163 売却と生産の話
森を出たところで景色が明るいことにホッとする。
森の中は始終薄暗かったからな。
北門の門番さんに聞くと、クラン嵐絶はまだ戻ってないそうだ。
俺も行って帰って2時間くらいだろうと思っていたら、4時間経過していた。
これでも体感で時間を計ることには自信があったというのにな。でもVRって体感ズレがでるのかどうか、ゲーム終えたら計り直そう。
住民はいつも通りの生活をおくっているようだが、門番がいうような危険地帯でよく生活しようと思うよなあ。
兵隊や街壁に余程の信頼をおいているか、やむにやまれずか。
建物をよく見ると、石造りの堅牢な家が多い。
家を作る場合は、この地域の造りを参考にした方がいいのかもしれないな。
硬い鉱石とかなら【大地魔術】で探せるのではないだろうか。
坑道でも手付かずな鉱脈がいくつかあったしな。ゲンドウに伝えたら掘りに行くかも。
一旦東門へ移動してから、【魔力視】で周囲を見渡す。
魔女が街にいる場合は、道案内のように魔力の流れが出来ていると思われる。
あとは分かりやすい住居だといいんだが。
街中の大通りに沿っていた魔力の流れを辿っていくと、一際大きな建物に繋がっていた。
うん、商業ギルドだね。
建物の横に回って視てみるが、その後ろに流れが続いているようなことはない。
とすると中か。職員に身をやつしているのかもしれないなあ。
この中から魔女を特定すんのか。骨が折れそうだ。
【魔力視】を維持するのも、疲れるんだがなあ。
アレキサンダーとシラヒメとツイナに外で待っていてもらい、グリースだけを伴ってギルドの中へ入る。
朝にアレキサンダー連れていったら、蹴飛ばされそうになっていたからだ。
人間大の鶏尾蛇灰色バージョンでも、それなりに注目を集めている。
あんまりこちらを凝視するような視線に対しては、グリースの尾蛇が「シャー!」とやれば慌てて逃げていった。
1階は目的別のカウンターがズラリと並んでいる。
さっきは「資料請求」って所に行ったが、今度は「売却」でいいのか?
売却カウンターは1番左端にあり、壁に沿ってL字に曲がった奥もそれのようだ。
でかい荷物も受け付けているんだろう。
ひょろりとした男性職員と、奥から出てきた革製のエプロンをつけたおっさんが対応してくれた。
「売却ですか?」
「今朝にこれを請求して」資料一覧表を広げて見せ、「幾つか採取してきた」と言うと、能面のような表情が笑みに変わる。
あからさまな態度の対応に苦笑する。お役所仕事だなあ。
「こちらのカウンターへどうぞ」
「じゃあまずは水蔓が……おっと」
1階の高くなっている天井でもまっすぐに立たないので、斜めに出す。ちょっと水がこぼれたか。
「あああああっ!? 外へ! 外で受け取りますから! 傾けないで!」
悲鳴を上げた職員さんとおっさんに裏口に案内され、外の資材置き場に5本を置いてくる。
ちなみに高額な薬の材料になるらしい。1本5万だったので計25万。
高くね?
次にカラフルなマダラオオアリの甲殻を纏めて出す。
「こ、これは……」
「こんなにたくさん、どうやって……」
なにやら衝撃を受けているようだ。ばったばったとなぎ倒してったらオカシイのか?
