183 イビスダンジョン7Fの話(3
オーガのドロップ品は丈夫な革と魔石と棍棒だった。
棍棒はオーガが持っていたそのまんまじゃなくて、人用にリサイズされたものだ。それでも成人男性の身長並の長さである。
名称は獄卒の棍棒。閻魔様に怒られないかね。
前にこんなドロップ品あったか? 丈夫な革だけだったような気がするんだ……。
「どうしたんですか兄さん。難しい顔をして?」
「なにか変なことでもあったのかい」
「いや、気になったことはあったが些細なことだ。気にすんな」
「ええと、はい」
考え込んでいたら心配されてしまった。2人が気にするほどだったか。ドロップアイテムくらいどーでもいいことだしな。
「このドロップ品全部いるか?」
「うーん。ウチには重戦士はいないから、棍棒は使わないかな。ナナシは必要なものはないのかい?」
「丈夫な革は前回出て防具に加工したしなあ。魔石はツィーたちが必要なんだろ」
「消去法で棍棒は余りますね」
試しに持ち上げてみるが、片手で振り回せるギリギリの重量だな。なら【片手棍】スキルで使えんだろ。
「じゃ、この棍棒を貰うぜ。あとはそっちの分でいいや」
「いや、それは両手用じゃないのかい?」
「大丈夫大丈夫、なんとでもなるから」
「……ツィー。気にしたら負けです。兄さんですから」
「そうみたいだね」
そこはかとなくディスられてるような……。
オーガに構っていた間に、先行させていたオークグールが敵に接敵していた。あれは勝敗がつくまで放っておこう。
皆も同じ意見だったのか誰も前に出ようとしない。閉鎖空間でグールはダメだな。
敵はオークの5体のようで、相手側1体が沈んでグールは3体全部がやられてしまった。
顔を真っ赤にして怒り心頭のオーク4体が、こっちに向かって走ってくる。
途中で先頭を走ってた1体が転び、後続が急に止まれなかったためか折り重なって倒れていく。
グールの麻痺攻撃でも食らっていたのかな? なんにせよチャンスだ!
棍棒を引きずったまま突撃し、直前で体を回転した勢いをもって棍棒を振り回し、2段目に重なっているオークの頭を狙う。
ゴグシャッ、という音がしたけど中々軽い手応えによくよくオークを見ると当たった首から上を粉砕していた。頭は壁の汚い染みになっている。
なんだこの威力すげー。
試しにその場で振り上げて、最初に転んだオークの頭を打つ。これも1発で床の汚い染みとなった。
流れ作業的な勢いで他の2体も首グシャしたら、ツィーとアルヘナの気狂いでも見るような目が痛い。
違うんだ。血に酔っていた訳じゃないんだ。
威力を確認していただけなんだよう。
「ほんとですかあ?」
「いや、マジだって。殺人鬼に目覚めたんじゃねーから」
「疑わしいね」
俺と距離をとって疑心暗鬼な表情を向けてくる。
お前ら遊んでるだろ!
後ろ向いて相談しながらくすくす笑ってんの知ってるんだからな!
わざとふてくされてPTリンク解除しようとしたら、慌てて謝ってきた。
ふはははは!
撮影に交じっている俺の演技力を侮るではないわー!
……大根だけどもね……。
その後もB7Fをうろつき回り、オークたちをぶちのめしながら進んだけども下に行く階段が見つからない。
マッピングした地図を挟んで協議中だ。
「何処かに隠れているとか?」
「いや、隠してあったら俺の称号で分かるはずだ」
「どんな称号ですか!?」
「1FでB7Fへの直通通路を見つけるほどの称号だが」
あとたぶん【幸運Ⅱ】とかも作用していると思われる。
俺はアレキサンダーを頭に乗せ、ふくふくと丸くなったグリースに座っている。
隣にはツイナが寝そべり、シラヒメは天井から糸を垂らしてぶら下がり、ひっくり返った体勢で編み物をしている。
「ねえ、ナナシ」
「なんだ、ツィー?」
「緊張感がないって言われないかい?」
「ソロの俺に誰が何を言うと思うんだ?」
「そうだったね。うん、忘れてくれるといいよ」
「ああ、うん。それで、アルヘナはなんで頭をかきむしってるんだ?」
「誰のせいですかっ!!」
ゲーム中に情緒不安定になりすぎじゃねえの。兄さんにでも診察してもらうか?
「これだけ虱潰しに回ったのに、階段のかの字もないときたもんだ」
「オールオールさんにメールして、聞いてみたらどうですか?」
「それが早いかねえ?」
『いや、その必要はないよ』
「「「……はい?」」」
何処からともなく声が響いたと思ったら、近くにあったダンジョンの壁が回転扉よろしくグルッと回って、オールオールが現れた。
どっから出てくんだよ!
「【ダンジョンマスター】の特権だ」
「ああ、うん。そーだろーなー」
そこは他の人には聞こえないからな。自慢気に言っても、ツィーたちは首を傾げている。
「それでどーしたんだ?」
「いや、悪い話と悪い話があるんだけど、どっちから聞きたいかい?」
「選択肢になってねーじゃねーか! どっちでもいいぞ」
「じゃあ言うけど。この階はまだ未完成なんだ。フロアボスはいない」
「「え?」」
「だってオールオールが強いボス用意したぞーって、連絡くれたんじゃないか。ボスがいないてどーゆーことだよ!?」
「待って待って! 話は最後まで聞いて! ちゃんと理由は話すから!」
ツイナがぐるぐる言い出したら、オールオールがひきつった顔で腕をバタバタ振り始めた。
けしかけないから大丈夫だって。
「……ボスを用意したのはこの上だよ。B6Fにいたんだ。今さっきに20人くらいの集団に倒されちゃったから、次に湧くのは1時間後だけど」
「上か……」
「そういえば上に上がる階段もないね、ここ」
「だからまだ調整中なんだってば。見つかったら面白いかもって、置いてあった直通通路を見つけられた時は焦ったけど」
「だから隠してあるものを見つける称号があるって言ったろーが」
「うん、次は気をつけるよ」
階段がないから直通の移動魔法陣を作ってくれるそうだ。
とりあえず作りおきしていた唐揚げや串焼きをたくさん渡しておいた。
ここまで来た目的の1つだしな。
「次は正攻法で来てくれると嬉しいね」
「わーったわーった。次はそうするよ」
ツィーたちやアレキサンダーと共に外に送ってもらう。
出たのは1Fの入り口ホールだ。今まさに入ろうとしていた6人組PTが、俺たちを見てギョッとしていた。
読み物を探して久しぶりに日間ランキングを覗いたら、絶縁だらけになっていました……。




