162 魔の森の話(3
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毎回読んで下さる方々、突発的に読んで下さる方もありがとうございます!
うん、気を取り直して行こう。
美容液は今作るもんじゃないからな。気にするのはずっと後だ。
だいたいプレイヤーは年を取ったりしないから、肌にシワもないだろーに。
需要があるんだかないんだか。
人によってはゲーム内でもそれを研究する人がいるかも、だが。
シャッと空気を切る音がしたので、体を反らして飛んできた物を避ける。
鞭か何かのような長い物体は俺を通りすぎると、後ろにあった木の幹に抉るような爪痕を残してもとの場所に戻っていった。
鞭というか尾か?
振り回していたのはこちらに尻を向けた亀だった。
緑色の甲羅に胴体を浮かせる強靭な太い四肢。のたのたとこちらに正面を向けた頭部は、鼻先を除いて甲羅の中に引っ込みぱなしだ。
その後ろでは胴体に数周巻きつけられそうな長い尾が、空気を切り裂いてひゅんひゅんと鳴っている音が響く。
名前はシュレッドータス、としか分からん。これも資材指定魔物だな。
魔物というか動物? 爬虫類?
魔の森にいる動物だから魔物と言ってるんだが、一覧にはそう書いてないしなあ。
この世界の分類はよく分からない。
シュレッドータスは、甲羅から鼻先だけ出ている口でシューシューいっている。
威嚇しているのかは分からんが。ちょっとでも近寄ろうとするフリを見せると、足元を尾鞭が薙いでいく。
「めんどくせえな」
ツイナやグリースに向かった尾鞭はアレキサンダーが盾になることで防いでいる。
ビシッビシッと当たっているが、HPが減っていく様子はない。
ただ威力が強すぎるようで、その場からは前に進めないようだ。
甲羅はグリースの【腐食の視線】に耐えられるだけの強度はあるようだ。
頭が甲羅の中なので、直接視線を当てられずにいる。
尾鞭を受ける覚悟で突っ込んでいってもいいのだが、せっかくドロップしたスキルの試し撃ちといこうか。
すかさず先程覚えたばかりの【幻魔法】の幻灯を行使する。
鞭亀を囲むように、空中の何もないところにロウソクの火がポツポツと灯った。
尾鞭がその1つを薙ぐと火は消えるが、本体である俺の方には見向きもしない。
いちいち体の向きを囲む火の方に向けて1つ1つ消していってる。
それにこの魔法は見せている間も、MPがガリガリ削られていく。俺のMPだと維持に難有りだ。
歩法と勢いと【闘気】も併用し、鞭亀の顔面目掛けて渾身の破撃を叩き込む。
瞬間、一拍遅れて四肢の隙間からおびただしい量の血が吹き上がった。
中身ぐっちゃぐちゃになったろ。尾も一瞬だけピーンと伸びて、くたりと垂れ下がったからな。
っていうか威力おかしくね?
まさか一撃で沈むとは思わなかったんだけど。
ドロップ品は背中の甲羅部分と強靭で長い尾だ。
尾は筋肉の塊で少しずつ乾燥させながら解していくと、剣でもやすやすと切れないようなロープが出来あがるらしい。
甲羅の方は防具に使ったり、工芸品の材料にしたりするとのこと。
武器や防具は落ちない。
アレキサンダーたちは俺の注意が鞭亀に向いた直後に、森の奥から現れたマダラ蟻6匹を駆逐していた。
3匹からは白い煙がたなびいて、金属を焼いたような匂いがしている。
もう3匹は糸でぐるぐる巻きにされた上に、泡を吹いてひっくり返っていた。
グリースの尾蛇が、口を開けて死骸をシャーと威嚇していたので、毒を食らわせたんだろう。
ポポポンと落ちたドロップ品は、赤青緑紫白白という甲殻が6個だ。
「おトウサマ、どウシマスカ?」
「うーん。今日はもう戻るか」
敵とのエンカウントが多すぎるだろ。
さすが魔の森だと感心すればいいのか。
あれからさらにマダラ蟻を9匹倒したが、金銀はいなかった。オレンジと黒が増えたくらいだ。
これでカラフルな甲殻は18個になったな。
色を気にしなければ、つぎはぎの軽いフルプレートでも作れるかもだ。
帰り道の途中、近くにあった木を見上げる。
ありふれた建材として、中の上にあたる物のようだ。
木材に関しては充実しているようで、一覧には載っていなかった
「待てよ?」
もしかして上の中くらいの木で部屋でも作ってしまえば、森の中に泊まれないかな。
インベントリに突っ込むものに、大きさの制限はないしな。
【大工】スキルもあるし、神器のノコギリであればどんな硬い木でもぶった切れるんじゃね?
嵐絶が探しにいった木は哭銅という一級品の建材になる物だ。
魔の森でも奥地にしか生えない上に、魔力をたっぷり含んだその幹は硬くしなやかだという。
ちょっと狙ってみてもいいかもしれんな。
また嵐絶と会えるようなことがあれば、シャドウシミターの情報と引き替えに聞いてみよう。
戻るときに来た道と違う所を通ったら沼地があった。
そこに半分沈んで腐りかけた木に、クロノオタケが生えていた。
「おお! お?」
近寄ろうとしたら服をぐいと引っ張られた。振り向くとツイナがマントをくわえて、グイグイと引っ張っている。
足にはアレキサンダーが絡まっているし、シラヒメの糸は俺を拘束しようと巻かれるし。
グリースは肩に乗って重さをかけようとしている。
「ちょっと採ってきたいんだが……」
ぷるぷる、ぷるぷる。
「だメデス!」
「ぐるるるる」「ベエエェー」
「ケー! ケー! ケー!」
本能的に危険だと分かっているらしく、4体にものすごい力で引きずられる。
みんなを心配させるのもあれなので、潔く諦めよう。
「分かった分かったから。採らないから放せって」
自分の意志で離れれば、みんなはようやく俺を放してくれた。
しかしペットたちの嫌悪感はそれだけでは収まらなかった。
哀れクロノオタケはグリースの【腐蝕の視線】で腐らせた挙句、アレキサンダーとツイナの火炎放射で焼き払う徹底ぶり。
その間俺は妙な気を起こさないようにと、シラヒメの8本脚に雁字搦めにされていた。
うん【劇毒耐性】が得られるまで近付くのは止めよう。
そこからは何かに邪魔されることはなく、無事に森を抜けることが出来た。
さて、採取してきた物は幾らになるんだろうな。