甲殻は1個2万なので、合計36万か。
金銀だとその倍。巣を襲えばひと財産になりそうだ。
てのひら草はグリースから渡される度にインベントリに突っ込んでいたが、全部で28枚あった。
こちらは1枚3000だったので、合計8万4千になる。
夜光草はアレキサンダーが見つけては抜いていたが、8本しかなかった。
とはいえそれだけでも驚異的な数らしい。なんでも夜に光る影にシャドウキラーが潜み、光に誘われた者が切り刻まれるようだ。
こちらは1本1万だったので8万か。
シュレッドータスの甲羅は5万で尻尾は10万だった。
尻尾から作られるロープは、各方面でひっぱりだこらしい。このまますぐ競売にかけられ、熾烈な争奪戦が繰り広げられるとかなんとか。
「できればもう1~2本獲ってきてくださると助かります」
「出逢えれば狩りますが。今回みたいに次々と出てきてくれれば、サクサク狩れるんだけどなー」
「「さくさくっ!?」」
職員の男性とエプロンのおっさんは顔をひきつらせていた。
確かになあ、あんなカメに殺されたら情けないよな。
そしてハンギングガの卵は1個10万だった。
幼虫になってから生成する糸の量は、買値の数倍になるほど稼げるのだという。
つーか、そんだけで300万になってしまうじゃないか。
そしてシロノオタケだが、1本2万だというので、10本渡したらエプロンのおっさんが卒倒するくらい驚いていた。
月に10本も納品されたら多いほうなのだとか。
しかしひと口で終わってしまうようなキノコで2万なのか。高級食材と呼ばれるだけはあるな。
インベントリの中にあと50本以上あるのは黙っておこう。
自分でも調理してみたいんでな。
しめて412万4千なり。300万は手元に残して、残りは貯金する。
金の使い道を探そう。まずは賞金首用に200万出すか。
こんなところまで連れてきてくれる人も大変だろうしな。
出来れば怒りが冷めないうちがいいのだけれど、プレイヤーの中から1人を探せというのも難題だろう。
どーやって連れてくるのかな?
ギルドの生産部屋を借りて料理をする。
ベウンにも手伝ってもらい、ギルドの売店に売っていたニンニクを使ってガーリック炒めとか、から揚げとか。
フライパンを任せていたら。ニンニクの匂いがベウンにも移ってしまったので、【生活魔法】で綺麗にする。
しかしまーるい手で器用にフライパンを操るもんだ。
そうそう、ベウンの弟妹を作ろうと思ってたんだ。
1度外に出て、グリースとシラヒメを交換する。
その際にアレキサンダーたちを待ちぼうけにさせてるお詫びに、ガーリック料理を振る舞う。
暴力的な匂いが辺り一面に広がり、道行く人たちが足を止めてこちらを凝視していた。
生憎と売り物じゃないのでやらないがね!
魔力糸はあいた時間にちまちま作っていたので、生産部屋にある機織り機で布にする。
これはシラヒメにやってもらおう。手足が多い分俺より早いからな。
俺はリアルで得たぬいぐるみの型紙を切り出しておく。
色はベウンと同じ茶色で、今度は牛形だ。
最初は同型で色違いのクマにする予定もあったのだが、プチ姉に相談したらぬいぐるみの型紙のデータを大量に渡されてしまった。
それを適当に並べてランダムで選んだら牛になっただけである。
後は目になる宝石や、角になる鉱物を研磨しておく。
この準備でその日は終わり、型抜きと縫い付けで完成するまでもう1日かかってしまった。【魔力制御】や【魔力付与】はまだまだ慣れが必要だろう。
これでもダメ出しを食らいながらアナイスさんに教えを受けていた時に比べれば、数倍早い方である。
という訳で完成したのがこちら。茶色い牛のボウ君でございます。
首には黄色い鈴のついた赤い首輪。ちょっと固めに作ったので。飛んだり跳ねたりしなければ鳴らない。
完成した途端、ベウンとぽふんというハイタッチを交わし、短い腕をムンと曲げて力強さをアピール。
ベウンと腕を組んで、スキップしながらくるくると回っている。
発現したスキルは【登攀】【調合】【植物知識】だ。これで薬作りが捗るな。
余った時間で魔力糸を作成するため、魔石を砕いて塗料作りをする。
その最中に生産部屋の扉がコンコンと叩かれた。
使用終了時間までまだあるよな?
シラヒメと顔を合わせて首を傾げてしまった。
なんかクマシリーズを希望して下さった方もいたのですが、某クマ小説に似てもいけないので、牛になりました。
ちゃんと動物くじを作って姉に引いてもらったんですよ。
毎回誤字報告をして下さる方、ありがとうございます。




