180 イビスダンジョン1Fの話
「全く……」
商業ギルドの方に向かいながら手持ちの材料を確認する。
まずは水蔓をポーションに加工してみるつもりだ。それからどうすべきか。
そういえは米を探してホースロドに向かったはずなのに、目的を果たしていないなあ。
いっそのこと先にホースロドに移動してから、商業ギルドに向かうべきか。
「あーっ! いたあっ!」
後ろからついさっきも聞いた声が響き、タッタッタッと駆けてくる足音がする。
この先が想像できる気がするが、振り向かないで傍観したほうが得策か?
「ちょっとぉ! 無視しないでください兄sぶはあっ!?」
ほらみろ。やっぱりな。
やっと振り向いて後ろの惨状を窺うと、アルヘナがツイナとシラヒメの間に張り巡らされた蜘蛛の巣に、卍型の珍妙な格好で貼り付いていた。
「盗賊だろう。罠の確認もしないで突っ込んでくるとかどうなんだよ」
「平和な街角で罠はないと思うんだけどね、ボクは」
「襲撃があったというじゃないか。それくらいの警戒はして当然だ」
「誰もがナナシみたいに常在戦場な軍人というわけじゃないんだ。一緒にしないでおくれよ」
シラヒメを迂回して近付いてきたツィーが、呆れた様子で声をかけてきたので反論する。
腕を組んで上から目線で言ったのに、ツィーは楽しそうだ。
「珍しい組み合わせだな?」
「ここのところ、色々あって皆がソロ活動中なんだよ。ボクたちは用があったんで、一緒にダンジョンさ」
「なるほど」
「ちょーーーっと2人共! 私を助けるってゆー選択肢はないのおおおおっ!?」
泣きが入った叫び声に、2人してそっちを見る。
べとべとになったアルヘナの体を、アレキサンダーがせっせと綺麗にしているところだった。
シラヒメは特に悪びれた様子もなく、背中のベウンを愛でている。
ツイナなんか関係ないって顔で知らんぷりである。シラヒメは茶目っ気が出てきた上に、スルースキルのレベルも上がっているよ……。
「ボクらと一緒にダンジョンはどうだい?」
「別に構わないが、その前にポーション作ってきていいか?」
すぐそこにある商業ギルドを指差すと、ツィーは「ああ」と頷いた。
「じゃあ1時間後にダンジョン前で待ち合わせをしよう。アルヘナもそれでいいかい?」
「ぜーったい来てくださいよ兄さん! いいですね!」
「ああ、あとでな」
ビシィッと指差して睨まんでもちゃんと約束は守るって。あとアレキサンダーに絡まれたままだと格好つかないぞ。
アレキサンダーたちにはギルド前で待つように言って、ボウとベウンを連れてギルドのカウンターへ向かった。
なんだかんだとあってポーションはキチンと作ることができた。
ただ、名称がミドルポーションになった上に、効果が「使用者のHPの60%を回復する」になったんだが。
たぶん、この高効果は途中から作るのが楽しくなったからなのかねえ。
ダンジョン前に行くと、すでに2人は装備を確認しながら待っていた。
ツィーは白系統に、金や銀のアクセントが入った装備に身を固めている。弓騎士という職業らしい。
アルヘナは対照的に全身真っ黒だ。まさに暗殺者という職業を体現している。
「遅いですよ、兄さん!」
「いや、まだ待ち合わせ時間前だろう。キミは何をそんなに怒っているんだい? さっきまで上機嫌で鼻歌を……」
「わーっ! わーっ! わーっ!?」
何かを言いかけたツィーを体ごと遮るアルヘナ。楽しそうだな。
「んじゃ、これ」と今さっき作ったばかりのポーションを、2人に1つずつ渡す。
水蔓1本から30本くらいできた上に、蔓自体が美容液の材料ときたもんだ。
試しに、蔓を刻んで煮て濾した液体とレッドカウの牛乳と聖水数滴で美容液が完成した。
こっちの効果は「美肌&異性との交渉にプラス」らしい。これ作ったら【調合】スキルがドカンと上がった罠。こっちは水蔓1本から2個しか作れなかったが。
ギルドのカウンターに1つだけ出したら、10万Gで売れたんだ……。
これ世に出したらダメなやつじゃね?
受付にいた女性陣の眼光が、飢えた獣みたいにギラついてたからなあ。めっちゃ怖ええ。
「「……」」
「どした?」
ポーションを受け取った姿勢で固まる2人。
うんうん、効果がおかしいからなー。俺もおかしいと思うんだ。
「えーと、兄さんこれもらっちゃっていいんですか?」
「ホースロドの水蔓使ったらそうなった。まだあるから遠慮せず使え」
「お代を払った方がいーんじゃないかな?」
「むしろ、今は使いきれてないからなあ。金はいらん」
「……キミがそういうならありがたく使わせてもらうよ。ありがとう」
「ありがとうございます、兄さん」
何かあった時のためにアレキサンダーにも何本か渡しておこう。
ベウンとボウをインベントリに収納し、セキシャの棍を装備して準備は完了だ。
ちょっと前にオールオールから最下層に強いモンス置いたから、って挑戦状きてたからなあ。そいつもぶっ倒さなきゃならんな。
入り口から少し進んだところで、壁に違和感を感じてセキシャの棍を振るう。
ガラガラと崩れた壁の中には緑色に光る魔方陣があった。
近付いてみるとB7Fまでの直通のようだ。オールオールめ、誘ってやがるな。遠慮なく行かせて貰おう。
「こっち行くが?」
「……なんというか、非常識だね?」
「兄さん、また、こんな……」
なんで2人して肩を落として、処置なしって顔で溜息吐いてるんだ?
これはオールオールの仕業だからな。俺は関係ないからな!
オールオール「あ゛ーーー!?」(←見つかるとは思っていなかった)




