16 食卓を囲む話
リアル回です。
VR学業後に近所にある洋食屋で情報収集も兼ねて集まることになった。
「貴広に全然会えないんだが……」
俺が不機嫌そうに呟くと、貴広が背筋を震わせて硬直した。
その手からポロリとフォークが落ちる。
「兄さん、ピンポイントで殺気を向けるの止めてあげて下さい」
「チッ」
「おまっ!? 心臓が止まるかと思ったろ!」
素早く俺の行動を見抜いた翠のひと言で、貴広に照射していた殺気を収める。
だってあれだけ勧誘しといて会いに来ないんだもんよ。八つ当たりして何が悪い。
「お前、結構な頻度で掲示板を賑わせてるじゃないか。オレらのフォローが無くても楽しんでるんだろ?」
「まあ、楽しいかつまらないかと言ったら楽しいわな」
「だろー!」
スパゲッティ巻いたフォークを向けるんじゃありません。行儀悪いぞ。
義妹よ。君も「そうでしょそうでしょ」とばかりに頷くのは構わないんだが、新鮮なサラダを無音で食べないでくれ。怖いから。
「こっちは今、第2の街なんだが、ワールドアナウンスは聞いてないのか?」
「残念ですが貴広さん。その日、兄さんはログインしてません」
「バイトの撮影が長引いたんだよ。母さんに頼まれたものもあったし」
悪の女将軍さんの出番があるまで撮影所で待たせてもらったら、夕方になっちゃったんだよな。
お陰で監督さんと話が弾んで、他の特撮番組にも出させて貰えることになった。これで少しは課金ができそうだ。
「翠も隣街なのか?」
「エトワールと貴広さんのクラン合同で東の街道ボスを突破しましたね。でも今回はのんびり色々やりましょうって、行動方針ですから勢いは落ちると思いますよ。兄さんも東の街道に行くときは教えてください。みんなでサポートしますよ?」
「ああ、うん。そこまでは遠そうだが……。その時は頼む」
「大気はいま何やってんだ?」
「昨日はファースト死に戻りを体験したところだ」
正直に告白すると2人の顔がポカーンとしたものになる。
「兄さんが殺される相手というと……、熊に挑んだとか言いませんよね?」
熊さんはまだ見たこともないな。
それに翠は俺が狼の一撃で瀕死になったの知ってるだろーが。
「お前のことだから、誰も見たことのないユニークモンスターを引き当てたとか言わないよな?」
2人共俺のことをなんだと思っているのかね? 騒動有るところに我有りじゃねーんだぞ。
ついつい付け合わせの人参にゾン! とフォークを突き立ててしまった。ドン引きしないでおくれ、友よ。
「ぁあ、でもアレキサンダーはユニークかもしれないなあ」
「まだ見たことないが、どんなんだよそれ?」
首を傾げる貴広に、翠はゲーム内で撮ったSSを端末に表示させる。
「こんなんですよ」
「おおー、これが掲示板を賑わせているという噂の赤玉……」
「賑わせているのか?」
「兄さんもだんだん『ビギナーの人』という固有名詞で定着しつつありますけど」
ナニソレ酷い。
個人名は出さないのがマナーだというが、それにしたってもうちょい何かひねってくれ。
「そういえばまたユニークスキルの試し撃ちを忘れてたな」
「なんだよユニークスキルって!?」
あれ、貴広には伝わってないのか?
翠に視線を向けると、首をゆっくり左右に振った。
「とりあえず詳細は話せないが、キャラメイク時にガチャでユニークスキルを引いた。レベル表記だがいじってないので、俺も詳細は不明だ」
操作画面すら開けてないからな。攻撃用なのかもわからん。
「情報を独り占めする気か? ずるいぞ!」
「母さんの意向なので私にもどーにも出来ません」
立ち上がって抗議する貴広だったが、翠の弁明で真っ青になって椅子に腰を下ろす。
「うん、おばさんの意向か。じゃあしょうがないよな、うん。思う存分秘匿してくれ。わがまま言ってホントすいませんでした」
貴広はうちの母親と何かあったのか? この怯えかたは尋常じゃねえだろ。
「あー、隣街ってなんか違うのか?」
「ヘーロンという街ですね。壁もありますけど、最初の街ほど大きくはないです。ギルドも小さいし」
妙な空気を払拭するべく、強引に話題を変える。
翠は説明を途中で切り、隣の貴広を肘でつつく。
「あ、え、あ? ああ、たしか聞いた話だと東に砂漠があるとか言ってたな」
「砂漠……。毒ヘビとか毒サソリとかいそうだな。よし!」
これは猛毒に期待が高まるなあ。
「なんで大気は毒モンスターに対して嬉しそうなんだよ」
「毒耐性が取れたんだ。得した気にはなるだろう」
「「ええっ!?」」
なんだよ2人して身を乗り出して、そんな興味あること言ったか?
「言いましたよ兄さん! 耐性系なんて神官の候補スキルにも出てこないのに!」
「言ってない言葉に突っ込むなよお前!」
「毒関係なんか毒消しが道具屋に売ってるくらいだぞ! プレイヤーでもようやく作れる者がでてきたくらいなのに!」
メイドインプレイヤー毒消しか。高そうだな。
赤貧プレイヤーの俺には無理そうだ。
「よし。2人には取得方法を俺が伝授してやろう」
「いいのか!」
「普通そういうのはホイホイ人に言わない方がいいですよ」
「別に特別なことは何もない。簡単なことだ。毒草を食え」
「え……」
「は……?」
俺の言葉にびしりと固まる2人。大方、簡単すぎて拍子抜けしたんだろう。
「毒草を?」
「食った?」
「ああ、簡単だろ。その辺に生えてる毒草をむしって食え……」
「「出来るかあああああっっ!?」」
全否定の咆哮。
2人共ここは静かな洋食屋だからな、マスターもニコニコしてないで注意しようぜ。
他の人から見るとただの拾い食いである。




