143 尋ねる話
さて、また2日ぶりにログインである。
一昨日は龍樹姉とすぐに会えたのはいいんだけど、訓練で軍施設の方に一泊する羽目になってしまった。
久しぶりに師匠モードとなった龍樹姉と、模擬戦をやりあって地面と水平に吹っ飛ばされた罠。
相対してみたところによると、俺の反応速度とパワーが上がっていたらしい。
「弟の成長を嬉しく思うよ、私は」
「だからって、こんな、ボコボコに、する、必要は、ねえだろっ……」
龍樹姉の部隊に医療用サイバーノイドがいなかったら死んでたぞ。
もしかしてアレか。リアルの肉体にも、ステータスの成長がフィードバックしてたりするのか?
マジでゲームが奇っ怪なんだが。
それと龍樹姉に「軍以外の対外組織が他にあるか?」という質問をしたんだが、「そんなものはない」と一蹴されてしまった。
どうやら不思議な種族がプレイヤーとして存在しているらしい。
出会ったら生態を尋ねてみよう。
ログインはやはりベアーガだった。
ペットを目覚めさせたあとに街中を歩いていると、プレイヤーの集団に囲まれた。
どうやらクエスト発生の伝授をしてほしい方々のようだ。
称号【料理人】を聞きたいのが4人。
スキル【○○知識】が欲しい奴が6人。
称号【魔女見習い】が欲しい者が5人である。
ほぼNPCから話を聞いたり振る舞ったりせにゃならんのだが、全員が難色をしめすとかどんだけコミュ障を拗らせとるんじゃ……。
図書館は道聞けばいいだけだろう。
【料理人】はスラムにでも行って、炊き出しでもすればいい。
しかし情報料がレンブンの分も込みで1234万Gなり……。
設定しといてなんだけど、こんな金をどうしろと言うんだ。
速攻で商業ギルドに預けて来たわな。
ギルドマスターのおばちゃんに聞くところによると、1200万もあれば庭付きの一軒家が買えるそうな。
まだ定住する気はないので、使い道を考えよう。
プレイヤーの露店で売ってた、鋼の拳という格闘用武装が80万だったので購入した。
【鉱物知識】の情報を教えてきたので、5万G引きの75万である。
リングベアの籠手よりちょっと高い打撃力+55と、防御力+10。
プレイヤー製品は耐久度があるので、定期的に修理が必要なのが面倒なんだよな。
あとレドルフの革でマントとブーツを新調したら、2つ合わせて防御力が8上がった。
素材渡したら革職人が狂喜乱舞してたんで、取れる場所を教えてやったんだが。
多人数で行くとオークがネックだろーけどな、山向こうは。
そして俺はベアーガの南門へ向かう。
ガルス村へ行くまえに、使える情報網は使っておこう。
芋虫鉱山越えて、関所を通ってヘーロンに着いてから砂漠方面へ。
せっかく称号があるんで、スフィンクスが米を知っているか聞いてこようと思う。
ついでにSP12使って【環境耐性】というのを取った。
一々暑さ耐性(SP9)とか寒さ耐性(SP9)とか取ってたら、SPが幾つあっても足らんわ!
性能的にいえば【暑さ耐性】などが軽減20%に対して、【環境耐性】は軽減10%だ。
暑さや寒さなど、幾つかの厳しい環境を纏めてある耐性である。
そしてステータスの称号で【ゲヴラーの加護+】になってんだけど……。
え? 戦闘力をあげると増えたりするのか!?
