115 クランハウスの話
半べそをかいたアランが友人たちに慰められ、グリースに「次は負けないからな!」と指を指して再戦を誓う?
その後、俺に鍛練の方法を聞いてきた。俺もその辺は詳しくないので、とりあえず自分でやっていたことを教えておく。
「まず一定距離のマラソン。腹筋を鍛える運動10回、腕立て伏せ10回、素振り10回」
「え? それだけ?」
「いや10日経ったら1回増やせ。マラソンは家一軒分距離を伸ばすだけでいい。別に5日ごとでもいいけどな」
俺の場合、2日で増やしていった(そう言われた)ら10年で半日で終わらなくなったからな。武道の型10セットが最終的には千うん百回とか、なにごとも限度は必要だ。
「えーそんなんで強くなれるのかよ」
「まあ一応目安みたいなものだからな。お前が毎日続けられるもんでいいんじゃないか?」
アランは考え込んでいたが「じゃあ明日っからやってみる! それじゃあなー兄ちゃん!」というだけ言って3人を連れて帰っていった。
「つか、今日からやれよ」
「んー。あの分じゃあナナシの言葉もあんまり届いてないんじゃないか?」
「ありゃ本人の根性をみるようなもんだからなあ。続かなかったら意味ねえし」
「ナナシはやったのか?」
「各種1500回を超えると半日で終わらんからなあ。師匠に確認しに行ったら「気づくのがおせえっ!」って逆に怒られたな」
「……マジかよ」
俺は後ろを振り向いて、そこに立っていた知人に向き直る。
「インフィニティハートは大規模襲撃対処中じゃないのかよ。アサギリ」
腕組みしながら立っていたアサギリは俺の質問に、バツが悪そうに視線をそらした。
「俺はちょいと用事でログアウトしていてな。戻ってきたら終わってた」
「用事?」
「トイレだ」
「ああ、うん」
まあ確かに、ログアウトしてトイレを済ませ、ログインすれば襲撃の時間は終わってるかもしれないな。SならいいけとDならなおさら……。
「おいナナシよ。違うからな!」
「違う? 何が違うと?」
「本当にトイレだったんだよ。襲撃に対処するのが、嫌だったわけじゃねーんだよ!」
「そこまで捲し立てずとも分かってるよ。インフィニティハートが臆病だとは思ってないからな」
そっちかと思いつつ、妙に焦った様子のアサギリをどーどーとなだめる。そういや何だって俺の後ろにいたんだ?
「で、俺になんか用か?」
「っと忘れてた! ナナシはスコピオの甲殻とか持ってねーか? うちの職人たちが欲しがっててなあ。持ってたら譲ってくれ! 頼むよ!」
「お前らのクランだったら砂漠まで取りに行けそうだが?」
「行くには行ったんだが暑さに負けた」
「ああ、なるほど。それなら幾つかあるから譲ってやらんこともない」
やっとインベントリの肥やしになっていた1つが無くなるよ。
他にも死蔵していた素材があれば、クラン職人の方で選別して買い取ってくれるそうだ。
俺はアサギリに誘われてクランハウスにお邪魔することにした。
通常他のクランハウスに入るには、メンバーの誰かにお客用パスを出してもらわねばならないそうだ。だがアサギリから渡されたのは半永久的に出入りを許可するというパスだった。
「え、いいのか?」
「いやあ、できればクランに所属してもらいたいが、ナナシはそういうの嫌がると思ってな」
「それはそれで受け取りにくいものがあるぞ」
「勧誘じゃねーって言ってるだろうが」
インフィニティハートのクランハウスはイビスにあった。別の街からはクランハウスに行ける扉があり、それは各街の冒険者ギルドで貸し出しているらしい。
それぞれのクランハウスに行ける扉がずらーっと並ぶ廊下があるそうな。
その扉も行けるのはクランハウスまでで、別の街からハウスを経由してイビスには出られないとのこと。よく出来てんな。
インフィニティハートのクランハウスの外見は2階建ての小さな店舗。2階が住居で1階が飲み屋となっている。外にぶら下げてある赤提灯には「焼き鳥処いんふぃにてぃはーと」とか書いてあった。
内部の空間は(金銭で)拡張が可能。クランメンバーが集まるのは地下らしい。
1階の焼き鳥処はカウンター5席くらいしかなく、店員もいない。見せかけだけであった。
一応住民を雇っておけたりはするそうだが、そうなると材料を揃えたり儲けるための価格設定をしなけりゃならんので放置しているそうだ。
その辺が出来る人材が入るまであのままらしい。もったいない。
地下に降りると、長いテーブルが4列くらい並んだ食堂のような場所だった。端から端まで人でいっぱいである。見るかぎりでは40人以上はいそうだ。
インフィニティハートのメンバーってこんなにおったんかい。
「あ、マスターおかえりなさーい」「かえーり」「おつかー」「お疲れ様でーす」「マスターどこいってたのー?」「うさー」「襲撃大変だったんだぞー」「なぜいねえ」「ちくせう」エトセトラエトセトラ。
入った途端にかけられる声が凄いありさまである。さすが攻略組というべきか。人望はあるんだろう。みんな楽しそうだし。
後に続いて大丈夫かと思ったらアサギリが「お客さんだぞー」と言いながら俺たちを招き入れた。
一瞬しーんとなったあとにワッと沸いた。
「「「「ビギナーさんだー!」」」」「赤玉ちゃんだー!」「うおおっもふもふキター!」「アラクネちゃんキター!」「うわあ……」「あれがキマイラかあ」「マスター、フレンドてマジだったんだな」「おーナナシよく来たなー」「大丈夫かうちに連れてきて。ビギナー教に目をつけられたりしない?」「信者怖い信者怖い信者怖い」「ちょいと触らせてもらえないかなあ」
なにやら凄い言われようだ。
何人かが「キマイラちゃん触らせて!」と来たが、シラヒメが「カマレマスヨ」といったら、そっちに驚かれた。
「キエアアア! アラクネちゃんがシャベッタアアアアア!?」
「殴っていいかな?」
「ひぃっ!?」
なんだかシラヒメを馬鹿にされたような気がしたので、拳を握ったら脱兎のごとく逃げていった。
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