149 ホースロドまでの道中の話(1
さてさて、再度のベアーガである。
移動だけで今度のログインは終わりそうなんだが、道中がちゃんと進めばな。
アレキサンダーたちを目覚めさせれば、なにやら目に力があるというか、もの凄いやる気になっているようだ。
この前に「移動しない」と言った時にずいぶん気落ちしていたから、その反動もあるのかねえ。
「その前にポーション作ってからな」
出鼻を挫くようだが、いい加減溜まりに溜まった薬草やら毒草やら麻痺草やらを処分しなければならん。
レシピに出てきた中和剤というのを使って、毒消しポーションやら麻痺消しポーションやらも試す。
【調合】の20レベル台では3本に1本くらいしか成功しないようだ。
ぼふんぼふんと黒煙を出しているのは失敗作である。
見てみると「薬とは言えない何か」という物体に。
それでもレシピに使える先があるようなので、一旦横へ置いておく。
ベウンは調合とまではいかないが、かき混ぜとすり潰しはできるようなので任せてみた。
すり潰す際には乳鉢をアレキサンダーが押さえていたり、鍋をかき混ぜる時にはグリースがベウンの踏み台になっていたりと、手伝ってくれるのはありがたい。
そして「薬とは言えない何か」の使い道は、薄めた毒薬と香辛料を混ぜて「目潰し薬」が数本精製された。
投げつけて使うようなので、アレキサンダーへ渡しておこう。
ちなみにシラヒメとツイナは体が大きすぎて、生産部屋への出入りは断られた……。
昼をプレイヤーの屋台で済ませて、ホースロドへ向けて出発である。
門前にいたプレイヤーの人から、街から街への駅馬車があると聞いた。
しかしその馬車は乗員10名くらいな上に、ペットは小型種以外は不可だというので、俺たちは乗れない。
「がうがう!」「メェ~」
「どうしたよ。ツイナ?」
馬車を横目に西門を出ると、ツイナがグリグリと頭をこすりつけてきた。
ライオン頭とヤギ頭を交互に撫でておく。
「ぐるぐる」「メェ」
すかさずシラヒメが通訳をしてくれる。いつもありがとうな。
「バシャナラマカセロ、だソウデス」
「いやいや。馬車を繋げるくらいなら、背中に乗せてくれよ」
ポンポンと背中を叩くと、ツイナは羽根を折り畳んでから伏せてくれた。
ヤギ頭の後ろ側、尻尾に近い位置に乗る。
「無理して飛ばなくていいからな」
「がうっ!」「メエェ」
ツイナは羽根を広げると走り始めた。
どうやら羽根を広げることで、重量軽減をしているようだ。ふんわりと浮いている。
速さは体感的にいって30~40Km/hはでているかな。
「コケッ」
「マケマセン」
アレキサンダーはシラヒメの背に乗り、グリースは前屈姿勢でツイナと並びながらついてくる。
シラヒメも速さなら2匹に劣らない。8本脚を高速で動かしつつ、ツイナに並ぶ。
なにやら背後から「はえええーっ!?」とか声が上がっていたようだが、まあいいか。
道中のアーマーキャットやブルースライムはほぼ轢いていく。
プレイヤーからは鎧猫だとか、青玉だとか呼ばれているらしい。
打ちどころが悪ければ、ブルースライムなら1轢きで倒せるようだ。
アーマーキャットだけは悉く避けていくが。
まあ、ライオンが突っ込んでくれば怖いかもしれんな。
1時間毎に休憩を入れさせる。
全員に果汁水を飲ませて肉を食わせておく。満腹度も減ってるしな。
果物の果汁を【生活魔法】で出す水に混ぜるだけで、「疲労を軽減する」というお手軽ドリンクになった。
最近は移動する際の必需品である。
主に作っているのは「レモン水」だ。
時々降りて皆と一緒に走ってみるが、ツイナがしょんぼりするのでほどほどにしよう。
その日の夕方くらいになって、街道沿いに集まっている馬車の団体がいたので、野営に混ぜてもらおうと近づいた。
馬車は10台以上あって、周囲には武装した人たちが見回りをしているようだ。
ざっと見て、20人以上はいるなあ。
「あ! ビギナーさんだ」
「え、マジで」
近づく前にあっちに気がつかれた。
あの呼称で呼ぶってことはプレイヤーの集団か。
俺の姿を見たプレイヤーたちは、野営の中心部に向かって声を張り上げる。
「マスター! ビギナーさんが来たー!」
程なくしてこっちにやって来たのは、知り合いだった。
「よお、ナナシ」
「アサギリ? ってこたあ、この集団ってインフィニティハートか」
「そだぞー。ハイローもカーボもいるぞ。ナナシは別件でクエストでも受けたのか?」
「クエスト?」
「違うのか。なんでここにいるんだ?」
「俺はホースロド向かってるだけなんだが」
「ああ、なんだ。そーいうことかー。援軍かと思ったぜ」
話がよく見えないんだが。
俺が首を捻っていると、話を聞きつけたのかハイローとカーボもやって来た。
互いに手を上げて挨拶を交わしておく。
「んで、アサギリ。手がいるんなら貸すぜ」
「ありがたいが、いいのか?」
「その代わり野営にまぜてくれ」
「そのくらいなら構わないぜ。詳細は一応言っておこう」
ばしばしと俺の肩を叩きながら、野営の中心部へ入れてもらう。
アレキサンダーたちも一緒についてくるが、こちらを注視している者の中には目線が何かを探しているようだ。
俺はインベントリからベウンを取り出すと、シラヒメへ渡す。
途端に周囲から「はうっ」とか「ほぅ」とか悩ましい吐息が聞こえてきた。
ベウンはというと、そんな羨望の視線を全く意に介さずシラヒメの下半身の蜘蛛の背中でくるくる踊っている。
今度は兄弟でも作ってやるか。
アサギリたちから彼らが請け負ったクエストを説明してもらう。
「見ての通り普通の隊商の護衛なんだがよ。昨日の野営場所でホースロドから来たって商人に出くわしてな。結構な数の盗賊がいるらしいって話を耳にしたんだよ」
その話をもってきた商人は大丈夫だったのかと聞いたら、旨味が無さすぎて難を逃れたらしい。
「問題はどうやらその中に異方人が混じっているらしいってことでな」
「盗賊プレイってやつか?」
「それならそれで対処は可能なんだが。レッドネーム、PK連中のようでな。そうなるとタチが悪い。完全にこっちを殺しにかかって来るからなあ」
「それならPKだった場合は俺が受け持ってもいいぜ」
「「「えええっ!?」」」
全員が目を丸くしてこっちを見ている。
PKなら俺にとっては旨味だらけである。
使えるか使えないかは別にして、新しいスキルを得られるチャンスだ。
ご指摘を頂き速度の方の訂正を行いました。