112 引っ越しの話
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
ダンジョンを出てから、取ったアイテムをカーボと分ける。
俺は魔石くらいしかいらないけどな。
不要なアイテムは俺が商業ギルドで売却して、お金はカーボと半分ずつにする。
矢の束5個と特殊矢はカーボからエトワールに売ってもらい、得た金額を折半することになった。
肉類は俺がもらい受けた。その代わりにカーボには調理済みの肉を渡す。
こっちはミノタウロスから出たミノタウロスのハンティングトロフィー(壁に飾るトナカイの首だけとかのたぐい)を競売に出しておく。
儲けたらそれもカーボと折半しよう。
カーボは短剣のスキルの他、盗賊レベルが8もあがったらしい。すごく喜んでいた。
SPは全部走る系のスキルに突っ込むようだが……。
いや、俺が口出しすることじゃないからいーんだけどよ。
こっちは俺が2レベルアップして22と、【鉄拳】【カウンター】【蹴り】【剣】とかの戦闘系スキルがそこそこ。
【剣】は金属バットで上がってるようで、変化したらメイスになるやもしれん。
あとスキルに【苦痛耐性】が増えていた。腕のアレでついたのかねえ。
【観察】がレベル50で打ち止めになってたので、SP1使って【看破】に変化させた。
ペットたちは少しだが上がっている。アレキサンダーが6レベルでシラヒメが4レベル。グリースも22レベル。ツイナも6レベル。
グリースはまだ雛のようだ。大きさは変わらないみたいだけど。
カーボはクランに合流してからホースロドに行けるようにするというので、そこで別れた。
アルヘナたちはベアーガにいるそうで、矢のことは知らせておく。
面倒なのはヘーロンでのコイン集めだろーな。
どうも顔役の個別クエストが数日の時間を空けないと発生しないらしい。
住民でコインをもらえるクエストは、誰かが1度クリアしたらそこで終わってしまうようだ。
あとは冒険者ギルドのクエストにあるらしいが、イビスとヘーロンを行き来して書類を出さねばならないのだとか。
これも1日に受けられる数が制限されているようで、プレイヤー内でやりたくないクエスト1位になってると聞いた。
SP28あるので魔法の威力を上げるやつを取ろう。スキル取得リストに【○○強化】が幾つかでている。
ステータス上げるスキルはSP9で取れる。魔法の威力を上げるなら【知力強化】が有効らしい。むう【筋力強化】もいいな。
【魔法強化】はⅠとⅡがあるようだ。こちらはSP12である。
「うーん。ツイナもいるし、そこまで重点的じゃなくてもいいか……」
「がう?」「メェ?」
ライオン頭とヤギ頭を揃って傾げるツイナ。
アレキサンダーが「ボク役に立つよ」みたいにぽよんぽよんと高く跳ねれば、短い翼をぱたぱたと振ってグリースも「ぴいぴい」と鳴き始めた。
シラヒメは片手をシュビッと上げて「ハイハイ! ワタシモオトウサマノヤクニタチマス!」と言う。下半身の蜘蛛も「シューシュー」鳴いてんだけど。
街中なもんで、どこからか「「お父様」だとうっ!?」とか「なにイイィッ!?」とか妬む声も聞こえたが、見なかったことにしよう。
悩むに悩んだが【知力強化】と【腕力強化】を取ることにした。18使って残り10だな。今回は称号が発生しなかった。
前に得た知力の指輪だが、これはシラヒメに丈夫な糸を作ってもらう。それを通したネックレスをツイナのヤギ頭にかけておいた。
さっき取れた【ミノタウロススレイヤー】は牛系の魔物と動物にダメージ倍のようだ。今のところ、ミノタウロスとレッドカウ以外にはいなさそうだが。
【知力強化】とったら、知識系スキルが大量にリストに上がってきた。【モンスター知識】が混じってんだけどどうするかねえ。
商業ギルドへ行って生産部屋を使う。
たまには凝ったものを作りたいのだが、インベントリに限界があるからなあ。拡張するには金銭的に厳しい。
