150 ホースロドまでの道中の話(2
インフィニティハートのメンバーの何人かは俺の方を見て青い顔をしている。
まあ、俺の戦闘は周囲に被害をぶちまけるからな。
耐性があったから残酷描写を普通に取ったが、それが周りに影響を及ぼすとは誰も思わねえよ。
でもPVPじゃなければ直接の影響はないはずだ。俺とPKにモザイクがかかるくらいか。
「よし。ツイナ」
「がう」「メエ」
「お前は俺が戦闘に入ったら周囲に壁を立てろ」
ツイナはこくこくと頷いて、ふんすと鼻息を荒くする。
尻尾がぶおんぶおんと振られている。
壁で影響が伝播しないとは思わんが、俺の凄惨な戦闘を周りに見せないことはできるだろう。
そしてツイナに突き刺さる4対の目やら8個の複眼やら。羨望の眼差し。
アレキサンダーは俺にグリグリと体を擦りつけ、グリースは嘴でマントをぐいぐい引っ張る。ついでに尻尾蛇もシャーシャー言ってる。
「なんだ、どうした?」
「ズルイ、おトウサマ。ワタシニモ、おヤクメヲクダサイ!」
「はい?」
なんだかツイナだけに頼みごとをしたのがご不満のようだ。
「はははっ。愛されてんなあ、ナナシよう」
ニヤニヤしながらアサギリが肩を叩く。痛いんだから、あんまり強くしないでくんないか。
ついでに羨ましそうな視線も幾つか飛んでくる。
それはペットを持ってる連中からだ。
羨ましいんならペット増やせばいいんじゃないかね。
とりあえず野営に貢献できるとしたら料理しかないな。
インフィニティハートにも料理を作れる者はいたが、俺が提供すると言ったら「お手並み拝見」とばかりに手伝いに回ってしまった。
見返りに、夜の見回り番は免除してくれることになったからいいけどよ。
襲撃があったら対処できるように、瞑想状態で休息しよう。
夕飯は人数が多いので、大鍋を2つ使って味の違う野菜ぶっ込みスープでも作るか。
片方はレッドカウの牛乳を使ってシチューにする。
片方は香辛料を多目に使う。
シチューの満腹度は称号の効果もいれて55%。香辛料スープの方は50%だ。
オーク肉の塊をぶつ切りにして、大きめにしたのをゴロゴロいれたので殆どのプレイヤーが喜んでくれた。
料理中にインフィニティハートの料理担当に「ビギナーさんは簡易モードは使わないんですか?」とか聞かれた。
「なんだそれ?」
「1度作った料理は手順を記録されて、また作る時にタップすれば時間をかけずに作れるんですよ。満腹度は落ちますけど」
改めて【料理長】スキルを表示させてみれば、今まで作った料理のレシピがズラリと表示されていた。
ついでに作ったことのないレシピも並んでいる。それはゲーム世界の料理のようだ。ペット用餌レシピとかもあるな。
なるほど、こんな機能があったのか。
「満腹度が落ちるくらいなら、手ずから作った方がいいな」
「それでこの満腹度ですか。勉強になります」
メモをとるようなレシピじゃないと思う。
粗方行き渡ったので食事する方に回れば、隊商の人たちからも「専属料理番にならないか」と、勧誘されたりもした。
丁重に断ったけど。もっぱら今の目的は魔の森産の米である。
アサギリたちの輪に近づけば、真剣な表情で野菜ぶっ込みスープの肉を凝視していた。
「オークか。こんな肉が得られるなら重点的に狩ってもいいかもな」
「強さ的にはどんなもんなんだ?」
「ナナシにいちゃんに聞いても地力が違うから参考にならないっすよ」
「そもそも俺たちとナナシじゃあ戦闘方法が全く違うしなあ」
「素手でスコピオに突っ込むと聞くだけで正気とは思えない」
「オーガよりはるかに弱いから平気じゃね」
「「「……」」」
頭の中に浮かべた魔物強弱表からオークより強いものを選ぶとそう言わざるを得ない。
オーク単体ならリングベアに並ぶかもしれないが。
なにやら周囲から驚愕の視線が浴びせられている。
プレイヤーの沈黙に釣られてか、隊商の人たちも黙っちゃってるじゃないか。
「……もしかしてオーガの部屋の高札って」
「……あの「vs1」の奴って」
「……アレを1人で圧倒すんの? マジで?」
「……ビギナーさんは真性の化け物か」
「……リアルはサイボーグだと言われても信じる」
「……ぁぁ、またナナシにいちゃんの人物像がおかしなことになってるっす」
「……本人にその自覚はないからほっとけ。無駄なストレスを溜めるだけだぞ」
あちこちでぼそぼそと話始めるインフィニティハートの面々。
聞こえてんだがな。
ツイナが口の回りを真っ白にしているんで、水をかけて拭いてやる。
アレキサンダーたちがシチューを食べたそうにしていたんでやったんだ。
アレキサンダーは皿ごと体に取り込んで皿だけ出す。
シラヒメは下半身の蜘蛛で食べていた。
グリースは嘴で具を啄み、尻尾蛇で汁だけを飲んでいる。
普通の料理を与え続けてきた俺が言うのもなんだが、今さら餌だんごとか与えても食わなさそうな気がするな。
食事が終われば、夜に向けて本格的な警戒態勢に入る。
俺はシラヒメを伴ってアサギリのところへ向かった。
最終防衛ラインというべき馬車の周りに、シラヒメの網を張り巡らせる提案をするためである。
皆様、ストレス溜まっていますか?




