151 ホースロドまでの道中の話(3
俺が座禅を組んでいる足のところにアレキサンダー。
そのアレキサンダーの頭の上にベウン。
俺の背中にぴったりくっついて寝そべるのはツイナとグリース。
左腕を抱くようにくっついているのはシラヒメ。
何処からか歯軋りしている音が聞こえてくるような気がするが、これが最近の俺たちの休憩体勢である。
ハイローの言うには「紳士もいるからな」とのことだ。遠くを見るような目をされても困る。
カーボは再びアレキサンダーを撫でようとして、ツイナに吠えられグリースに追いかけ回されていた。
「嘴で突かれたら腐るのかな?」
「マジっすか!?」
尻尾蛇に咬まれたら確実だろう。
寝ている訳じゃないからいいけどよ。静かにしてくれるとありがたい。
隊商の馬車が中央に集められ、その周囲をシラヒメの網で囲む。
その周りにインフィニティハートの面々のテントが設置され、その外側の6方にかがり火が焚かれる。
俺たちは森側の一角に陣取り、座禅を組んで【大地魔術】のスキルをつかう。
前回、地下道を探す時に探索範囲が狭かったのは、下方向へ100mも伸ばしたのが原因だったようだ。
探索深度を地下1mに設定すれば、範囲は直径200m程に拡大される。
職業に忍者がいたりするらしいので、土遁の術などを使って地に潜っている奴がいないかを確認するためだ。
ついでに範囲内の地上にいる者も分かる。
これはアサギリに聞いた、隊商も含めた人数と同じなので問題はないだろう。
なので森側から接近してくるモノは素早く判明する。
ただ何かが近づいてくるのは分かるんだが、それが何なのかは視認するまで不明だ。
「なんか来た。数は4」
俺が立ち上がると、近くにいたハイローたちが戦闘態勢に入ったのが分かる。
全周囲を警戒している関係上、一角にメンバーを集中させる訳にはいかないとのことで、俺もそこに組み込まれていた。
ベウンをインベントリに放り込み、森から現れた赤い熊4体に目をやる。
「レッドベアだ。リングベアよりは強いから……。ま、ナナシなら平気か」
「人の顔を見てから説明を破棄すんのやめてくんねえ?」
【魔力視】を使ったところ、1番右の奴だけ輪郭がおかしい。
スキルを使わなくても、手足を動かしながら滑るように移動する熊なんざ怪しい物体そのものだ。
ハイローたちに前へ出るのを待ってもらい、ツイナに右の奴を狙わせる。
雷撃を食らった赤い熊は間髪入れずに大爆発を起こした。
爆弾を内蔵したカカシか何かだったようだ。
「うおおお!? 爆発? クマ爆発ナンデ!?」
「並んでた隣まで死んどるな」
「盗賊も湧いたぞ!」
「あの熊、俺たちのところまで来てから爆発する予定だったぽいなー」
なんだかんだ言いながらきっちり戦闘態勢を整えるところは流石である。
「過激派がよく使う手口だな」
「そーゆー考えに至るのお前だけだから!」
ハイローが呆れたように唾を飛ばしてくるので、それを避けつつ前に出る。
爆発とともに周囲の森から盗賊たちが飛び出して来たからだ。
ただ、盗賊たちにしても爆発した場所が想定外だったらしく、些か戸惑いをみせている。
隣にいた熊にまで爆発の影響が及んでいて、真横にいた1匹が絶命。
その隣にいたのがボロボロ。左端にいたのが混乱状態に陥ってるからな。
爆発させようとしてた奴らが近くにいるだろ、あれは。
【魔力視】を使うことで解けてしまった【大地魔術】を再び使用する。
ついでに【気配察知】も使って周囲を窺えば、森の中にまだ前に出てこないのがいるようだ。
◆ ハイローside
「邪魔っだあっ!」
手前にいた盗賊の頭を蹴り砕いたナナシが、単独で包囲網を抜ける。
それに続こうとしたキマイラを、アラクネが呼び止めた。
「まチナサイ、ツイナ。おトウサマガタンドクデアレバ、カベハイラナイデショウ!」
「がう!」「メエェ」
2つの首が返事をするなり、近くにいた盗賊に対して前足を振るう。
顔面を鋭い爪で抉られた(首から上がモザイクになったので見えない)と思われる盗賊は、悲鳴をあげてのたうち回る。
親もエグけりゃ子もエグい。
「グリース! エモノをネライナサイ!」
「コカコッ!」
ホントにあれAIなのかね。
順応性がありすぎんだろ。
人の背丈くらいの灰色のコカトリスの甲高い鳴き声と共に、盗賊たちの持っていた短剣が錆びて腐り落ちる。
「マジか……」
いったいアイツは何を飼っているのか。
赤玉なんかは盗賊から攻撃されたら、腕ごと体内に取り込んで食いちぎってるし。
千切られた腕はモザイクがかかってるし、虹色の血が飛び散ってるから皆の顔がひきつってる。
火炎放射は放つわ、雷は落とすわ、糸で巻いて捕らえるわ。
防具の隙間を嘴で突いたら、敵が苦悶の表情で苦しみ悶えるし。
倒れてもまだ息のある奴は、尻尾の蛇で咬まれてるし。死体は紫色になるし。
ナナシのコカトリス怖っ!?
最早ペット無双。
味方のプレイヤーがドン引きだ。
「こらお前ら! 腰が引けてる場合か! これが仕事だって忘れんな!」
アサギリの怒声でハッとなった数人が、防戦一方だった戦況に一石を投じる。
奴らの攻撃の隙を掻い潜り、手足を切り裂いたところに後方から飛んできた魔法によって打ち倒す。
真っ向からなぎ倒す者。
フェイントをかけてから転ばせて、無防備になった首を切り裂く者。
別の者が攻撃した隙に、横から手を出して股間を強打する者。
ちょっと前まで「お前らの攻撃方法大丈夫か?」とか思っていたが、ナナシのペットに比べればまだマシなのが分かった。
リアルでの大気自身がもう理不尽のカタマリだしなあ。
そんなこんなで襲ってきた盗賊を全員倒し、一息ついた俺たちだったが1番の衝撃は気の緩んだそこに現れた。
全身を虹色に染めた、モザイクのかかった輪郭のボヤけた人形が森から現れたのだ。
「「「ぎゃあああああっ!?」」」
「「「ひえええええええっ!?」」」
「猟奇すぎるっ!?」
顔面蒼白にしたり、腰を抜かしたり、ぶっ倒れたり、脱兎の如く逃げ出したりするクランメンバーたち。
ひきつったカーボの顔色が悪くなるなか、近寄ってきた虹色モザイクは「PKを挽き肉にしてやったぜ」と述べた。
「ナナシ、か?」
「俺以外の何に見えるんだよ?」
赤玉ちゃんが近寄って、モザイクの表面をぐにぐにと移動する。
しばらくするとモザイクが解除され、ナナシの顔が確認できた。
「全身血塗れが他の人間にどう見えるか考えてみろ!」
「えー」
見るからに不満顔だが、無事で何よりだ。
しかし「挽き肉にされた」PKの奴らの精神は大丈夫だろーか。
ゲームどころか、人生を辞めたくなったりしてないといいけどな。
いつも誤字報告して下さる方、ありがとうございます。
次回、PKsideの予定。




