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152 ホースロドまでの道中の話(4

 試験がようやく終わりましたので、再開いたします。


 ◆ PKside


 デカイ爆発が起こる。

 俺たちが想定してたよりずいぶんと手前でだ。

「ちきしょう! 何で分かったんだよ!?」

 罠を扱うことに長けた罠師が悔しそうに叫んだ。


 ホントは爆発物内蔵の熊人形が、護衛のプレイヤーに接触してから爆発し、そこを盗賊たちで襲う手筈だった。

 ところが仲間の忍者が「気を付けるでござる。ビギナーがいるでござるよ!」と言った直後に爆発だ。

 1人不確定要素のプレイヤーが加わっただけで作戦が滅茶苦茶じゃねーか!


 こりゃ盗賊のNPCなんかは当てにできねーな。

 こっそり撤退させてもらおーかと思った時だ。

 木の影から外の様子を窺っていた忍者が吹き飛ばされたのは。


「みーつけた」

 軽い口調だが玉が縮み上がるような、肝が冷える声が全員の動きを止める。

 装備は革鎧のようだが、武器は持っていない。

 事前情報でビギナーの野郎は格闘専門だと聞いていたが、無手とは俺らを舐めすぎてるだろう。

「ぐふっ、相変わらず及びもつかない威力でござるよ」

 忍者が倒れていたところには、幹の真ん中が陥没した丸太が転がっていた。

 奴自身は俺の隣で、口許から流れた血を拭っている。

「戦ったことがあんのか?」と聞けば、「なんだかよく分からない全体攻撃で一瞬にして全滅させられたでござるよ」とのこと。

 なんだか分からない攻撃ってなんだよ?


 威嚇じゃなくて完全に当てるつもりで銃弾を打ち込んだ。

 ノーアクションからのつもりだったが、ビギナー野郎は首を傾けただけで簡単に避けやがった。


 俺の職業は盗賊からレンジャーを経由して、現在はレア職のガンナーだ。

 闇市でかき集めたジャンクパーツで、銃を作ったところで転職できた。

 ファンタジーの世界で銃という絶対的なアドバンテージを手に入れたはずだ。

 それをいとも簡単に避けるとか人間業じゃねえっ!


「何を驚いているんだ? 軍人に銃なんか効くわきゃないだろう」

「なんなんだよ軍人って!」

 意味も分からず叫んだ俺の後方から、放物線を描いて何かの塊が投げ込まれる。

 同時に罠師に襟首掴まれ、後ろに引きずられた。

 ドガアアァァン!

 爆発は俺たちの頭上でだ。

「虎の子の1発だぞ! なんだよアイツはっ!?」

 爆弾を投げ込んだ罠師が悪態をつきながらジグザグに後退する。

 投げ込まれた爆発物を瞬時に上に蹴りあげるなんて、ビギナーの奴はどういう反射神経してやがるんだ。

 おまけにここら辺一帯は罠師があちこちに罠を仕掛けたはずなんだが、予め知っていたかのようにそれらを避けている。


「地面に何か仕掛けても丸見えだ」

 あっさりと懐に潜り込んだビギナー野郎が、罠師の胸に大穴を開けた。

 なんかしらの武器を使ったわけではなく、素手で穴を開けるとか何モンだよ!?

 血の塊を吐きながら消えかけた罠師を投げ捨て、ビギナー野郎はその場を飛び退いた。

 頭上を飛び回っていた忍者が投げたクナイが、ビギナーのいたところに突き刺さる。


 忍者の奴は空を走る【空駆】とかいうスキルで攪乱しながら上空に陣取っている。

 俺は動きの止まったビギナー野郎の背後に回り込みながら撃つが、これも難なく避けられた。

 何でこっちを見ずに避けるんだ!?


 ビギナー野郎は木々の間を飛び回りながら忍者に肉薄する。

 俺からすればやってることはどっちも変態機動だ。

 なんで【空駆】に追い付けるんだよ!

 上空で何度かぶつかりあい、最終的に押し負けた忍者が落下した。

「ぐあっ!?」

 落ちてきた忍者は既にボロボロで血塗れだった。

 ……血塗れ?

