119 その頃のペットたちの話
短いです。
ナナシがアナイスにぺしぺしと修行を強要されていた時のことである。
アレキサンダーを筆頭としたペットたちは、アナイス宅の外にいた。
彼らはアナイスに「これからあなたたちのご主人様には修行をしてもらわないといけないわ。それに色々と雑念を入れるわけにはいかないの。申し訳ないのだけれど、ご主人様の邪魔はしないで頂戴ね」と言われたのだ。
アレキサンダーたちもナナシの邪魔をしたい訳でもないし、修行のようすをみていれば自分たちに構っている余裕もないのが分かる。
何にせよあの恐ろしい魔女に普通の態度で接してる主人には尊敬しかない。
アレキサンダーたちは触られるだけで硬直してしまうのだから。
「ソレデ、ドウシマショウおニイサマ?」
シラヒメに言われて、アレキサンダーは考え込む。
主人が休む時には自分たちも休眠状態になるので、その時は近くにいねばならないが。
結論としてはこの家の近辺より離れることはできないというだけだ。
アレキサンダーはぽよんぽよんと跳ねて「この家より離れなければ自由」とだけは伝える。
あとは主人があの状態なので食料は自給自足するしかないだろう。
「ツギハ、オトウサマニ、ワケテモラエナイカ、きイテミマショウ」
「ぴいっ!」
「がう!」「メエッ!」
シラヒメの提案を遮るように甲高く鳴いたグリースと、それに同意したツイナにアレキサンダーの視線が向く。
普段と変わりなくつぶらで真ん丸な瞳だが、その中には弟たちを心配する気持ちがこもっていた。
「フタリデ、カリヲシヨウトいウノデスカ? キケンデハ」
「ぴいっ!」
「がう!」「メエッ!」
「ナニガアルカワカラナイノデスカラ、じュウブンキヲツケルノデスヨ」
「ぴいぴい」
「がうがう」「メエーッ」
シラヒメとアレキサンダーの心配をよそに、自信満々に頷いたグリースとツイナは森の奥へ向かっていった。
残された2人は手持無沙汰なため、しばし途方にくれる。
主人がいればその行動をサポートするなどの対応をとれるのだが、自分たちだけでは何ができるのだろうという疑問しかない。
シラヒメが自分の糸を織りはじめたのを見たアレキサンダーは、少し離れたところで妹に危険がおよばないよう警戒に努めるのだった。
空がオレンジ色に染まる頃、ツイナとグリースが戻ってきた。
持ち帰ったのはリンルフとフォレストスネークの肉が合計7つ。もちろん生である。
普段は主人が調理してくれた物をくれるため、しばし生肉を囲んで無言の時間が過ぎる。
それぞれがそれぞれの目を見返すという雰囲気に皆が耐えられなった時に、アレキサンダーが率先して動き出す。
シラヒメに生肉を自分の上に乗せてもらい、いつもの通りに体内で【炎魔法】を発動させる。
焦がさないようじっくりと、あふれる肉汁は余すところなく飲み干し、堅すぎないように焼いていく。
焼き上がった肉は均等になるように分ける。
アレキサンダーは2つ、シラヒメは2つ、グリースは1つ、ツイナは2つである。
ただ焼いただけの肉なので、ペットの食事としては無難なものだろう。生肉よりはましなのかもしれない。
だがここにいる4匹はすっかり調理した食事になれてしまっていた。
楽しそうに食事を振る舞う主人がいないだけで、もそもそとかじる肉はまったく味気ない。
シラヒメは人の体で食すのを諦め、蜘蛛の口に肉を押し込む。
グリースは小さくちぎってもらった肉を尾の蛇で丸呑みにする。
ツイナはひと口で飲み込むとその場に横になってふて寝を始めた。
アレキサンダーは肉を消化し終わると皆をツイナの近くに集め、かたまってただただ時間がすぎるのを待った。
彼らの主人が「おーいログアウトするぞー」と顔を出した時には、殺到したペットたちに押し潰されて顔面を舐めまわされたりしたのは当然のことだと言えよう。
アレキサンダー「ひま」
シラヒメ「ひまですねえ」
グリース「やんちゃしようぜ! 盛大にな!」
ツイナ「ペットとはどこにいくのだろう」「我思う故に我有り」




