142 一家団欒の話
ログアウトしてから夕飯を作る。
なんかここんとこゲームのせいで手をかけて食事を作ってなかった気がする。
材料をふんだんに使って手の込んだものを作ろう。
でもあんまり冷蔵庫の中の物を乱雑に使うと、翠が文句をいうしな。
材料を切りながら思う。
ゲーム内は微妙に食材が足りないからな。
米が欲しい。
煮物系はみりんや酒があるといいんだが、米がないからそれも作れない。
いっそのこと畑でも作るかねえ。
ガルスの村なら畑くらい売ってくれそうな気がする。
次に行った時に聞いてみるか。
「で、兄さん。なんで夕飯がオニギリ一択になったんですか?」
「米のことを考えていたからかな」
「なんで米……?」
「まあ、いいじゃない。こういう夕飯も。母さんなんかたのしそうに頬張っているし」
白結び、海苔付き、俵結び。ふと気が付いたら延々とオニギリを作ってた。
これにお漬け物とおひたしと肉じゃがをつけたのが本日の夕飯だ。
プチ姉の言う通り、母親は幸せそうにオニギリをもくもくと食べている。
牙兄貴は苦笑い。
翠ははてなマークを飛ばしながら、中身の具に丸とか三角とかつけながら食べている。
文句を言わないからいいけど、採点はしないでほしい。
色々突っ込んだり混ぜたりしたからな。
エビ天を入れたオニギリも人数分作ったが、母親が手を付けないと誰も食べやしねえ。
「ところで兄さん。ゲーム内は今どこにいますか? 大規模な捜索隊が兄さんを探し回ってますよ」
「山向こうのセーフティーエリアでログアウトしたんで、次にログインしたらベアーガだぞ」
「あれ? 街とか寄らなかったんですか」
「ペット連れてたら魔族呼ばわりされて矢を射かけられた。城落としで街ごと潰してやれば良かったな」
「それこそ魔王の所業ですから止めてください!」
ふむ、思い付きだがケツ捲って逃げる必要もなかったかもしれん。
迫害されるんならやり返すという選択肢もあるよな。
「大変です牙兄さん。大気兄さんが悪どい顔をしてます」
「いやー。プレイヤーの行動については俺は口を挟めないな。ただでさえ先日から大気の行動のせいで、SEは大混乱だからな」
「……」
翠が黙っちゃったよ。
「うーん。壁ぶっ壊して行くのがマズかったか」
「ああ、いや。マズくはないが、あっちは正規ルートじゃないからな。というか何で壁を壊す行動になったのか、その辺に議論が集中したな」
「鉱石を掘りたかった」
「は?」
「鉱石を掘りにいったんだよ」
「オーケーオーケー、了解した。その旨SE連中には言っておこう。阿鼻叫喚になる光景が目に浮かぶようだが」
「なんで裏道を通ったら想定外になるんだろうな? 一応道として設定してあるんだろ」
牙兄貴と関係ないプチ姉が苦笑する。
「それはたぶん「もしかして」とか「念のため」とかだと思うな。SEの人たちもそこをピンポイントで通過されて仰天したんでしょーよ」
「意味がわからん」
「色々あるんだ。察しろ」
「はいはい。軍事機密だと思うことにするよ」
軍を知らないって奴も色々あるんだろうかねえ。
なんかの隔離施設にでもいるんだろうか。
「あー、明日は軍行ってくる」
「え、呼び出しですか?」
思い出したので先に言っておこう。
ダイニングのホワイトボードに明日の予定「軍」と書いておく。
翠はとたんに不安そうな顔になり、母親に頭を撫でられていた。
「別にドンパチする訳じゃないから安心しろ」
「いえ、そっちより情報……。な、なんですか母さん!? 素直じゃないじゃないですよ。なんのことですか! だから照れてる訳じゃないんですってばっ!」
「あーあ。翠も一々反応するから、母さんに弄られるのをわかってないよねー」
矛先が自分に向かないように沈黙する牙兄貴はともかく。
プチ姉は酒の肴にしてないで助けてやれよ。
ちなみに統制機構に関係する行動は、全てにおいて最優先事項とされる。
そのために学業を1年間休学したとしても、問題なく進学できるのだ。
軍に所属してる俺は既に学業を受けなくても問題はないんだけどな。
「こっちは少々確認したいことがあるだけだ。龍樹姉に会えればいいんだけど」
「龍樹姉さんもまともに帰ってこないからねえ」
直属の上司だが、アポイントメントを取って会えればマシな方だ。
場合によっては2~3日待たされることも珍しくないからなあ。
情報収集だけなら直属の部下にでも聞けばなんとかなるだろう。
人じゃないけど、施設内には絶対いるし。
ぼちぼち再開します。
前みたいなサイクルには戻せないかもですが。
 




