これは別に広めちゃってもいいぜ」
「んん? 秘密じゃなかったのか?」
「最初の頃はそうしてて、エトワールに噂を肩代わりしてもらってたけどな。今はもういいかなって。俺自身結構有名になっちゃったし」
「「「いやいやいや」」」
その場にいたほぼ全員が、顔の前で手を振った。
「結構ってのは自己評価低すぎるって」
「ビギナーさんはみんなの注目の的だから!」
「不思議なことをやらかすし」
「やらかすっ!?」
「どこからともなくアイテムやクエストを見つけてくるし」
「ヘーロンを越えるためのクエストはみんなが助かっているぜ!」
「1人で攻略最前線にいるし」
「戦闘力も際立っているし」
「あ、そーだ。思い出した。ビギナー教が暴走してたんだ。ビギナーさんが諌めておいてよー!」
「……あのなあ、俺はまだその教団見たことないんだぞ」
呆れて呟くと全員が絶望的な表情で固まった。1拍遅れて「えええっ!?」の大合唱だ。
見たことも会ったこともない連中を、どーやって諌めろというんだ。
なんでも森の先にあった街で俺が矢を射掛けられたことを根に持っていて、根も葉もない噂(俺が都市に報復しようとしている)を流して冒険者や商人を街から追い払っているらしい。
「報復に関してはあんまり間違いではないな」
「マジかよ……」
何人かがサーッと青ざめた。
「あれを」といってまだまだ消える気配のない城を指差す。
「落っことしてやろうと思っている」
「本人が根に持っていらっしゃるううううー!?」
「止めてさしあげてっ!?」
「ウチの子たちを魔物と蔑んで矢を射ってきたんだぞ! 許せるか!」
アレキサンダーを撫でながら言えば、全員が真っ白になった。
「ビギナーさんが想定以上に親バカだった!」
「ペット愛が突き抜けている……」
まあ、落っことすのは半分冗談だとしてだ。俺がまだ怒っているのは伝わっただろう。
なにやら皆がブツブツ呟いてるが、こっちは時間があんまりない。
ステータス画面を開いて、手に入れたものをチェックしていると、ゲンドウが話しかけてきた。
「ナナシ、あの化け物を倒した時にワールドアナウンスがあったの知っているか?」
「いや、知らねえが……。言われてみれば脳裏でなんか鳴ったような?」
衝撃で意識を失う直前になんか聞いたような気がしないでもない。
気を取り直した何人かが「レアモンスターを討伐したみたいだよ」と教えてくれた。
ログを確認すれば、『北陵の森の大妖樹をナナシとゲンドウと、(以下9PT分51名のプレイヤー名が続く)が討伐致しました』となっていた。
この辺りって北陵の森というらしい。
報酬がSP2と【プラントスレイヤー】の称号である。
効果は植物系の敵に対して、ダメージが倍になるというものだ。
前回と今回と、デッカイ植物のモンスターが続いているからな。今後、似たような敵が出た場合【城落とし】のダメージが倍になるということか。
デッカイ敵に対して俺の取る手段が限定される以上、モンスターが哀れに思えてくる称号だなあ。
今回のことに対してゲンドウたち生産プレイヤーの報酬は、鉱石を掘ってみてから俺の全身装備を揃えてくれるという。
壁の先で俺が指定した所に、生産プレイヤーの望む鉱石があればだが。なかったらまた探索しに来ることは約束してある。
武装についてはガントレットなどの、拳系の武器にしておいてくれとは伝えておいた。
皆に挨拶をしてから、その場でログアウトすると伝える。
何人かは「今からベアーガまで戻れば?」と提案してくれたが、こちらも一日のゲーム時間を決めていたので遠慮しておいた。
どーせ、次にログインすればベアーガだしな。
「それではまたこんど!」
「おう! 今日は助かったぜ、ナナシ」
「ビギナーさん。また鉱脈教えてね~!」
「この借りはきっちり仕上げた武器でお返しする!」
「ちゃんと取りに来いよ!」
「今度は素材集めとか一緒にいこうね~」
「おつかれさま~」
「「「お疲れさまでした!」」」
きっちり腰を折ってのお見送りはしなくてもいいんだけど……。
ここまでの主人公のステータス
名前:ナナシ
種族:稀人
職業:ビギナーLv.36
SP:16
所有スキル:
【拳豪Lv.8】【投擲Lv.41】
【蹴撃Lv.35】【片手棍Lv.10】
【致命攻撃】【反射】【闘気】
【死霊術Lv.30】【水魔法Lv.5】
【土魔法Lv.15】【幻魔法Lv.6】
【生活魔法】【大地魔術】
【看破Lv.31】【気配察知Lv.51】
【忍び足Lv.16】【軽業Lv.67】【隠れるLv.28】
【水泳】【潜水】【登攀】【空駆】(使用不能)
【魔力視】【魔力感知】【魔力付与】
【魔力操作】【魔力制御】
【裁縫術】【料理長Lv.46】
【調合Lv.46】【大工Lv.21】
【植物知識】【鉱物知識】【アイテム知識】【スライム会話】
【腕力強化】【知力強化】【脚力強化Ⅱ】
【魔力強化】【MP増加】
【毒耐性】【苦痛耐性】【環境耐性】【麻痺耐性】
【暗視】
【解体】
ユニークスキル:【城落としLv.9】【幸運Ⅱ】
称号:
【後先考えぬ者】【スライムの友】【アラクネの友】
【草を食む者】【闇を歩む者】【強奪者】
【料理人】【半魚人】
【ネッツアーの加護】【マルクトの祝福】【イェソドの加護】
【ゲヴラーの祝福+】【ティーフェレースの興味】
【魔女見習い】【スフィンクスに認められし者】
【ミノタウロススレイヤー】【甲殻スレイヤー】
【プラントスレイヤー】
ペット
名前:アレキサンダー
種族:エルダーレッドスライムLv.22
名前:シラヒメ
種族:アラクネLv.20
名前:グリース
種族:コカトリスLv.14
名前:ツイナ
種族:キマイラLv.22
使い魔
名前:ベウン
種族:クマのぬいぐるみ
名前:ボウ
種族:牛のぬいぐるみ
ペットもスキル入れた方がいいのかなあ?
次回はみんな大好き掲示板です。