戦闘全般に+30%と、ついでに痛覚にもプラスされたんで90%というね。
腹に穴でも開いたら、リアルの肉体がショック死するんじゃないかね。
その前に安全装置が働いて、強制ログアウトとかさせられそうだが。
そしてカラッと暑い砂漠。
50℃が45℃になった程度の軽減だが、我慢できないほどではない。
そして【魔力制御】やら【魔力操作】やらを駆使すれば、ウォーターウォールを頭上に展開することも可能になった。
MPをガリガリ削りながら頭上に水の膜を広げつつ格闘戦。
なかなか維持しながらというのが難しい。
MPが枯渇しかけたら、ツイナの上で休憩。虎並みに大きくなって、お父さんは嬉しいぞ。
スコピオはカウンター(【反射】効果で威力は倍だ)狙いで頭を破壊していく。
ラージワームはグリースとシラヒメが動きを止め、ツイナが噛み殺す連係で倒す。
そしてアレキサンダーがぴょんぴょん跳ねながら、ハエたたきのようにサンドリザードを捕食していく。
お前たちも強くなったなあ。
喰っても喰っても体積が変わらないっつーアレキサンダーが一番不思議なのである。
気にしたら負けなんだろう。
前回より早いスピードでオアシスに到着した。
それでもベアーガから2日かけたんだけど。
オアシス周りにプレイヤーが露店を出していたり、PTらしき集団が結構な人数でたむろっていた。
しばらく見ないうちにちょっとしたキャンプ地になってやがる。
俺の顔というかアレキサンダーたちを見るなり、どよどよとざわめきが広がる。
「び、ビギナーさんだとぅ!?」
「もしかしてスフィンクスにソロで再戦!?」
「ヒヨコがニワトリになってやがる!」
「いやダンジョンの方かもしれねえっ」
「やべえ、初クリアかっさらわれるかもしれねえっ!? 早く行こうぜ!」
いや、ダンジョンに用はないから、そんなに慌てて向かわなくても大丈夫だぞ。
そしてここでも情報伝授である。図書館の方と【料理人】の方だけな。
ここで過ごしていると規定の金額に達している者は少ないそうだ。
このオアシスだけで回ってる金にも限度はあるんだろう。
「ビギナーさん、ここまで何しに来たの?」
「スフィンクスから情報を聞きに来ただけだ」
「「「は?」」」
目が点になる皆様。
あれ?
「ダンジョンへ行けるんなら、スフィンクスを倒したんだろう?」
「ああ、うん」
さっきダンジョンのクリアが云々と言っていたクランメンバーがぎこちなく頷く。
「スフィンクスに質問できる称号とか貰えなかったか?」
「……ないな」
「おや?」
一瞬周りがしーんとして、1拍を置いてから怒号や悲痛な叫び声が響き渡る。
「初クリア報酬かーっ!!」
「ぐわあああっきたねえっ!?」
「運営許すまじーっ!!」
「あんなに苦労したのに! 苦労したのにいいぃぃっ!!」
どうやら俺たち以外にはあの称号は貰っていないようだ。
みんながどういうものか見たいというので、俺の後ろをぞろぞろと付いてくることになった。
「案外「そもさん」とかいったら「せっぱ」と返してくれるかもしれないぞ」
倒したことのあるというクランのマスターに聞いてみたところ、「モンスターと会話しようという考えなんかありませんよ」と言われた。
とりあえずその常識を捨てるところから始めようぜ。
結構な数のプレイヤーを連れてピラミッドの前まで行くと、スフィンクスは伏せていた体を起き上がらせて口を開いた。
『ようこそ、我を倒した者よ。何用か?』
前置きはいらないのでとっとと用事は済ませよう。
「この世界に米はあるか?」
『米か』
「米だ」
『西の深き森の中に、お主の求める物はあろう』
「分かった、感謝する」
西のホースロドの魔の森のことっぽいな。
あの中に自生していたりするのかねえ。
一緒に来た人たちに、今の会話はいっさい聞こえなかったらしい。
話してもよかったんだが、情報になるから軽々しく話すなと怒られた。
他のプレイヤーとの交流代わりといってはなんだが、スフィンクス戦未クリアのPTに混ざって一戦交えてみたら。
「ビギナーさんの攻撃力、ペットも含めて絶対おかしい!」
ということで全会一致を得られたようである。
これも一応、皆の理解を得られたといっていいのか、悪いのか。
こういうのも噂になって、直接のちょっかいが減ったと思えばいいのかねえ。
もうすぐGWですね。
そして「グリーン・〇ッド」としか読めぬ……。