軍事行動に交じって褒賞金を狙ってもいいが、長期に留守になるから。これもボツだ。
バージョンアップにより、商業ギルドで取り扱う調味料もふえていた。
千切りキャベツの牛丼にでもしとこう。米が欲しい……。
先日見つけた地下通路まで行き、鐘のあるドーム部屋でオールオールにメールを飛ばす。
ほどなくしてオールオールが姿を現した。
「どうしました? ナナシさんに相談があると言われても、まだ知り合ったばかりですので、役に立てるかわかりませんよ」
「よお、先日ぶり。相談というか提案? イビスの北にダンジョンあるじゃねえか。あそこに移住しないか」
「ちょっ、ちょっと待ってください! いきなり移住と言われても困りますよ!」
「最下層に開閉できそうもない扉があったんだよ。【ダンジョンマスター】のスキルなら開けられるんじゃないかなと思ってな」
「いきなりそう言われましても。そうそうここを放棄する訳にもいきません。まずは神様におうかがいを……」
慌てていたオールオールだったが、反論していたらだんだんあっけにとられた表情へと変わっていった。
目の動きから何かの画面を見て、驚いているようだ。
落ち着くのを待ってから声をかけると、溜め息を吐いて肩を落とした。
「『面白そうな話なので放棄を許可する』という神様からのメールでした……」
「それはそれは……」
逐一下界を観察してんのか、ここの神様は。また違った意味で憐れな話だなあ。
「ここって【ダンジョンマスター】がいなくなったらどうなるんだ?」
「中枢に入れるのが僕だけなので、休眠状態にします。鐘があるのでモンスターは出入りできませんが、中に囚われたままですね。誰かが入り込んじゃったら、ご愁傷さまという感じです」
一度戻って荷物を回収してきたオールオールを伴って、イビス北のダンジョンへ向かう。
「最下層まで行かないとダンジョンコアにアクセスできませんが、生憎と僕はまともに戦闘ができませんよ」
「大丈夫大丈夫。うちの子たちは優秀だから」
おどおどと着いてくるオールオールを守れとアレキサンダーたちには言っておく。
隊列はアレキサンダーとツイナが最後尾にずれるだけ。先頭は俺、シラヒメに乗るグリース。オールオールときて、ツイナに乗るアレキサンダーである。
オールオールは出てくる敵をつぶさに観察したり、階層ごとに特徴をメモったりしながら着いてくる。
「ここならプレイヤーがひっきりなしに入ってくるから、ポイント? ってのが貯まるんだろ」
「そうですね。これならすぐに階層を増加することも可能かもしれません」
「へえ、面白そうじゃね」
地下5階のミノタウロスもあっさりノシて、問題の扉がある壁まで案内する。
スキルを取った影響か、ダメージの通りがよかった気がする。一応試してみたが、閉鎖空間では【城落とし】は稼働しなかった。
どうやって開けようかと考えていたが、オールオールが手を触れたらあっさりと横にスライドした。自動ドアか。
俺は入り口から中の様子を窺うくらいに留める。
「どんな感じだー?」
「主無しの休眠状態ですが、このポイント量なら今すぐにでも2階層くらい増やせると思います!」
「そりゃすげえな。是非とも頑張ってくれ」
エールを送ると申し訳なさそうな顔のオールオールが戻ってきた。
「ナナシさんは何故ここまで僕の環境を整えてくれるんですか? ユニークスキル仲間だからですか? それとも他の要因があるんですか?」
「うーん。ノーリスクだと騙されてる気にはなるかー。半分はそのユニークスキルがもっと強くなれるんじゃないか、というお節介かな。もう1つはサシで殴り合いができる敵を頼む!」
「は!?」
リアルだと相手に困るから人型の練習相手が欲しいんだよな。そんな訳でよろしく頼むと伝えたら、一拍のあと爆笑された。
「わかりました。厳選して相手を配置しておきますね」
「ああ、よろしく」
ガッチリ握手を交わしその場は別れる。
さてさて楽しみだねえ。ミノタウロス以上のものがいればいいんだけど。




