111 称号の罠の話
うん。ぶっちゃけて言えば。
「弱っ」
「手加減しなくなったナナシにいちゃんの敵になるようなモノはいないと思うっす」
スケルトンの剣持ちと弓持ちは【観察】+【急所攻撃】で赤く見える部分はあっさりと分かった。
赤い石が肋骨の内側にあったので、そいつを粉砕してしまえば骨は活動を停止する。
通路の奥からいきなり飛んでくる矢に手子摺ったが、懐に入ってしまえば対処は楽だ。
最初は近接して腕か足の骨を折ろうとしたんだけど、折った端から元に戻るので諦めた。
敵が骨だと、籠手よりトンファーか鉄製の棒の方がやり易い。金属バットはうるさいだけで、威力は微々たるものだ。
なのでセキシャの棍が大活躍である。
魔法の方が効きやすいみたいだが、俺の使える魔法はアースポットとアースアロー、あとはウォーターアローくらいしかない。
ツイナが撃ったほうがまだ威力は上なのには参った。
相手が魔法生物だからなのか、エナジードレインは効果なしである。
どうもヌンチャクを振り回していると「ほあちゃー!」とか口走りたくならないか?
「ならないっす」
「そーか」
ちなみにやってみたいというのでカーボに貸したところ、自分の頭を強打したので没収した。痛覚設定も20%くらいしか入れてないらしい。
股間に当てるお約束をしないだけマシだったが、頭を抱えてしばらくうずくまっていた。
ドロップ品はここも魔石ばっかりだ。時々錆びた剣も落とす。これはいらないので放置する。
弓持ちは鉄の矢1束(10本)を落とすからツィーさんに売ろう。最終的には5束にもなった。
そしてレアだと思われる爆裂の矢が1本。氷結の矢が1本。
爆裂の矢は対象に当たったら爆発する。氷結の矢は当たったところを中心として、直径1m範囲内が凍りつくらしい。
カーボは助走を長めにとって飛び膝蹴りとかやっていた。
だが防具側の問題か、逆に膝を痛めていたので、プロテクターが必要なんじゃないかね。
攻撃をやるまでは絵になるんだ。やるまでは。
アニメでいえば、疾走してジャンプして「ガッ!」と敵に攻撃が決まる。だが次の瞬間にはカーボが「痛いっすー」と膝を抱え、スケルトンがキョトンとしているという。
ギャグか……。
一応ペットたちも善戦しとった。アレキサンダーはそもそも【物理攻撃無効】だからみんなの盾として。
グリースは相性最悪。相手が骨では毒も効かない。だから【腐蝕の視線】で剣を使い物にならなくさせるか、矢を弱体化させるか。
シラヒメは毎度の如く、網を投げて絡めとっていた。
意思がある相手でない分、焦ってもがくようなものでもなかったので、足元に糸を張って転ばせる戦法にすぐ切り替えた。
ツイナは最初に魔法ばっかり撃っていたが、途中からシラヒメが転ばせた骨を押さえつけてカーボと一緒に殴る蹴る。
アレキサンダーがツイナに体を震わせてぷるぷると話しかけたらあの行動だもんな。カーボへの促しはシラヒメからだし。
ここまで俺の指示一切なしである。いつも思うけど、どんなAI積んであるのかね、うちの子たちは。恐ろしいやら頼もしいやらだ。
魔法に偏る訳ではないが、【城落とし】も魔法だ。威力はよくわからんが、物理攻撃オンリーなものでもないらしい。
ここはひとつ【城落とし】の威力アップのために魔法威力増加系スキルをとるべきか?
