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148 バイト中のオファーの話

 その日は早朝から撮影現場へ。

 は? 学業?

 そんなのはあと回しである。


 今はアクション監督さんと流れの確認作業だ。

 主人公が積層形住宅棟の屋上で怪人に遭遇し、変身する間もなく投げられてそこから落下するというシーンだ。

アバンってやつだな。この後にオープニングが入る。

 

 俺はいつも通り後姿だけ主人公に似せた(よそお)いを整えた。

 これから撮るのは分割すると屋上、空中落下、地上の3シーンになる。

 怪人に投げられて飛ばされるシーンを主人公で撮って、その後で積層形住宅棟の上から下へ落ちるシーンまでが俺の役目。

 なるべく顔を見せないで手足をバタつかせなくてはならない。


 主人公役の春斗さんはもう一度、下に落ちてからのシーン。

 アスファルトの上をごろごろ転がり、屋上を睨みつける。という流れだ。

 その前に兄妹でのシーンを撮っていたアカネちゃんと挨拶を交わす。

 見ていたら、春斗さんは一度転がるシーンを撮ってから映像を見返し、監督さんに断りを入れてからもう一度同じことを繰り返していた。

 なにか納得できないところがあったんだろうな。


 俺の方は特にNGもなく、下に置いてある青いエアークッションまですんなり落ちられた。

 そこに至る撮影までが1時間かかった。

 ちょっとでも強い風があると、安全のために撮影が止まるからなあ。

 上から落下するときに、何故かクッションいらねえな。と思ってしまった俺は、もうダメかもしれん。

 15~20mもあるんだが、たぶん難なく降りられる気がするんだよな。

 騒ぎになるから絶対に実行には移さないことにしておくが。

 


 物語も終盤になっているはずなんだが、変身前後の主人公と妹との邂逅が神がかっているらしい。

 ちょっと調べると、そのことでやきもきしているファンの書き込みがずらーっとながれていくと聞く。

 いったいいつまで引っ張るのか。


「最終回になって主人公がバラすまで知らないんじゃあ」

「ふふふふ。それは秘密です」

 アカネちゃんが唇に人さし指を当てて頬笑む。

 毎回演出家さんとあの手この手で間一髪の空間を作り出す手腕は末恐ろしい。


「ほんと、振り向くタイミングとかの間が絶妙だよな」

 アスファルトを転がる間が悪いとかで、監督と論戦を繰り広げていた春斗さんが砂埃を落としながらやって来る。

 すかさずアカネちゃんは後ろに回り、「もお、お兄ちゃんはだらしないんだから」と背中を叩いていた。

 その様子は、劇中のほんわかとしたシーンそのものだ。


「結局何回リテイクやったんですか?」

「4回かな」

「「うわあ……」」

 マジかいみたいな呆れた俺の声とアカネちゃんの声がハモる。

 役者さんも大変だなあ。

 そういうのもスタントの仕事だと思うんだ。

 流れで顔のアップが入るもんだから、本人がやりますと主張したんだがね。


 あとは怪人と変身したガガーンのシーンを撮って、今日は終了するだろう。

 今撮っている回は全体を朝で統一するらしいから、外での撮影が早朝ばっかりなのだ。

 春斗さんとアカネちゃんの出番は終了なので、2人とは「おつかれー」と交わして別れる。

 俺はまだ怪人着ぐるみでのスタントがあるから、しばらくは待機だ。


 とそこへ助監督さんが手をヒラヒラ振ってやってきた。

「お疲れさまです」

「おつかれー。んで大気くんさあ」

「はい?」

「ちょこっと映画版の方に出てみないかい」

「へ? スタント以外でですか?」

 映画版の撮影はすでに始まっていて、スタント場面も幾つか撮っている。

 態々聞かれるということは、それ以外での出演ということだろう。


「ちゃんと大気くんの事情も考慮してあるよ」

 事情というのは軍に所属していることによるアレコレだ。

 映像媒体への顔出し禁止とかが含まれているため、俺が関われるのがスタントまでになる。


 そして助監督さんから渡されたのは、どこぞの民芸ショップで売っていそうな仮面。

 髪はザンバラ、目が真ん丸で、口からは乱杭歯が牙のように左右へ飛び出している木でできた仮面だ。


「これを被れと?」

「そーそー。セリフはあんまりないけどアクションはあるからよろしくね」

「ええ、はい。たぶん大丈夫じゃないかと思われます」

 ついでにと渡されるラフ画。

 そこには仮面を被った青年が描かれていた。

 正面はいいんだが、横顔が分厚くなった木彫りの側面で、後ろもザンバラ髪が彫ってある。

 つまりこういうヘッドをかぶれってことなんだろうな。

 ラフ画には簡単な設定も書いてあった。

「主人公が妹へのプレゼントに買った仮面のキーホルダーが、ガガーンのエネルギー余波と大地の意思を受けて生まれた。最後のシーンで割れて落ちる」とある。

 精霊的なものかな?

 しかし、助っ人的な使い捨てキャラクターというものは、こんなものなんだろうか。

「定番というか鉄板?」みたいな書き込みもあるし、そういうのものだと思っとこう。


 ラフ画を眺めながら、役どころを思案しているとアクション監督さんが呼んでいた。

 やっと俺の出番が来たようだ。

 とりあえずは紙をしまってから、着ぐるみ仕事に意識を切り替えるとするか。


「勇者武装ガガーン」という特撮の撮影現場。のお話。

 ネーミングは色々とごちゃまぜにしました。

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