「なんでPVPでもないのに残酷描写が解除されてんだ?」

「PKのくせに残酷描写制限いれてるとかありえねー」

 ポンと肩を叩かれ、振り返るとそこにはビギナー野郎がっ!?

 ドゴンという衝撃が腹部で炸裂し、激痛とともに視界が暗転する。

 覚えていたのはそこまでだった。


 ◆


 戦ってる最中に脳内でピロリンピロリンと喧しい。


 レベルアップとかの通知なんだろうけど、それにしては数が多くないか?

 逐一チェックしている暇がないので無視していたら、途中で攻撃に違和感を感じた。

 やたらと通りがよくなったというか、威力が貫通しやすくなったというべきか。

 威力が増した?

 大幅な筋力増加がなった訳じゃないと思うが、なんかのスキルが音で増えたのか?


 忍者PKの胸を陥没させて下へ落とす。

 落ちる途中で捕まえて、腕を引き千切りながら、畳む要領で背骨をへし折る。

 そしたら銃持ちPKが残酷描写解除してないとか、ありえない戯れ言を呟いたのでとりあえず腹を数回殴ってから半裂(ハンザキ)させといた。

 半裂とは文字どおり、人体を真っ二つに裂く技だ。

 一歩踏み込んで使うんで、こっちも血塗れになるけどな。


 しかもアイツ、ファンタジー世界で銃とかズルくね?

 一体どうやって手に入れたのやら。

 最初に胴抜きした奴は爆弾使ってくるし。まだ忍者っぽい奴が普通に見えてくるから不思議だ。


 そんでレベルアップの通知だが、1回目がビギナーが30レベルになった音。

 2回目が……なんだこれ?

━━ビギナーLv.30━━条件判定……認━━魂魄適性通過━━対象の種族を稀人に転成(ランクアップ)━━

 というものだった。

 ビギナーのレベル上げで種族が変わるとは思わなかったぞ。


 ステータスを開くと種族がちゃんと稀人になっていた。

 稀人ってなんぞや?

 稀人の説明文は「来訪神の末裔」、なんなのこれ!?

 そしてユニークスキルに【幸運Ⅱ】が増えている。

【幸運Ⅱ】ってユニークスキルだったのか。

 説明文は確率40%上昇と。


 もしかしてさっきの「残酷描写がどーとか」って【幸運Ⅱ】で付与されたってないよな?

 あと、威力の増加の原因て、たぶんこれのようだ。

 与えるダメージの増加があるなら、受けるダメージの軽減もあるんだろうな。

 徒手空拳では中々嬉しいスキルかもしれん。


 とりあえず森から出ると、外にいた味方が一斉に逃げ出した。

 まだ何か敵が残っていたのかと思ったら、俺のせいらしい。

 確かに頭から血塗れの人がいきなり出現したら怖いわな。

 大多数のプレイヤーには虹色モザイクの、ブレのかかったナニカに見えたようだが。


 ぽよんぽよんと駆け寄ってきたアレキサンダーが、俺の全身を綺麗にしてくれたので混乱もすぐに収まった。

 ペットたちに怪我はないようだ。

 ツイナはべろんべろん舐めるのを止めなさい。

 シラヒメがツイナの口をグルグル巻きにしたので、俺は再びアレキサンダー浴を受けることになった。

 ハイローがこちらの安否を問いかけてきたが「PKを挽き肉にしてやった」と言ったら、後ろで聞き耳を立てていたインフィニティハートの面々がドン引きしていた。


「ハイローたちの方は終わったのか?」

「生憎とNPCの盗賊なんかに後れはとらねえぜ。そっちは?」

「穴あけと真っ二つと鯖折りかな」

「こっわっ!? PKの奴らも災難だよなあ。よりにもよってこのヤバイ奴に牙を剥くなんて」

「ヤバイ奴ってなんだよ?」

「ナナシ兄ちゃんの笑顔だと思うッスよ」

 いつの間にか近くに来ていたカーボがボソッと呟く。

「ケーッ!!」

「うわわっ!?」

 目を三角にしたグリースが、羽根をバサバサしながらカーボを威嚇する。

 なんかグリースとカーボって相性悪いなあ。


 とりあえず、頭の中の法令を消し去ってから続きを……。

 自分でもどうするんだか忘れてしまいたわ。ぐふう。

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