ここを出てから考えるか。今なら魔法系のスキルを2つとってもSPは余る。
この階の階段を降りると、地下5階のボス部屋だそうだ。この話は嵐絶のジョンさんに確認したので、間違いはない。
「えええっ! ナナシにいちゃん1人で戦うっすか!?」
「とりあえず力試し的な。俺がピンチになったら全員で攻撃」
「ぴいっ!」
「それなんかセコくないっすか?」
「いや、倒されてもいいんだが。目的はこの階にたどり着くだけだしな。ただ俺が死ぬと、ペットたちもいなくなってカーボが1人で取り残されるが、それでも構わないなら……」
「いーえ! ナナシにいちゃんが不利になったら全員で不意打ち賛成っす! 推奨するっす!」
「んじゃ、アレキサンダーたちもそういうことでよろしく」
ぽよんと、アレキサンダーが跳ねて、他が頷いた。だれか1人でも駄々捏ねるようなら全員でやろうと思ったが、なくてなによりだよ。
( 間 )
ピロリン
━━称号【ミノタウロススレイヤー】を取得しました。
「思ってたより弱かった」
「あんな、目に見えない速さで振り回される斧をホイホイ避けるのは、ナナシにいちゃんであればこそっすね」
もの凄い呆れた目で肩をすくめるカーボである。
「あんなん膂力頼りで振り回してるだけじゃん。見切ってしまえばなんてことはなかった」
「あんなの見切れるの、ナナシにいちゃんかアルヘナちゃんだけっすよ」
「試しにこっちで粉塵やってみたが、龍姉みたいに真っ二つにはならんかった」
「首が飛んだじゃないっすか。あれだけ威力あれば充分っすよ」
「スキルを上げればできるとみた」
「駄目っす。ナナシにいちゃんの言動が完全に脳筋のそれっすよ」
階段付近で見ていただけのアレキサンダーたちを順ぐりに撫でてやる。
何かないかと部屋を見回していたら、俺たちの頭上にクラッカーのエフェクトがぱぁんと弾け、『初心者ダンジョンをクリアーしました! おめでとうございまーす!』というアナウンスが部屋中に響き渡った。
「初心者ダンジョンだったのかここは。知らなかった」
「ナナシにいちゃんに対してだけは“初心者”だったと言えるんじゃないっすか?」
なるほど、それで20レベルの俺でも対処が楽だったのか。
たしかに砂漠のピラミッドダンジョンの方が上級者向けって気はするもんな。
「途中なんか腕をザックリやられてなかったっすか?」
「反らすタイミングがちと狂って骨までいってたが、ポーションで完治したぞ」
ほら、と左腕を上げるとカーボが苦虫を噛み潰したようになる。もうスプラッタじゃねえから平気だって。
「痛くなかったんすか?」
「ものスゲエ痛かったぞ。気にすると動きが鈍るから耐えてただけで」
生身で受けた傷並みに痛かったんだが、痛覚50%の痛みかねあれは?
カーボに断ってステータスを確認する。痛覚の表示は50%だったんだが、その横に(+25%)て表示されてんのは何なんだ?
称号を順にチェックしていくと【ミノタウロススレイヤー】はまだいいとして、【ゲヴラーの関心】が祝福に変化していた。
説明文には祝福で戦闘全般のボーナスが25%になった分、痛覚にも相応に足されるというデメリットが増えている。
これ年齢制限かかってないみたいだねえ。いいのかな。
あっ!?
もしかしてこの前のPVPの時、相手プレイヤーにもこれ適用されてたんじゃないだろうな……。
ずいぶん痛がるからおかしいと思ったが、悪いことしたなあ。
帰る前に部屋の中をぐるりと確認しておく。部屋自体は多目的ホール並みにでかいけど、ミノタウロスしか居なかったんだよなあ。
中央に降りてきた階段があるけれど、これミノタウロスとの戦闘で傷一つつかなかったんだよな。
他には部屋の端に地上直通用の転移ポートがあるくらいだ。
逆側の壁には隠された扉があったが、開けられそうにもないのであきらめた。
ふんふん。
ますます望みが出てきたぞ。
ミノタウロス倒したプレイヤーってすぐ帰っちゃうらしいしな。
ジョンさんにも聞いたがここでドロップ品以外に何かを見つけたという話も無いようだ。誰も事細かに部屋を調べた様子もなさそうだ。
次はオールオール誘って来よう。ここに住み替えてもらえれば、もっとレベルがあがってダンジョンの階層も増えそうな気がするんだよね。
楽しみだねえ。
ストックがやばーい。




