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179 困惑の話

 お待たせしました。

 ゲームの話を再開します。



 さて、リアルのゴタゴタが終わったので、本来のサイクルにやっと戻れる。

 ゲームの方は俺がログアウトした後に、数時間の点検があってから何事もなく再開したようだ。

 家に帰ってきた時に、居間で端末を凝視していた翠が歓声を上げていたのを覚えている。


 こはるさんを送り届けてログアウトし、母親と椿さんに呼ばれて迷惑料という一時的なバイト代を受け取る。

 あとこの一連の事態に対して、口外しないというNDA契約を結んで解放された。


 その後に慌てて撮影に駆けつけ、なんとかミスすることなくスタントを終えた。

 全力疾走したあとに壁登りとか、タイミングが悪いこと悪いこと。屋上で座り込んで息を整えていたら、撮影スタッフに随分と心配されたなあ。


 その日は貰ったバイト代の一部をインベントリの拡張に突っ込み、ゲームはやらずに就寝した。


 翌日には早朝から走り回って鍛練して、学業をこなしてからゲームにログインする。

 宿は狭いので、外へ出てアレキサンダーたちを目覚めさせれば、皆してぎゅうぎゅうと体を擦り付けてくる。


「なんだ、どーした? は? 今日は急ぎじゃないのかって? ないない。またみんなでのんびりやろうや」

「ぐるるる~ぅ」「ベェ」

「ココックエッ」

「おトウサマ、ごジアイクダサイ」


 ツイナが体ごと俺を潰すように押してきて、グリースは肩に飛び乗りって重っ!?

 ベウンとボウは俺の頭にしがみつくな! シラヒメの目が怖いから……。

 アレキサンダーがぽよよんぽよよんと跳ねると、ツイナとグリースが慌てて離れていった。


「げ、ビギナーさんじゃん」

「ホースロドにいたんじゃなかったの?」

「まさか、何かイベントがあるとか?」

「また襲撃? 今度は何が突っ込んでくるってんだよ……」


「んー?」


 会話が聞こえてきたんで、そっちの方に顔を向ける。視線の先にいた数人がビビって顔を背けた。

 襲撃と聞こえたが、こっちに襲撃があったのか?

 近寄っていくとその場にいた数人が顔を強張らせた。


「ちょっといいか?」

「「「は、はいぃぃ!?」」」


 全員が直立不動になって震える声で答える。なんか俺が恐喝してるみたいじゃね?

 そもそも何で俺はこんなに恐れられているんだろーか。善良な一般プレイヤーに、危害を加えた覚えはないんだがなあ


「イビスに襲撃があったって聞こえたんだけど?」

「え、はい。ありました」

「骨……、スケルトンとかゾンビとかのアンデッドが。なあ」

「あ、そうですそうです。幽霊船が海岸に突っ込んできまして」

「第3陣のプレイヤーが多かったから、戦線が崩れちゃって」

「結構住民に被害がでたんですよ。まだ場所によっては後片付けしてるところがあるはずです」

「……そうなのか。ありがとう。情報の対価は金銭でいいか?」

「いっ!? いいえいいえ! 経緯は掲示板にあるから、対価はいりません!」


「そうなのか?」と他の面々を窺うと、激しく首を縦に振っていた。

 折角だしと、唐揚げの山を渡してお礼とした。

 知り合いの安否を確認しようと住宅街の方に足を向けると、背後で叫び声が上がっていた。味は失敗してないはずだよな?


 最初に道具屋の魔女のおばあさんの所に顔を出すと、使い魔の作り方にダメ出しをくらった。まだまだ魔石を合成する集中が足りないだのなんの。

「いや、今日来たのは違うんですけど」

「なんだい。またタマラビかい? アンタも名が売れて来たんだから、あんまみみっちいことやってんじゃないよ」

「イビスに襲撃があったそうじゃないですか、こっちの方とか大丈夫だったんですか?」

「ああ、あれかい……」


 話題を出したら眉をひそめるおばあさん。「アンタが気にするようなことじゃないよ」と言いながら、俺を追い払うように「しっしっ」と手を振った。


「え、え? ええっ!?」

 足元が動く歩道みたいに後ろに移動させられてしまった。なんの魔法だよ……。

 これは詮索するなってことなのか? それとも?

 分からん。


 裏路地など、子供たちが行きそうな廃虚も探してみたけれど、アランたちには遭えなかった。大丈夫だといいなあ、あいつら。

 オールオールが前にいた地下道方面も見回ってみたが、さすがにこっちにはいないだろう。


「っ!?」


 途中でいきなり周囲から音が消えた。後ろを振り返るとアレキサンダーたちの姿も消えている。

 前を見る動作の間に、周囲の光景が真っ白な空間になっていた。なんなんだよいったい!

 

『やーやーやー、いきなりこっちに引っ張り込んじゃってごめんねえ』


 唐突に目の前に光の玉が出現した。瞬きする間にだ。これはまたあれか、神か?

 光の玉からは無数の半透明な羽根が生えている。羽根の千手観音みたいだな。


『ボクは喜怒哀楽神イェソド。キミのポケットに入っている亡骸(なきがら)に用があるんだ』


 亡骸ってこはるさんが使ったアバターか?

 インベントリから直立不動になった妖精が勝手に出て、空中をふよふよと飛んで行って光の玉に吸い込まれていった。

 全く動けないし喋れないんだが。神だからって人のインベントリを勝手に漁らないでほしい。


『こちらの都合で巻き込んじゃってすまなかったねえ。お詫びにキミにはボクの加護をあげよう』


 開始も唐突なら戻しも唐突だな、おい。あとすっごい雑。

 周囲の白さが抜けると同時に元の場所に立っていた。言うだけ言ってさっさと退散しやがったな。ちょっとは喋らせろ!

 アレキサンダーは機嫌が悪くなった俺を不思議そうに見上げている。

 どうやら皆には今の神空間に入る前と、後の俺の変化に戸惑っているようだ。


 ステータスを開くと称号に【イェソドの加護】というのが追加されていた。効果は感情を乗せた行動全般に+20%の補正が入ること。

 えーと、なんだこれ?

 もしかして怒りながら攻撃すれば効果が入るってことか? 笑ったり泣いたりしながらやった行動に効果があるようだな。

 さすが喜怒哀楽の神、微妙に使い方が難しい。へたに怒って攻撃したら、他の補正込みで威力が5割増しとか6割増しとかになるな、これ。


 いったい俺はどこに向かってるんだろーな。

 病気のニュースを見ていると、自分でも寒気が来ていたり微熱が出ているような錯覚に陥ります。

 せめて病気のニュース一回に対して、それを上回るような楽しい話題も提供してくれないかなあ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >背後で叫び声が上がっていた。味は失敗してないはずだよな? 信者にでも高額売買を持ち掛けられたとか?
[気になる点] ≫激しく首を「立て」に振っていた。 激しく首を縦に振っていた。
[一言] これは… ビギナーさんアシュラ○ン化!? ただし一番安全なのは冷血面モードである
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